【海外センターレポート・ブラジル】高等教育機関におけるCOVID-19感染の影響

 
 新型コロナウイルス感染拡大の影響は世界各地で、感染者や死者数の増加にとどまらず、様々な経済セクターに表れています。社会的隔離が感染拡大の抑制に最も効果的との認識の下、各地で様々なレベルの種々の規制が強いられています。不要不急の商業活動を規制し、必要不可欠なサービスのみ認めるという政府の方針により、経済活動の著しい不振とそれに伴う社会全体への影響が指摘されています。

 
 収入が減少した、または途絶えた民間高等教育機関の学生の中では、学費の支払いができず、学業継続のための経済的困難に見舞われやむを得ず退学するケースが少なくありません。実際に、サンパウロ州高等教育機関維持団体組合(SEMESP)の統計によれば、民間の高等教育機関の債務不履行が4月1日から15日までに前月比で71.1%増え、同期間に学費の支払いができなかった学生は少なくとも4人の1人の割合に上りました。 *1)

 
 これに伴い、ブラジルの高等教育への連鎖的影響が生まれます。所得の減少で家計が打撃を受け、不可欠でない支出は抑えられることで大学への学費納入が行われなくなり、収入減に見舞われる大学は人件費や運営費を捻出できなくなります。それに伴い、ブラジルでは常に問題とされてきた教育の質や知識創出にさらなる悪影響が及び、有能な人材の輩出が行われなくなります。

 
 通学制から通信制に切り替えて講義を継続する教育機関もある中、学生の間からは、通信授業の場合は維持費が少ないために学費もその分安くすべきではないかとの声も上がっています。他方で、大学側は通信授業を行うための投資に加え、通信制でも通学制と変わらない人件費や運営費を支出せねばならず、学費の割引をすべきという学生側の主張と、学費を維持するとする大学側の立場があります。

 
 社会が未曽有の危機に直面する中で、最良の方法は、誰にとっても困難な状況であることを認識してケース毎に交渉し、いずれの側の必要も満たすような妥協案を模索することですが、それは決して容易ではありません。ある民間の中等教育機関は全学生の学費を値引きしたものの、金銭的余裕がある家庭は、経済的困難に見舞われる学生のために、学費を全額支払うことにしました。もし、このような例が高等教育機関においても見られれば、以後数ヶ月の状況は好転する可能性もありますが、今後の展望は全く未知数です。


1) CRUB: Impactos do Covid-19 no ensino superior: evasão e inadimplência

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
大学・研究機関の基本的役割 教育
学生の経済的支援 学費