【海外センターレポート・ブラジル】国家科学技術開発審議会(CNPq)について

 
国家科学技術開発審議会(CNPq)が廃止される可能性があることが明らかになったことで、2019年8月は、ブラジルの学術研究関係者にとって先行き不安が覆う月となりました。
 
科学技術イノベーション通信省(MCTIC)傘下の連邦政府機関であるCNPqは1951年に創設され、国の主な学術振興機関としての役割を果たしてきました。
 
CNPqは、従来から予算の削減に見舞われており、今年9月にはついに予算がゼロという事態になりました。従って、大学や研究機関に所属する研究者への8万件以上の奨学金の支払いが不可能となります。
 
これまでに、奨学生の新規の募集が一時停止されたことはあったものの、現役の奨学生への奨学金支払いの打ち切りという、本来あってはならない事態が9月から現実になる可能性があります。多くの奨学生、特に、研究活動に専念している大学院生にとっては、奨学金の給付が打ち切られるということは、研究、ひいては生活の資金源が絶たれることを意味し、研究によって生計を立てることが不可能となります。*1
 
この状況を受け、学界においては、政府が学術研究、イノベーション、さらには国の発展への投資を等閑視しているように映っているとして、深い失望と怒りの声が上がりました。
 
サンパウロ大学生物科学研究所のアントニオ・カルロス・マルケス正教授は、「国の学術研究へのインパクトは計り知れない。学生への奨学金給付を基本とする国の研究費助成制度を破壊することで、将来、ブラジルは国の学術・科学的な自律を失うという代償を支払うことになる。すなわち、新たな科学的知見を創造することにとどまらず、その新たな知見を社会に還元する人材の育成ができなくなることを意味する」と話しています。*2
 
サンパウロ大学の学部長らは連名で、「少なくとも今年末までは現役の奨学生に奨学金を給付できるよう、何としてもCNPqへの補正予算が組まれるべきである。様々な種類の数多くの奨学金が突如として中断されることで、若い研究者が路頭に迷わされるようなことは、あってはならない。この問題を速やかに解決し、国の学術研究への助成金制度の安定を保障するためのあらゆる努力がなされるべきである。CNPqはブラジルの経済・社会的発展を支えるという重要な役割を担っている。従って、CNPqが、学術研究を助成する中核機関としての地位を取り戻すための条件を備えることは不可欠であり、このための施策は、他の連邦・州立機関の人材育成のための施策と共に実施されるべきである*3」とする声明を出しました。
 
現在、ブラジルの学術研究の将来は、非常に危機的な状況に晒されているといえます。
 
2019年8月30日
 
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人
 
*1*2 Jornal da USP:Sem dinheiro, CNPq deve suspender pagamento de bolsas
 
*3 Jornal da USP:Manifestação dos pró-reitores da USP em apoio ao CNPq e contra a sua extinção

 

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
大学・研究機関の基本的役割 研究
学生の経済的支援 学生向け奨学金
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