【国際協力員レポート・イギリス】英国の大学における研究支援体制

 

 昨今の日本での研究を取り巻く環境は厳しい。世論は毎年のように日本人研究者のノーベル賞受賞に沸いているが、どの受賞者も日本の研究環境、とりわけ研究費をめぐる厳しい状況について警鐘を鳴らしている。2000年頃から研究費の集中配分が開始され、さらに2004年に国立大学が法人化されてから、運営費交付金の配分額は年々減少を続けている。大規模大学から地方大学や小規模大学までどの大学も厳しい財政状況に置かれ、研究力の低下が危惧されている。
 

 それでは英国の大学の状況はどうだろう。ノーベル賞受賞者(自然科学系)の数が米国に次いで多く、科学技術を牽引している印象のある英国だが、GDPに対する研究開発費への支出は1.66%程度と他の先進諸国と比較して少ない(表1)。英国政府は2027年までにこの割合を2.4%まで引き上げることを目標としている。ここでいう研究開発費には、大学等高等教育機関の研究費だけでなく企業の研究開発費なども含まれているため、この数値をもって一概に英国政府の大学に対する支出は他国と比べて少ないと言うことはできない。しかし、このデータを企業と高等教育機関の支出に分けてみても、企業の支出が年々増加しているのに対して、高等教育機関の支出はここ数年ほぼ横ばいとなっており、英国政府の大学に対する支出は他国と比較しても際立って多いとは言えないことがわかる *1)
 

表1 主要国の研究開発費と対GDP比(2017年) *2)

研究開発費(単位:百万米ドル) G D P 比
英 国 43,217 1.66%
米 国 483,676 2.79%
中 国 444,755 2.15%
日 本 155,090 3.21%
ドイツ 110,642 3.04%
フランス 55,512 2.19%

 
 しかし、このように比較的少ないインプットにもかかわらず、多くの世界大学ランキングデータにおいて上位に名を連ねる英国の大学が多数あることからもわかる通り、英国の大学は世界で高い評価を受けている。英国の科学論文数の世界に占めるシェアは2014年から2016年の平均で4.2%であり、世界第5位となっている。他の論文から引用される回数の多い論文であるトップ10%論文に限ったシェアでは、米国、中国に次いで6.1%と世界第3位であり、質の高い研究成果を上げていることがうかがえる。

 
 英国の大学では資金調達力が大事である―これは、以前ケンブリッジ大学の日本人教授がある雑誌のインタビューで指摘していたことである。英国の大学ではもともと収入に占める外部資金の割合が日本よりも大きく、近年さらに増加傾向にある。また、日本における科研費のような国内の競争的資金以外に、EUファンディングや公益財団、チャリティー等外部資金源が多様である。英国では研究活動に対する助成として、高等教育財政審議会(HEFCs)およびリサーチ・カウンシルを通じて分配するデュアルサポートシステムが1992年に導入された。このように英国は早くから外部資金を受け入れ、また、この必要性を認識していたと考えられる。このことから、英国では外部資金を扱うノウハウが長い間蓄積され、研究支援のエキスパートが養成されてきたのではないかと推察される。そのため、英国の大学の研究支援システムの仕組みや研究支援スタッフの役割を知ることは、日本の大学の研究支援体制の向上に有益であると考える。本稿では、2章において外部資金等の研究費の状況を日本との対比で示し、3章にて研究支援担当者および研究者へのインタビューを通して英国の研究支援体制について明らかにし、そのうえで日本の研究環境の現状を踏まえながら、日本の大学における研究支援体制について考察する。


*1) 「OECD Gross domestic spending on R&D」によると、2014年から2017年にかけて企業の支出は約15%増加しているのに対して、

   高等教育機関の支出は約2%の増加。
*2) 「OECD Gross domestic spending on R&D」を基に筆者作成。

 
報告書全文はこちらから閲覧可能(PDFファイル:約0.5MB)
 

【氏  名】  松村 麻美(まつむら あさみ)
【所  属】  大阪大学
【派遣年度】  2019年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン研究連絡センター

地域 西欧
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 組織・ガバナンス・人事
大学・研究機関の基本的役割 研究
人材育成 若手研究者育成
レポート 国際協力員
研究支援 研究助成・ファンディング