【ニュース・中国】高得点の受験生が増加 点数主義の人材選抜に陰り

 
北京市の高校入試が始まった日、一部に数学の問題が難しすぎるという声があがった。そこで、やはり大学入試の初日に同じく数学の問題が難しすぎるという「非難」が世間で巻き起こったことを思い出した。
 
高校・大学の入試は難しくなったのだろうか。大学入試終了後に世間の議論に巻き込まれた経験を持つ南京師範大学付属高校の葛軍校長は、ネットユーザーからの質問に公開で回答し、次のように話した。「今の大学入試の数学はどんどん難しくなっているのか。私はそうは思わない。逆にどんどん易しくなって差が付きにくくなり、1点の重みが増してしまった」
 
7月の酷暑も去り、高校・大学の入試も終わりが近づいた。合格か不合格か、どこに受かったか受け入れ納得しても、徐々にあのときもっと点数を取れていればという後悔に変わっていく。しかし、喧噪が過ぎた今、試験そのものの科学性や有効性を検証し直すべき時がきた。高校・大学の入試という人生を左右する試験の適切な難易度については、常に討論し研究する価値があるのだ。
 
選抜試験は平均化・容易化・定型化という罠にはまる
 
近年、多くの地区で「点数インフレ」現象が起きている。2018年、河北省で700点以上をマークした受験生は122人に達し、数学だけでも満点が150人を超えた(文理合計)。
 
同様の状況は高校入試においても見られる。
 
高得点の受験生が増え、点数による人材選抜の意義が低下
 
6月25日、全国の大部分の省(直轄市・自治区)で大学入試の各合格ラインと「1点ごとの人数」が公表された。大まかな統計によると、今年の全国大学入試の志願者数は1,031万人と過去10年で最高を記録したほか、一部の省では600点以上の高得点者数も空前の数に上ったという。
 
四川省の大学入試での理系の成績を例にとると、今年700点以上取ったのは182人、660点以上は5,561人にも達し、630点以上の受験生は2018年より6,047人増え1万6,000人を突破した。
 
広西チワン族自治区では、2019年の大学入試において理系のトップが730点と、広西チワン族自治区における史上最高点を記録した。この受験生は、数学と英語は満点、国語と理科総合でそれぞれ10点減点されただけだった。
 
近年、多くの地区で「点数インフレ」現象が起きている。2018年、河北省で700点以上取った受験生は122人に達し、数学の満点は150人を超えた(文理合計)
 
同様の状況は高校入試においても見られる。2017年の北京市高校入試では、あるトップレベルの学校の合格点は580点満点(体育40点分を含む)で563点に達した。計算すると、合格するには1科目あたり3点以上落としてはならないということになる。2018年の得点競争はさらに激しくなり、英語だけでも満点は129人に達した。
 
受験生全員が高得点なら点数のふるい分け機能はどんどん低下し、得点競争は激しさを増すばかりになる。今や受験は1点1点の争いではなく、コンマ何点の争いになってしまった。
 
選抜試験のレベル化、簡易化、定型化の背景
 
以前の高校・大学入試はこうではなかった。選抜試験としての能力は顕著だった。つまり、学業が優秀か否かで得点差が非常に大きく、1位と2位の差も少なくなかった。過去の高校・大学入試では満点を取る者はごく稀だった。
 
では、今日の状況はどのように形成されたのだろうか。
 
1990年代から大学入試に代表される各入学試験に批判が集まり、試験問題の難しさが直接的に影響して学生の負担を大きくしていると認識されるようになった。こうした世論に押され、各選抜試験は難易度を下げ批判を避けようとした。高校・大学入試の試験問題はこうしてどんどん定型化、固定化されるようになり、TOEFLやIELTSのように平均化し、選抜試験という性格からどんどん遠ざかっていった。
 
同時に、近年はアメリカの学生募集方式を盲目的に提唱したり模倣しようとしたりする動きが目立つ。実際は、試験ごとにその位置づけや目的・効果・役割は異なる。単に機能の面から言っても、適性試験と選抜試験は大きく異なる。原則として、適性試験は相対的に難易度が低い。能力を測るという角度から見ると選別能力が低く粗く大まかなレベル分けをするに過ぎない。しかし選抜試験は優秀な人材をより分け、選抜するためのもので、選別能力が高くきめ細やかでなければならない。そして、我々にも馴染みの深いアメリカの各種試験はほとんどが前者だ。アメリカの大学入試SATは実際には中国の高校レベルの試験、アメリカの高校入試SSATは中国なら中学レベルの試験だ。同様に、TOEFLも語学の能力試験である。
 
アメリカで適性試験が主流なのは、入学試験制度に合わせているためだ。つまり、適性試験は一種の基礎学力評価であり、学校側はこれを基に学生に対して総合評価を行って合否を決める。したがって、試験の成績はあくまで基礎であり、合否判定の唯一の根拠ではない。しかし中国では違う。たとえ総合評価といった形式を増やしても、最終的にはやはり得点という唯一の確実な根拠に戻らざるを得ない。そのため当然ながら、盲目的にアメリカ式の適性試験を導入してもうまくいかないのである。
 
選抜試験の選別能力低下は、人材選抜機能を破壊する
 
進学試験の容易化・平均化は、中国の教育にとって弊害が利益を上回る。高校・大学の入学試験問題は、平均化、簡易化、そして固定化の傾向を早急に改め、選別能力の強化に踏み出さなければならない。試験問題は、要求する知識も出題形式も毎年の変化を大きくして重複度を最大限減らし、全ての人が過去問を思い出すのではなく実力で解答できるようにしなければならない。そうしなければ、詰め込み教育の弊害も学生の負担も減らない。考えてみてほしい。もし試験問題が難しくなり、「何年も変わらない出題」が少なくなれば、今のように膨大な試験対策が必要だろうか。試験が簡単でも難しくても、全ての受験生にとって公平になれば、保護者も学生もそれについて焦る必要はなくなるのだ。
 
現在の高校・大学入試で見ているのは学生の能力ではなく、いかに点数を落とさないか
 
試験の容易化・平均化・定型化は試験の選別能力を大幅に低下させ、人材選抜機能を完全に破壊してしまう。中国では総合的資質評価を取り入れるなど、学生選抜方式の改革が絶えず進められている。しかし、様々な現実問題と公平性の確保という強い要求の下では総合的資質評価は「参考要素」に留まってしまい、進学試験の多くは最終的に得点という確実な尺度に戻ってしまう。そうなると、平均化・容易化・固定化された試験は受験生の得点がどんどん上がり、選別能力がないか選別能力が極端に低くなってしまう。人材選抜における意義が低下し、ときには意図とは逆にトップレベルの人材ではなく中位の人材を選抜する結果になってしまうことすらある。
 
そのため、名門校の一部は統一試験の得点に依拠するのをやめ、個別の学生募集を行い、他の尺度で選別能力の乏しさを補うようになった。2017年は浙江省の新大学入試の初年度だった。清華大学の学生募集計画の多くは大学入試の得点だけを見るのではなく、三位一体判定を継続した。統一試験の得点60%、高校の内申書10%、清華大学自身の評価30%という割合で行う三位一体判定の割合は、2018年には90%を超えた。理由は単純で、大学入試の得点だけを見ていたのでは清華大学にとって優秀な人材を選び出すことができないからだ。2019年、清華大学の三位一体試験場では多くの受験生が終了時間を待たずに解答用紙を提出した。大きな理由の一つは試験の難しさだった。望みがないと悟った多くの学生は、潔く早めに解答用紙を提出し、午後の他の大学の試験に備えようとしたのだ。ある女子学生は記者の質問に対し、「本当に難しかった。見たことのないタイプの問題だった」と答えている。
 
高校・大学入試が簡単になればなるほど、保護者と受験生は学力を誤解する
 
高校・大学入試の得点が全体的に底上げされ、特に高校入試が得点インフレ傾向にあると、保護者と受験生の多くが自身の能力を誤解し盲目的に志望校のレベルを上げてしまう結果になる。例えばここ数年、北京市では高校入試の選別能力が機能しない中、トップレベルの高校とそれに次ぐレベルの高校の合格ラインはほとんど差がなくなってしまった。そのため多くの保護者が、自分の子供は実はとても優秀でひょっとすると超一流大学に入れるかもしれないと誤解し、必死で塾に通わせ目標までのあと一歩を達成しようとする。客観的に見れば、教育の劇場効果に拍車がかかった状態なのだ。
 
それゆえ、高校・大学入試の難易度が増し得点差が開くようになれば、プラスの効果として一部の保護者と受験生の目を覚まし、ひたすら塾に通い訓練して名門校を目指すのではなく、自分に適した道を選ぶようになることが期待される。
 
試験の容易化・定型化は学習を問題の形式暗記と繰り返しに変え、学生の学力低下を招く
 
選抜試験の容易化・平均化・定型化は、詰め込み教育の奇形的発展を強化し推し進めることにもつながる。選抜試験はいわゆる安定を追求するためのものになり、各地の高校・大学入試で出題される問題のタイプは何年もほとんど変化がない。数学なら違うのは数字だけという具合だ。しかも、ほぼ全員がこの出題形式に慣れてしまっている。今年の大学入試の数学は、出題形式が例年とやや違っていただけで多くの受験生と教師が難しかったと嘆いていたのもうなずける。
 
このような試験で良い成績を収めるために必要なのは、間違いを犯さないことだ。どうすればそれができるか。訓練、ひたすら訓練を繰り返すことだ。これが、全国にはびこる詰め込み教育を排除できない大きな理由の一つであり、勉強とは問題を繰り返し解いて形式を暗記することになってしまう。なぜなら、そのような重複訓練が点数を上げるために効果的だからだ。また、選別能力が低下することで、たった1点を争うことが普遍的で現実的な問題になっている。たとえ北京のような受験生が7万人未満の状況でも、高得点ゾーンでは同じ点数に数十人、時には百人以上が並ぶ。受験生の多い省なら高得点ゾーンには同じ点数に200~300人から時には1,000人近くが並ぶが、一方、一つの高等教育機関が現地の学生に割り当てている募集枠はたかが知れている。逆に低得点ゾーンのほうが、1点に数人しかいなかったりするのだ。
 
中国ではまだ総合資質評価の全面実施が実現できず、ほとんどの学生が試験の成績のみで合否判定されるしかない。そんな中で、選抜試験が平均化・固定化することは、逆に詰め込み教育の強化につながっている。問題の形式を暗記することの効果は明らかで役に立つからなのだ。
 
2019年8月8日
 
青塔:高分考生越来越多 靠分数选拔人才的价值正在变弱
 

地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 政府レベルでの取組
人材育成 入試・学生募集
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