【ニュース・中国】非全日制大学院生が就職差別に? 院生育成は社会全体の理性が必須

 
「2019年全国大学院生募集調査報告」によると、2019年の全国の大学院修士課程の出願者数は290万人に達し、伸び幅が過去10年で最大となった。これとは別に記者の調査によれば、大学院入試の出願者数が毎年過去最大を更新する一方、非全日制の学生は多くの高等教育機関で依然、定員割れしているのが現状だ。なぜ非全日制大学院生の出願者数は全日制の大学院生を大きく下回るのだろうか。記者の取材によれば、社会が非全日制修士課程修了者を認めない風潮が、募集しても定員に届かない一つの原因になっている。また、学生自身の志望動機や高等教育機関の財源といった要素も非全日制修士課程修了者の就職差別の原因になっている。
 
現状:「非全日制学生」に就職差別 募集は調整しても定員に届かず
 
秋の採用シーズンは今が真っ盛り。多くの企業説明会の募集要項には、学歴は全日制学士もしくは全日制修士以上と書いてある。某企業の人事担当者は、学歴に全日制と明記されていなくても実際上の企業の要求は全日制およびそれに準ずるものだと認めている。
 
国内某大手建築会社の人事担当者の劉瑶さんは、「建築業界で全日制の大学院生を採用する傾向が大きいのは、通常、全日制大学院生なら学校で関連の研究や授業をしっかりこなしており、中には在学中に指導教官の下で多くの課題に取り組んだ学生もいるからです。こうした学生は多くの場合、能力が高く、即戦力が要求される建築系企業が欲しい人材なのです。しかし、非全日制の学生は多くが在職者で、学校で最低限の授業を終えると即仕事に向かってしまうため、企業にとって「非全日制学生」の学位の「値打ち」はどうしても低くなるのです」と率直に語る。
 
この人事担当者の言うように、社会が「非全日制学生」を求めていないため、多くの大学院受験生は自ずと非全日制を避けるようになり、高等教育機関において非全日制学生の募集が慢性的に定員割れするという局面が生じている。データを見ると、2017年に非全日制大学院生が統一試験の対象になって以来、多くの高等教育機関でずっと定員割れが続いている。しかし、2019年の高等教育機関大学院生募集受け入れ状況を見ると、少なからぬ高等教育機関で非全日制課程の入学者数は合格者数を大幅に上回っている。つまり、これらの非全日制大学院生の募集枠は基本的に調整によって埋められているのである。
 
記者の取材によれば、北京郵電大学の電子・通信工学専攻の場合、非全日制大学院生の合格者数は3人だが最終入学者数は82人となっている。さらに極端な例では、中山大学の化学工学専攻や材料工学専攻などはいずれも募集人数が10人以上であるのに最終的には1人も合格者はいない。
 
以上の例は、高等教育機関における非全日制課程の募集枠の多くが調整によって埋められていることを示すものである。しかし、「中国教育オンライン」の「2019年全国大学院生募集調査報告」では、7割以上の受験生が調整で非全日制課程に移行することを望んでおらず、うち6割超が修了後、非全日制の学位では就職活動において企業に敬遠されるのではないか懸念していると報告されている。
 
原因:試験の目的や制度の実施など多くの原因が根本に
 
「非全日制学生」に対する就職差別は、高等教育機関の募集において慢性的な欠員状態を生み、その欠員状態ゆえ、非全日制修士課程はますます一般社会に認められなくなってゆく。これが非全日制大学院教育の現状であるが、この状況は多方面の原因による。
 
ある権威ある組織が発表した大学院受験生に対する調査を見ると、非全日制大学院で学ぶことの必要性を感じているのは40.87%にすぎず、しかも全て在職者だった。彼らの半数近くは、非全日制大学院で学ぶのは仕事で出世するためと答えている。残りの60%近くは非全日制大学院で学ぶ必要はないと回答している。
 
「修士の学位を取る目的は、大学院受験を考えるなら必ず明確にしておかなければならない最重要事項です。『非全日制学生』が就職活動で敬遠されることについては、実は彼ら自身にも反省しなければならない面もあります。それは、単に学位のために学んでいないかということです」
 
国内のある教員養成大学の朱青教授はこれまで十数年間修士生を指導してきたが、中に12人いた非全日制学生のうち8人は主要産業で要職に就いている在職者だった。彼らはみな修士の学位を職場復帰後の昇進の道具としか捉えておらず、学問を深めるという意識はあまりなかった。
 
「功利主義的な目的しか持っていない学生が『非全日制学生』の半数以上を占めていれば、真面目に学問する気がないというレッテルを貼られ、就職にも影響が出てくるのはやむを得ないことです」
 
朱教授によれば、学校側も「非全日制学生」が敬遠される原因をつくっているという。非全日制大学院生は奨学金や補助金の対象から外れており、実際の費用に基づき学費を支払うことになっている。しかも、学校によっては「非全日制学生」に宿舎などの設備を使わせないところもある。
 
「国が全面的に人材育成の質を高めていこうという政策を掲げ、多くの高等教育機関で 『非全日制学生』の人数が増加を続けているにもかかわらず、一部の高等教育機関では学校の教育資源をあまり使用しない『非全日制学生』による学費収入を学校の資金源にしようとしています。しかし、募集人数の拡大により教員などの教育資源が不足するようになれば、生じてくるのは授業時間の短縮やカリキュラムの簡素化、研究教育の欠落といった問題であり、そんな環境で育成された学生は結果的に社会に受け入れられないのです」
 
前出の某大手建設会社人事担当の劉瑶氏は、高等教育機関の「非全日制学生」に対する育成方式および教育制度の不備が、彼らが就職する際、不利益を被る隠れた原因であると指摘する。
 
突破:修士育成には社会全体の理性が必須
 
記者は、全日制修士課程も非全日制修士課程も人材育成に関しては、それほど違いはないと思っている。
 
「非全日制と全日制はカリキュラムも同じで、修了に必要な条件も同じです。授業も大きな違いはありません。ただ、在職者に対しては、出席率の要求がやや緩くなっています。これは学校側の『温情措置』です。基本的に修士の育成は学生が自覚的に学問に励む必要がありますが、全日制と非全日制の価値に大きな違いはありません」
 
華南理工大学の非全日制修士課程に在籍中の王柳さんが言うには、彼ら「非全日制学生」が就職差別を受けるのは、やはりまだ一般社会で大学院生の学歴についてあまり理解されていないためだ。
 
2016年には教育部は全国の大学院生を全日制と非全日制の形式的な区分を明確に規定していたが、非全日制および全日制大学院生の学歴学位証書は同等の法的地位と効力を有する。
 
記者が検索してみたところ、教育部弁公庁は2016年に、全日制および非全日制大学院生の管理業務の統括に関する通知を公布した。これ以後、2種類の大学院生の統一試験、統一足切りラインなど募集・選考方式が正式に統一された。通知ではまた、育成機関に対し、同一の基準と同等の質を維持するよう要求しており、両者の学歴学位証書が同等の法的地位と効力を有することも明記された。唯一の違いは、修了証書の修学方式に「非全日制」と注記されていることだけだ。
 
このように国の政策では「非全日制学生」の就職に関して早くから保障がなされていたが、社会が「非全日制学生」を除外する例は後を絶たない。彼らに対する就職差別をなくすには、募集企業の側が自覚的に彼らを認めていく必要がある。
 
「『非全日制学生』には独自の強みがあります。特に在職者の『非全日制学生』の場合、学校で学ぶ理論・知識に加えて、仕事での実践経験があるため、卒業して再び新しい職場に復帰したときに高い適応能力を見せるのです」
 
長沙偉創力の人事担当者・徐亮さんはこう述べ、企業は就職の安定という社会的責任を負っており、募集の考え方を変えて、国の政策を実行し彼らの就職に対して一般社会が理性的な対応を確立することをサポートしていく必要があると語る。
 
「全体的に見て、現在、高等教育機関の『非全日制学生』に対する教育は数段階もレベルアップしています。その状況で彼らに対する就職差別を打破するためには、やはり高等教育機関が募集・選考方式を最適化し、選抜基準を引き上げ、学歴学位審査のための論文口頭試問に対する要求を厳しくするなどで努力をしていく必要があるでしょう」
 
朱教授はこう述べた上で、「非全日制学生」や「中身なし」のレッテルをはがすためには、学校が根本的にしっかりコントロールして人材育成方式の向上を図り、彼らに対する一般社会の理性的な対応を促していかなければならないと語った。
 
2019年11月5日
 
人才就业社保信息报电子报:非全日制研究生就业遭歧视?硕士培养需全社会理性
 

地域 アジア・オセアニア
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