【ニュース・中国】留学帰国組の「就職時差」 国内高等教育機関と卒業時期にズレ

 
留学帰国組の「就職時差」
 
24%。これは過去10年における中国の留学帰国者数の年平均増加率である。2018年の中国の海外留学者総数は66万2,100人、留学帰国者はのべ51万9,000人に達している。
 
心理的要素と経済成長の二重の要因により、留学生の「帰国組」は増加の一途をたどっている。だが、卒業間近または卒業したばかりの留学生が帰国して仕事を探そうとすると、中国国内の高等教育機関との卒業時期のズレや、海外での募集情報の差、外国にいるため選考過程に間に合わないなどの現状に気づき、越えられない「就職時差」があると感じることになる。
 
留学帰国組の就職:「しんどいの一言」
 
教育部留学服務センターは10月下旬、北京の亮馬河大厦で「2019秋季留学英才就職説明会兼ハイエンド人材商談会」を開催した。就職説明会は午前9時開始だったが、朝7時過ぎには既に求職者が列を作っていた。就職説明会が始まると、留学生やその保護者が会場になだれ込み数百人の列ができた。「いくつエントリーした?」が帰国組の合言葉になった。
 
就職説明会の盛況ぶりは帰国就職ブームの一断面に過ぎない。先日、中国の留学支援サービス組織・「啓徳教育」と中国の就職情報サイト・「前程無憂」、「新卒求職ネット」が共同で発表した「2019帰国組就職力調査報告」(以下、「報告」)によると、中国の留学帰国者数は2007年ののべ4万人から、2018年はのべ51万9,000人に増加している。留学帰国組の学歴分布では、修士課程修了者が最も多く81.1%、それに次ぐのが博士課程修了者で12.5%、その次が4年制大学および専門学校卒業者で6.4%となっている。留学帰国組の主流は既に高学歴者となっている。
 
その原因を考えてみるに、海外政策の「押す力」と国内経済の「引く力」が留学生の帰国決定に共に影響を与えていると思われる。「報告」のデータでは、84.8%の留学帰国組が「家族も友人も国内にいるから」を帰国就職の主な理由に挙げている。他に帰国就職の決め手となった主な理由には、「国内経済の勢いがあり、政治が安定している」「人脈ネットワークが国内にある」「学んだ専門が国内で将来性があり、就職のチャンスも多い」となっている。
 
しかし注意すべきは、「報告」で、9割以上の留学帰国組が就職活動の過程で問題にぶつかったと指摘していることである。データによると、「関連の仕事経験がない」が、彼らが帰国・求職する過程でぶつかった最大の問題であり、次いで「国内外の求職者が多く、競争が激しい」となっている。
 
趙猛さんはイギリスで修士課程を修了後、イギリスで1年あまり仕事をしていたが、最終的に中国に戻って働くことを選んだ。「イギリスで仕事をしていて、自分は現地の人と文化も生活習慣も違うし、国内のほうが発展のチャンスが多いと思ったので、帰ることにしました」
 
しかし、自分は海外での留学と就職の経験があり、多くの会社にエントリーしたのに、どこも梨のつぶてだとは予想もしなかったと言う。「自信満々」だった趙猛さんは、このときやっと「中国国内の就職環境について何も分かっていなかった」と悟ったのだ。何度か壁にぶつかったあと、彼は今までの経験を振り返って、国外での就職はある種単純な専門性のマッチングであるのに対し、国内の雇用主は総合的な能力を重視していることに気づいた。
 
これについて「報告」では、帰国組は「給与・待遇に対する要求が高すぎる」「国内の就業環境に適応していない」「何の仕事経験もない」「専門能力が不足している」と雇用主が認識していることが留学帰国組の就職を阻む主な要因であると指摘している。
 
魂の拷問:「就職活動はいつ始めるべきなのか」
 
今の時代は、仕事探しも適切なタイミングで行わなければならない。だが、この難しい課題を前に、留学帰国組は卒業のタイミングが国内企業の募集時期と合わず、「就職時差」が生じてしまうことに気づく。そしてこの「時差」ゆえ、少なからぬ留学帰国組が理想の仕事に就くチャンスを失い、時には就職活動の延長を強いられることになってしまうのである。国内の高等教育機関卒業生の就職活動で重要なのは「秋募集」と「春募集」の二つだ。通常、「秋募集」は毎年9月から11月、「春募集」は毎年3月から4月とされている。国内の大学生の場合、この2度の募集時期が過ぎれば就職希望者の大部分は仕事が見つかっており、6月末の卒業後、実際に職に就くことになる。
 
しかし、このごく当たり前な流れが、帰国組にとっては実に具合が悪い。そのため、少なからぬ留学帰国組が「魂の拷問」を受けることになる。「自分は何年度の新卒生になるのか。就職活動はいつ始めるべきなのか。」
 
教育サービス大手の「新東方」が発表した「2019中国留学白書」では、約8割の留学生が留学後半もしくは帰国後に就職活動を開始しており、残りの約15%が留学前半の時点で早くも職活動を開始していると指摘されている。彼ら「先取り意識」の高い学生は、多くが「非研究型」専攻の大学院生であり、より積極的に実習や実践のチャンスを探している。
 
イギリスやオーストラリアに留学している学生の場合、ちょうど秋募集の真っ盛りである11月前後が卒業式と学位記授与の時期だ。必然的に多くの企業の秋募集と「すれ違う」結果となり、たとえ間に合ったとしても仕事を始めるのは翌年の7月まで待たなければならない。1年早く準備を始めようとすれば、多くの場合、新学期が始まってわずか1か月で帰国して面接を受けたりしなければならなくなり、経済的にも時間的にもかなりの負担となる。
 
鄧文(仮名)さんは北京のある大学を卒業後、オーストラリアの大学院修士課程で金融学を学び、今年10月末に修了証書を手にした。「7月末に帰国して就職活動を始めました。早めに帰国した方だと思います」
 
鄧さんは2019年度卒の秋募集には応募しなかった。なぜなら、2019年度卒の秋募集は2018年の秋に行なわれるため、勉強に忙しかった彼は帰国している余裕がなかったのだ。「2020年度卒の秋募集に応募させてくれる企業もありますが、そうすると入社は来年の7月まで待たなければなりません」
 
「これまで40社以上にエントリーしましたが、大部分は音沙汰なしです。オーストラリアでは実習に行くチャンスがあまりなかったので、履歴書に書けるのはほぼ学部時代の経験になります。最近も面接の通知をいくつか受け取ったのですが、気に入った会社はまだありません。ここ数日は焦ってきて、またインターネットでエントリーしまくっています……」と言う。
 
アメリカやカナダなどに留学している学生の場合、卒業式は通常5月から6月に行われるため、前倒しで帰国できなければ、卒業した時点でほとんどの企業の学生採用枠は国内の卒業生で満員御礼となってしまう。また、「新卒生」という言葉も留学生を困惑させる。国によって卒業の時期が異なるため、留学帰国組の新卒生の場合、人によっては正式採用の手続をする段階になっても、まだ卒業証書を手にしていない。そのため、一部の企業では、学生採用の際、留学帰国組を新卒生に入れないところもある。
 
多方面からのアドバイス:時々帰国してリサーチ
 
こうした「就職時差」の下、多くの専門家や留学帰国組は、もし帰国して就職することを考えているなら、国内の就職プロセスをリアルタイムで把握し、早めに帰国の準備をする必要があるとアドバイスする。
 
柯冬さんはロシアのある大学を今年7月に卒業したあと、国内で就職活動を始めた。「最初から中国国内で働こうと決めていましたが、その間一度も帰国する機会はありませんでした。採用情報に関しても、国内の学生に比べてかなり少なかったと思います。国内の大学にいればたくさん就職情報が入ってくるのでしょうが、ロシアにいると極少数のいい大学に中国企業がわずかに募集に来る以外、学校はほとんど何の情報もくれません」
 
「国外にいても動画面接(ビデオ面接)をしてくれる企業は見つかりましたが、こうした帰国する必要のないリモート面接を行っている企業はコンタクトを取っても反応がないことが多い」と柯さんは言う。「だから、帰国して就職すると決めている人は、早めに帰国して国内の就職環境を理解し、準備したほうがいいと思います」
 
「前程無憂」海外採用担当の馮磊総監は中国青年報・中国青年網の取材に、「就職時差」については、留学生自身がいつどんな準備をしなければならないか把握しておく必要がある一方、企業の中には留学帰国組を対象に採用計画を調整し、卒業時期に関して条件を緩和しているところもあると指摘する。
 
そうだとしても、留学帰国組の就職準備は常に「早」の文字を念頭に置いておかなければならない。馮総監は言う。「留学帰国組の多くは、就職活動を始める前に卒業関連のことを片付けてから帰国しがちですが、そうやっていざ就職活動を始めてみると、自分が既に既卒生として扱われていて、Webエントリーに進めないことに気づくのです。ですから、留学帰国組はできるだけ早く履歴書を送りWebエントリーなどの準備をしておけば、落ち着いて就職活動に取り組めると思います。」
 
「就職時差」は留学帰国組の就職を阻む客観的な障害だが、留学帰国組は熾烈な競争が繰り広げられる就職市場における自身の強みと弱みも正視する必要がある。「留学帰国組は就職活動経験においても弱いです。以前取った統計によると、国内の高等教育機関の卒業生は毎年採用シーズンになると10から15ほどの説明会や面接会に参加しますが、留学帰国組は平均でわずか三つです」
 
馮総監は他にも、理想的な就職活動の開始時期は卒業の1年前だが、イギリスやオーストラリアに留学している学生の場合、留学生活の3分の1を終えたばかりで就職活動の準備に入らなければならないと指摘する。これもなかなかハードだ。留学帰国組は就職活動において視野を広げ、自らの目標を分析し、各種の資質や技能を身につけ、キャリアプランを練り職業選びをしておくべきだと馮総監はアドバイスしている。
 
2019年11月11日
 
人民网:海归的“就业时差”:毕业时间与国内高校不同步[来源:中国青年报]
 

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