【ニュース・中国】中国青年報:大学院入試が大学入試並みに日増しに過熱化、どうすれば過度な競争を避けられるか

 

先日、2022年度大学院入試二次試験の足切りラインが発表されたが、点数が軒並み上昇し、大学院入試が激化の一途をたどっていることに世間はどよめいた。だがそれよりも、大学院入試の「大学入試化」の方を注目すべきだと筆者は考える。

 
教育部の発表によれば、2022年度の全国大学院修士課程入学試験は、出願者数が全国で457万人に達したという。これは前年比で80万人の増加、増加率にすればプラス21%になる。これの一体何が驚きなのかと言うと、2003年度の全国大学院入試の出願者数を見てみれば、わずか79万7、000人で、昨年の増加分にも満たない人数だったからだ。

 
なぜ大学院入試はこれほど過熱を続けているのだろうか。それは主として、就職時に企業側が求める要件の厳格化が原因だ。高等教育の普及は学歴インフレをもたらした。今や院卒は、就職時の必須要件ともいえる状況だ。

 
今の大学院入試は、社会における競争と選別の前提条件になっている。以前なら、その役割を担っていたのは大学入試だった。しかし、高等教育が普及したことで、篩の役目は次第に大学院入試に移ってきている。

 
こうして、大学院入試は多くの大学生の最重要目標となり、大学院入試もますます「受験」化していく。いまや大学院入試のための予備校はあちらこちらにあり、「双非」(訳注:「双一流」以外の高等教育機関)での大学生活はまるで「高四」で、入学時から大学院入試の準備に全力をあげ、大学での専門分野の学問は軽視される始末だ。大学院入試が盛んな省では、大学院入学を目指す人の勉強時間は、「名門高校」で日夜大学受験勉強に励む高校生にも劣らない。毎日夜遅くまで勉強し、朝から並んで図書館の静かな特等席を取るのが彼らの日常だ。さらに高等教育機関の方も、様々な条件を設けて、早くから大学院入試を志す学生を支援するようになっている。なぜなら、大学院進学率や推薦進学率は、学生を集めたい高等教育機関にとって、受験生への絶好のアピールポイントになっているからだ。

 
今や、「優秀=大学院進学」という思考はますます優勢になり、大学院入試はますます「熱」を帯び、事実上の「二次大学入試」になりつつある。しかし、大学院は結局、一般的な高等教育とは異なる、ハイレベルな人材育成の場だ。にも関わらず、大学院を一段上の大学と捉えている学生や保護者が多すぎる。猫も杓子も大学院に殺到しているのが現状だ。

 
北京のある有名大学の2020年度大学院二次試験の現場で交わされた、面接官と受験生との会話は熟考に値する。筆記試験を優秀な成績で終えたその学生は、次々繰り出される面接官の質問に答えられず、こう言った。「先生、できれば選択問題にしていただけませんか。選択問題なら得意なんです。」面接官は呆れたように答えた。「君、大学院には選択問題はない。すべて論述問題なんだよ。」

 
全国政治協商会議委員で電子科技大学学長の曽勇氏は次のように指摘する。本科(4年制大学)教育は大学の根であり本である。しかし、あまりにも長い時間を入試問題の練習に費やし大学院入試にのみ備えようとする優秀な学生が多すぎる。その結果、本科段階の知識が不完全で、研究能力、実践能力、イノベーション能力が欠如した学生が増え、本科の人材育成の質のみならず、大学院における育成の質の低下を引き起こす潜在的リスクとなり、ひいては学ぶことが嫌になったり、さらなる研究やイノベーションを進める好奇心や興味を失ったりする状況すら招きかねない。

 
大学院入試の大学入試化には、複雑な社会的要因が絡んでいるため、教育部門だけに頼っていては解決しない。解決のためには、学歴至上主義の採用基準を変えることが肝要だが、入試改革を強化し、行き過ぎた試験のためだけの勉強を抑制し、大学院入試の質を保証し向上させることが、目下の喫緊の課題と言える。

 
大学院入試の制度は大学入試とは異なり、一貫して「筆記試験+二次試験(口頭試問)」の選抜形式が採られてきた。そのうち、筆記試験の重点は基本知識の有無の考査に、二次試験の重点は学術研究に対する総合能力の考査にある。だが、「二次大学入試」のような誤った認識が広がった結果、大学院入試はますます大学入試化し、筆記試験の成績が暗黙の了解として「成績のコア」、ひいては唯一の基準と考えられるようになった。こうした考え方は、大学院入試の「受験」化を加速させるとともに、大学院入試における二次試験の比重拡大という試みを困難にさせてしまう。

 
こうした現状に対し、多くの人が積極的に提言を行っている。今年の全国両会では、大学院入試は他の国のように、大学で修めた学業のレベルを測る試験にし、「申請審査制度(訳注:書類審査に合格した者が試験を受ける制度)」を実行するよう提案した政治協商委員がいた。曽勇委員は「推免」の割合を拡大するべきだと提案した。筆者は、国内情勢や文化の違いを考慮し、現時点では推免制の拡大が、比較的容易に実施できる現実的な方法なのではないかと考える。

 
何年も前に打ち出された「推免」制度は、中国の入試制度改革における積極的な試みだった。推免とは推薦・試験免除のことで、筆記試験を免除され、二次の面接試験のみを受ける入試形式を指し、大学3年次の成績を基に、多方面の成績や成果を総合して該当者を決める。

 
この制度を導入した結果、大学院の学生の質は顕著に向上し、幅広い高等教育機関や教師陣から好評を得た。主な結果は以下の通り。推免生のほうが総合的資質が高く、学術研究分野に向いていることが多いと筆者に語ってくれた大学院の指導教員が大勢いる。

 
しかし残念なことに、推免生の割合が高すぎて公平・公正性に影響が出ているといった議論が起こったため、この科学的な入試改革は近年、継続して進めることができずにいた。

 
実のところ、推免制度は、総合評価・科学的選抜を実現しているとともに、公平・公正性が確保されたものである。推免資格を得るためには、大学3年次の成績を基に学生を選出し、その後クラスおよび校内に公示する必要がある。つまり、利害関係者である同級生からの監督を受けるのだ。このような監督は、実は一般的なオンライン公募より意味があり、推免制度の公平性を確保するものでもある。

 
もちろん、推免制度に対して懐疑的な態度の学生もいる。例えば、高等教育機関の一般的な学生の多くにとっては、推薦してもらえないとか、推免枠が少なすぎるといった問題がある。これについては、推免校および推免枠を拡大することで解決できる。従来の全国統一試験のルートは引き続き一定割合(50%を下回らないようにするなど)を残しつつ、入試改革を徐々に推し進め、普段から優秀で、真に学術研究に適した学生が見出されるようにすることが望ましい。

 
ともかく、大学院入試の「激化」「大学入試化」の背後には、大学入試が社会における競争と選別の前提条件になっている現状がある。入試制度改革はこの傾向をある程度是正することが可能であるが、根本的解決のためには、やはり社会における競争と評価のあり方を変えなければならない。

 
2022/03/23


澎湃新闻: 中青报刊文:考研日渐“高考化”,如何避免过度内卷


地域 アジア・オセアニア
中国
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