【ニュース・中国】定員枠の「奪い合い」 シニア大学ブームを分析

 
最近、各地のシニア大学が秋学期の募集を開始したが、一部の大学の窓口申請には長蛇の列ができ、オンライン申請はものの数分で定員枠が全て埋まるという事態になっている。瀋陽市に住む劉さんは一家総出でオンライン申請の戦いに挑んだが、あえなく撃沈してしまった。「リロードしてみたらもう全て埋まっていて、すごい人気だ。」

 
政府主導の公益性が前面に打ち出された高齢者向け教育機関であるシニア大学は、近年その人気がうなぎのぼりになっている。第20回中国共産党全国代表大会の報告では、積極的な高齢化対応を国家戦略として実施し、シルバー事業およびシルバー産業を発展させることが明示された。今年8月に出された国務院の高齢化対策への取組みの強化・推進の進展状況に関する報告書では、2025年までに、県(市・区・旗)ごとに少なくとも1か所はシニア大学を設けることが盛り込まれた。

 
定員枠の「奪い合い」

 
複数のシニア大学の責任者によれば、ここ数年、シニア大学は非常に人気で、毎年募集人数を増やしてはいるものの、少人数教育制度を採っている等の理由で定員に限りがあることから、常に「満員御礼」状態だという。

 
「シニア大学の開設には一定の条件を満たす必要があります。」中国シニア大学協会の李春華副事務局長によれば、シニア大学を開設するためには、高齢者に適した教育施設および教員を用意し、なおかつ関係部門の承認を得なければならない等の条件があるという。

 
シニア大学には様々な種類があるが、総務部門の管理下にあるものもあれば、教育、民政、文化、高齢化対策等の部門(機関)の管理下にあるものもあり、また、市場監督管理等の部門が審査・承認するものもあり、通常は「開設した者、管理する者、審査・承認を行った者がそれぞれ責任を負う」。このように、管理部門も財源も異なることから、基本的に管理を担う部門が資金を拠出する仕組みになっている。

 
シニア大学の規模は大小様々で、大きいところでは、学生が数万人にも達する。入学年齢は通常50歳から80歳までで、指定の書類を揃えて申し込む。一般的に入学試験はなく、科目選択制で、卒業に関しても絶対的な要件や規定はない。カリキュラムには主に音楽、書画、言語文化等があり、ニーズに応じて学年を設ける。シニア大学の費用に国の統一基準はなく、1科目あたり数百元のところが多い。

 
金陵シニア大学の葉南客副学長によれば、シニア大学は、高齢者の学び、交流、娯楽といった多様なニーズを満たし、知識や技能の習得だけでなく、重要な社交の場にもなっているという。

 
江蘇省常州市の汪栄慶さんは、シニア大学で書画や文学等のカリキュラムに受講希望を出した。「この年まで生きられたのだから、生涯学び続けたい。」南京市の劉さんは舞蹈を学び、若い頃の心残りを晴らしている。河北省の62歳の「独居老人」李さんは、新しい友人と一緒に授業を受けたり買い物に行ったりできるようになり、もう一人ぼっちではないと感じている。

 
近年、シニア教育のための資源供給拡大政策が次々と打ち出されている。「『第14次5か年計画』国家高齢者事業の発展および介護サービス体系に関する計画」等の文書では、国家開放大学に委託する形での国家シニア大学および全国シニア教育資源共有・公共サービスプラットフォームの構築、部門・業界企業・高等教育機関が運営するシニア大学の社会への開放の推進、並びに条件を備えた各種学校によるシニア大学(学校)の運営およびシニア教育への参画の奨励といった計画が示された。

 
数は増え続け、カリキュラムも更新されている

 
中国シニア大学協会が発表している「中国シニア教育発展報告(2019~2020)」によれば、中国のシニア大学(学校)は、2019年末時点で約7万6,000か所あり、2017年に比べて1万4,000か所以上増加している。

 
シニア大学の建設が末端に浸透する中、身近に開設される例も相次いでいる。ここ数年、江蘇省、湖北省、山東省など複数の省では、郷鎮(街道)、村(コミュニティ)でのシニア大学の分校や分室の設立が進められている。

 
湖北省黄岡市では年末までに、シニア大学分校(分室)を市内の50%以上の郷鎮(街道)および30%以上の村(コミュニティ)に開設する計画だという。福建省アモイ市は来年までに、全ての鎮(街)および村(居)にシニア大学分室を開設する計画を打ち出した。山東省徳州市は3年かけて、コミュニティにシニア大学分校(分室)を120開設する計画を立てている。

 
9月20日、南京市の雨花シニア開放大学新林コミュニティ分室が開室した。学生の張さんは興奮ぎみに「家のすぐそばにある学校に行けます」と話した。

 
湖北省英山県のあるシニア大学分校の責任者は、これまで県のシニア大学は通学も不便で、定員も少なかったが、郷鎮に分校が開設された現在では、日常的に管理を担う専門職員も配置され、実際のニーズに応じてカリキュラムが設置されており、多くの農村高齢者が学びの場を得られるようになったと話す。

 
また、シニア大学のカリキュラムや内容も絶えず更新されている。成都市シニア大学ではドローン撮影講座が、天津市シニア大学では法律基礎講座が、また、上海市虹口区シニア大学では目新しい動画編集カリキュラムが取り入れられた。広州市シニア幹部大学では「科学技術遊学」のクラスが増設され、科学技術企業を見学し、細心の科学技術を知るカリキュラムが実施されている。スマートフォンレッスン、金融詐欺防止講座などもシラバスに頻出の単語だ。

 
常州市シニア大学の関連責任者の話によれば、こうした新カリキュラムは時代の発展に即しており、実用性が高いことから大人気で、定員は常に埋まっているという。

 
「以前はシニア大学ではなく『シニア芸術学校』などと揶揄されていましたが、今や学べる内容は二胡・将棋・書画にとどまりません」と常州シニア大学の学生は言う。撮影、画像修正、ポストプロダクション……パソコン操作や動画編集を学ぶ高齢者の中には、動画クリエイターになり、数十万の登録者を獲得する者まで現れた。

 
新型コロナウイルスによる感染症が流行してからというもの、シニア大学の多くはオンライン授業に切り替え、動画を使ったリモート授業を行っている。「学習に影響はありません。むしろ何度も見直すことができてありがたいです」と天津市河西区シニア大学で学ぶ趙志さんは言う。

 
様々な措置を並行して実施することで老後の学びをサポート

 
2021年末時点で、中国の60歳以上の人口は2億6,700万人に達しており、「第14次5か年計画」期間に3億人を突破すると見られている。「中国共産党中央委員会と国務院による新時代の高齢化対策事業の強化に関する意見」では、シニア教育を終身教育システムに組み入れることが示されている。しかし、中国のシニア大学が受け入れている学生数はわずか1千万人程度にすぎない。

 
中国シニア大学協会の李副事務局長は、中国はシニア教育資源の全体量が不足しており、依然として発展が不十分・不均衡という問題を抱えていることから、特に辺境地区や県級以下のシニア大学(学校)の進捗状況に注目しなければならないと語る。

 
江蘇省シニア大学協会の徐建設事務局長は、シニア教育事業の発展における都市・農村・コミュニティの重要性は日増しに際立ってきており、教育資源を末端へ十分に行き渡らせるための取組みをさらに推し進め、既存の資源を統合利用し、社会組織・専門機関・高等教育機関等との連携・協力を強化し、教育施設や教員を開拓していかなければならないと指摘する。

 
江陰シニア大学文学・歴史・外国語・家政・保健学部の殷暁主任は、オンライン教育プラットフォームを活用し、「インターネット+」モデルを発展させ、より多くの優れた資源を郷鎮の高齢者と共有するとともに、郷鎮在住のオフライン補助教員も育成し、「ダブルティーチング」形式でオンラインとオフラインの融合を図ることを提案する。

 
シニア教育で様々な業態が発展するにつれ、課外教育機関や学習塾も続々とシニア向けの有料カリキュラムを開設しており、教育資源の効果的な増加や教育市場の拡大につなげている。だが、この動きに乗じて、詐欺などの違法行為を企む輩もいることには注意しなければならない。

 
インタビューに応じた専門家は、関連部門に対しては、健康・保健・投資・コレクション等の名目で開設される営利を目的とした講座や研修に対する管理・監督を強化するよう提案し、高齢者やその子女に対しても、警戒心を持ち、教育機関を慎重に選ぶよう警鐘を鳴らしている。

 
2022/11/7


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