【ニュース・中国】数論学者:張益唐の新論文は非常に有意義だが、「ジーゲルの零点」問題は完全に解決されていない

 
張益唐氏の「ランダウ・ジーゲルの零点予想(Landau-Siegel zeros conjecture)」に関する新しい論文について、同論文の電子版を閲覧したという数論学者は11月5日、論文の結論の持つ意義は大きく、これまでの多くの結論を仮想的な結論から確定的な結論へと変化させたと評価しつつも、同論文はランダウ・ジーゲルの零点が存在しないことを完全に証明できてはいないため、現段階ではランダウ・ジーゲルの零点予想が完全に解決された訳ではないと指摘した。

 
張氏の新論文はプレプリントリポジトリに提出済み

 
今年10月、数学者で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校数学科の張益唐教授は、北京大学大ニューヨーク地区校友会のイベント「数学者・張益唐との座談会」で、「ランダウ・ジーゲルの零点予想(Landau-Siegel zeros conjecture)」を解決したと明かして、数学界の注目を集めた。

 
11月5日、ネット上では張氏の「ランダウ・ジーゲルの零点予想」に関する論文が完成したと伝えられた。同日、北京国際数学研究センター主任で、北京大学数学英才クラス委員会主任の田剛院士が、張氏の「ランダウ・ジーゲルの零点予想」に関する論文は既に完成し、プレプリントリポジトリ「arxiv」に提出済みで、翌週の月曜日に公開される予定であることを本紙に認めた。

 
張氏は主に数論研究に取り組む研究者で、北京大学閔嗣鶴数論研究センター名誉主任、北京大学客員教授、山東大学潘承洞数学研究所所長も兼任する。

 
本紙がある数論学者から得た情報によると、張氏は11月5日、山東大学で開かれたシンポジウムおよび学術サロンに出席し、シンポジウムの中で「ランダウ・ジーゲルの零点予想」に関する最新の成果を披露した。

 
同日、上記の数論学者は同業者から張氏の論文『離散型平均推定値とランダウ・ジーゲルの零点』(Discrete mean estimates and the Landau-Siegel zero)の電子版を入手した。

 
2007年5月、張氏はプレプリントリポジトリ「arxiv」で『ランダウ・ジーゲルの零点予想について』(On the Landau-Siegel Zeros Conjecture)というタイトルの論文を公開したが、そこでの論証にはいくつか欠点があった。

 
「ランダウ・ジーゲルの零点」は解決されたのか

 
目下、外野が最も注目しているのは、張氏の新論文で「ランダウ・ジーゲルの零点予想」は解決されたのかという一点だ。

 
これについて、張氏の新論文を読んだ上記の数論学者は、張氏の新論文は2007年にarxivで公開した論文を補完したものだと指摘する。新論文の結論はこの分野の先行研究の結論と比べて革新的な進歩を遂げてはいるものの、この論文の結論は残念ながら「驚くべき」ものではないと述べる。

 
「新論文はまだランダウ・ジーゲルの零点が存在しないことを完全に証明できてはいないため、現段階ではランダウ・ジーゲルの零点予想が完全に解決された訳ではない。また、論文を見るに、現在の研究路線では、おそらくランダウ・ジーゲルの零点予想の最終的解決には至らないと思われる。」この数論学者は、新論文の結論ではランダウ・ジーゲルの零点予想を証明することはできないものの、その「強度」は、ジーゲルの零点を広範囲で排除するに足るものだと指摘する。この範囲は、解析数論学者が数論問題に応用し、多くの有意義な結論を得るために十分なものであるという。

 
さらに上記の数論学者は次のように解説する。これまでの多くの論文は、ランダウ・ジーゲルの零点予想が成立するという仮説(即ちジーゲルの零点は存在しないという仮説)を立てていたが、張氏の新論文では、ジーゲルの零点が存在する可能性を完全に排除はしないものの、それが排除する範囲は過去の論文で論じられている範囲を十分カバーするため、従来の多くの結論を仮想的な結論から確定的な結論へと変化させた。

 
「もちろん、この論文には専門家によるさらなる検証が必要である。論文は2007年版の54ページから、今回の2022年版では111ページに増えており、査読も大仕事になると思われる。」この数論学者曰く、「この手の論文は、トップレベルの専門家であっても、細部にわたって全てを精査するのに数か月はかかるため、すぐには結論を出すことができない」

 
田院士も、張氏の新論文はボリュームがあるため、専門家による査読はかなり時間がかかるだろうと述べた。

 
ランダウ・ジーゲルの零点予想について、『中国科学報』は今年10月にこのような記事を掲載している。「この予想は、160年以上も未解決のままの有名な数学の難題「リーマン予想」に関係するもので、簡単に言えば、ランダウ・ジーゲルの零点が存在するならば、リーマン予想は誤りであり、ランダウ・ジーゲルの零点が存在しないならば、リーマン予想と矛盾しない、というものだ。どちらの結論に至ったとしても、間違いなく数学史上に残る偉業となるだろう。」張氏の同僚で数論学者のStopple氏も、張氏がこの証明を完成させることができれば、前回の成果も加わり、確率的に同一人物が二度雷に打たれるようなものだと語っていた。「彼がこれまで一度も名を成したことがないのであれば、この証明をしてみせることで、前回同様、世界の注目を集めるでしょう」

 
張氏の「前回の成果」とは、2013年に『数学年刊』で発表された「素数間の有界間隔」のことで、この論文では、無数に存在する素数のなかで最も近い数同士の間隔はすべて7,000万より小さいという命題を証明し、双子素数の予想という数論の未解決問題において重要な成果を挙げた。

 
2022/11/5


澎湃新闻: 数论学者:张益唐新论文意义重大,但尚未完整解决“零点猜想”


地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
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