【ニュース・中国】院士の資格剥奪メカニズムが制定

 
院士の資格剥奪メカニズム改革が、さらに大きく前進した。
9月6日、『院士制度改革の深化に関する若干の意見』が審議で採択された。『意見』では、院士の選抜・評価メカニズムの改善、学科配置の最適化、引退・資格剥奪制度の実行、学問への態度の強化を推し進め、院士制度を絶えず整備していくことが提案されていた。
 
そのわずか1週間後、科学技術部、中央宣伝部など 22 部門が合同で印刷配布した改正版「研究信用失墜行為調査処理規則」には、実験・研究データの売買、学術的貢献の実態のない名義貸し、発表の重複など7種の研究信用失墜行為、および院士の称号取消しを含む13条の処理措置が追加されていた。
 

最高の栄誉

 
院士は、中国で科学技術領域および工学技術領域における最高栄誉の称号であり、その栄誉は生涯継続する。
1948年3月、何段階もの選抜を経て、81名が第1期院士に選ばれた。

 
陳省身、華羅庚、蘇歩青、葉企孫、李四光、竺可楨、茅以昇、梁思成、馬寅初……いずれもどこかでその名を耳にしたことのある81名は、中国現代科学の基本となる学科の礎を築いた人々であり、科学の領域で世界最先端を目指す過程で、20世紀前半の中国の科学水準を代表する人々でもあった。

 
中国科学院および中国工程院の院士は、ハイレベルな科学技術で自立自強を目指す中国にとって重要な存在だった。
だが、学術界における最高の肩書きである院士は、その立場を利用して莫大な利益を得やすい状況にあったことから、次第に多くのさまざまな利益がからむ「大きすぎる存在」になっていった。

 
地方によっては、関わった院士の多寡を「研究業績」の基準としたり、院士を抱き込むために現金や不動産を贈ったりすることを奨励するところもあった。また、プロジェクト予算申請の際に、院士の肩書きが「フリーパス」の役目を果たしたり、「院士」の肩書きを利用してビジネスに深入りしたりするなどということが頻発し、次第に学術的に好ましい雰囲気が汚されていった。
 

院士資格剥奪メカニズム

 
「院士資格剥奪メカニズム」改革の趣旨は、院士の「終身制」およびその肩書きに付随する利益やコネを廃止し、院士の称号を純粋に栄誉および学術的なものに回帰させることにある。2014年6月、中国工程院第12回院士大会で、全院士の投票により、改正版「中国工程院規約」が可決された。

 
このうち、院士候補者の指名、増員メカニズム、資格剥奪メカニズムの3つに関する改革では、従来の「院士の称号の取り消し」に加え、「院士の資格剥奪」制度が追加された。2016年9月、中国科学院は院務会議で可決された改訂版「中国科学院規約」を印刷配布したが、そこにも同様に院士資格剥奪メカニズムに関する記述があった。

 
同規約第十九条では、「院士は院士の称号を放棄する権利を有する。院士個人の行為が著しく科学道徳に背き、著しく品行が下劣で、院士全体および所属学部の名誉を著しく損なう場合は、当該院士に対し、称号放棄を勧告することができる。事案が特に重大であり、又は国の利益を損ない、法に抵触する場合は、その院士の称号を剥奪する」と規定されている。

 
「院士資格剥奪メカニズム」は、時代とともに進む改革理念の現れであるだけでなく、院士が自身の学術分野で「地に足つけて」研究に専念し、研究面でリーダーシップを発揮し、国および民族の科学技術の発展とイノベーションのために満足いく回答を提出することにもつながる。

 
「五唯」を打破する

 
院士という限りある資源の「汚名」ばかりが注目される現状を挽回するため、「五唯(訳注:点数、進学、卒業証書、論文、肩書きの5つのみを追求する風潮。以下、「五唯」)打破」は今後も推進していく必要がある。2019年、中国共産党中央弁公庁および国務院弁公庁が印刷配布した『科学者精神のさらなる発揚と学問・思想態度建設の強化に関する意見』では、「各現役院士が招聘される研究機関は1つを超えず、引退した院士は3つを超えないものとする。院士が研究機関で正規職として勤務する期間は年間3か月を下回らないものとする」と規定されている。

 
『意見』では他にも、院士・専門家が「兼業する場合は本人の研究分野と関連のある分野とし、実質的内容を伴わない各種兼業や名義貸しを根絶する」とされている。

 
地方が院士を招聘する場合、当初の目的は、イノベーション能力を向上させ、ハイレベル・精密・先端産業の発展を牽引してもらうというものであったはずだ。しかし、院士を過度にありがたがる風潮が、地方政府や地方企業が自らの状況を顧みず、盲目的に院士を招聘し、「一人一役」どころか「一人数十役」という状況を招いている。

 
一個人の力には限りがある。1本の枝に数十もの果実が実れば、必然的にそれらは大きくならない。

 
「院士資格剥奪メカニズム」という伝家の宝刀が抜かれた今、「院士」の称号は学術的な肩書きに回帰するだろう。学術的名声を利益に変える風潮を拒絶し、清く正しく美しい研究環境をつくっていかなければならない。

 
院士制度改革は重要な一歩を踏み出したが、今後も引き続き改革革新に努めていく必要がある。

 
2022/09/19


青塔: 院士退出机制,来了!


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