【ニュース・中国】清華大学と北京大学の修士・博士課程修了生が小中高学校教員の職を求めて殺到:才能の発揮か、それとも浪費か?

採用予定教員35名のうち、北京大学卒が22人、清華大学卒が11人。しかも32人は修士、3人は博士の学位を持っていた。
 

11月28日、杭州学軍中学教育集団文淵中学のWeChat公式アカウントに採用予定教員のリストをアップしたことで、人々の視線は「名門校の卒業生が中学・高校の教員に」というトピックスに注がれた。記載された教員はまだ正式採用ではないが、とても「豪華」なリストだ。
これより2か月前の9月に、深セン市龍華区教育局が年俸30万元(約4,788,000円)で小中高学校の教員を募集というニュースが検索ランキング上位にランクインした。その手厚い待遇は議論の的となった。
 

しかし待遇以外にも、「清華大学・北京大学」や「高学歴」といったワードも頻繁にランキング入りした。名門校の卒業生が小中高学校教員になるのは人材の無駄遣いかということもしばしば議論された。
 
実は、名門校の修士・博士課程修了生が中学・高校の教員になるのは決して珍しいことではない。
十数年前から、北京十一学校や中国人民大学附属中学などの学校は、北京大学や清華大学などの名門校の卒業生を採用し始めた。当時もにわかに議論が巻き起こった。
 

今年9月、深セン市龍華区教育局による小中高学校教員募集で最終的に400人あまりに絞られた候補者のうち、名門校の修士・博士課程修了生は80%以上を占めていた。10月末に深セン市の南山外国語学校(集団)高級中学が採用した20人の教員はいずれも修士号を取得しており、うち19人は清華大学および北京大学の修了生だった。11月に華中師範大学が実施した2020年度第1回教員募集で採用予定となった9人全員が修士号以上を取得しており、うち6人は最高学府の博士号を、他の3人も清華大学と北京大学の修士号を取得していた。11月末に杭州学軍中学教育集団文淵中学が実施した2020年度第1回教員募集の採用予定者のうち、北京大学と清華大学の卒業生・修了生は約95%にも達していた。
 

報道によると、ここ2年、北京大学からは毎年80~90人の修士・博士課程修了生が小中高学校の教員になっている。同大学の「2018年就業質量報告書」では、卒業生・修了生の就職先として、「初等・中等教育機関」である小中高が、高等教育機関や国有企業などと同じく、1つの独立したカテゴリーとして扱われている。
 

2018年は計61人の北京大学卒業生・修了生が初等・中等教育機関に就職した。うち修士号取得者は42人、博士号取得者は19人だった。
 
実際、社会の発展のためには、より多くの高学歴者により幅広い社会的役割を担わせる必要があると論じる文献もある。基礎教育の発展においても同じことが言える。
 
統計によると、2015年度において、アメリカの小中高学校教員が取得している最高学位は、修士号が181万2,000人で約半数の47.3%を占め、教育専門家は8.1%を占める32万3,000人、博士号は1.3%を占める3万7,000人だった。
 

全体として約半数以上の小中高学校教員が大学院を修了している。(教育専門家:正式名称は教育専門家学位または証書。通常は修士課程以上で1年学んだ者に授与される。上級大学院生の証明書のための学習も含む。)
 

一方、2018年の時点で、わが国の小中高学校専任教員のうち、大学院修了者はわずか3.10%に過ぎず、OECD加盟国の中高学校教員に占める修士号取得者の平均割合45.5%よりも明らかに低いことが分かる。
 

普通高校のデータだけを見ても、2018年におけるわが国の普通高校専任教員総数約181万3,000人のうち、大学院修了生は約17万8,000人で、わずか9.82%に過ぎない。普通高校でさえ大学院を修了している教員が多くないのに、小中学校となるとさらに少なくなる。
高等教育の発展の歴史を振り返ってみると、高等教育はすでにエリート教育から徐々に大衆化教育に移行している。
 

高等教育の人材育成規模だけを見ても、この数字は絶えず拡大していっていることが分かる。統計によると、2018年、わが国における大学院の募集人数は85万8,000人。うち、博士課程は9万5,500人、修士課程は76万2,500人だった。

 
修士・博士課程の学生がすでに社会の「希少資源」ではなくなっている今、高学歴者はどの業界でもよく見られる。基礎教育分野も同様だ。
基礎教育は大いに発展しなければならないが、前進する一歩ごとに「小」さな個人に立ち返らなければならない。名門校の修士・博士課程の修了生は小中高学校への就職を決めるとき、一体何に関心を持っているのだろうか。

 
待遇は一番に考えることとは限らないが、とても重要だ。2019年に盛んに議論された教員募集を行っていたいくつかの中高学校は、待遇面ではどれもかなりの好条件だった。特に深セン市の待遇は非常に良かった。

 
20万元(約3,188,000円)以上の年俸で新卒生を小中高学校教員として募集するのは、深センの多くの区では今や「スタンダード」だ。今年5月、深セン市塩田区は北京まで出向いて教員募集を行った。その際に提示された金額は、税引前年収で4年制大学新卒生で初年度約29万元(約4,622,600円)、修士課程修了生で約32万元(約5,100,800円)、博士課程修了生で約33万元(約5,260,200円)だった。

 
上記の他、博士号取得者は1人あたり3万元(約478,200円)、修士号取得者は1人あたり2万5,000元(約398,500円)、学士号取得者は1人あたり1万5,000元(約239,100円)の就業奨励金などがもらえる。一部の中高学校では、待遇として深セン市の戸籍や住宅を与えるというものもあった。

 
だが、待遇以上に、小中高学校教員になることを選んだ清華大学や北京大学の修士や博士課程修了生が言及するのは、「幸福感」や「達成感」、「安定性」、「夏休み・冬休みがある」といったことだった。

 
職業の選択には、個人としての体験や夢の実現などがより重視される。
中高学校の教員になった北京大学のある博士号取得者はこんなふうに話す。「私にとって、この仕事は幸福感に満ちています。一生続けていきたいと思っています。」しかも、「夢が叶いました」とまで言うのだ。

 
ネットでは、数十万という年俸と夏休み・冬休みがあるということを考えると、「そこそこ稼げて」、「そこそこ自由時間もある」教員という仕事は、清華大学・北京大学の期待を上回っているのではないか、というコメントも見られる。

 
しかも、昨今の基礎教育は、簡単な知識の伝授から、人生の核となる教養を授けるものにレベルアップしており、教員には知的素養や総合能力の面でより高いレベルが求められている。修士や博士課程修了生であっても、学んだことを活かす場があるのだ。基礎教育業界の急速な発展は、こうした名門校の卒業生に教育業界でやっていく自信を与えたことに違いない。

 
しかし、名門校の秀才が中高学校に就職するという現象の背後を見てみると、彼らの多くは比較的発展した地域の大都市に向かっていることがわかる。全国的に見ても、高学歴教員の分布は、やはりほとんどが発展した地域に集中している。
2018年におけるわが国の小中高学校専任教員の地域別学歴分布を見ると、大学院修了が多い省・市のトップ4は、北京市、上海市、天津市、江蘇省だ。一方、貴州省、新疆ウイグル自治区、雲南省、海南省などの地域では、小中高学校専任教員に大学院修了生が占める割合は相対的に低くなっている。

 
清華大学や北京大学の修士や博士課程修了生が中高学校教員の職を求めて殺到するのは、人材の才能を発揮させることか、それとも人材の無駄遣いか。

 
2019年に議論を呼んだいくつかの学校を見ると、小中高学校教員という仕事はどんどん人気が高まっているようだ。清華大学や北京大学の修士・博士号取得者という「豪華」な肩書も、少なからぬ学校では教師全員が備えている。しかし、まだ発展の恩恵に預かっていない地域の小中高学校では、教員を募集しても問い合わせすらないのが現実だ。

 
経済基盤がそこにどんなハコが建つかを決める。基礎教育を行う教員の待遇は、一地域の経済発展や財政力が大きく物を言う。

 
深セン市を例に挙げると、十分な財力が深セン市の小中高学校教員の高待遇を支える最大要因になっている。資金があるからこそ、一流の設備・教師陣・学生が保障され、教育レベルもますます向上するのだ。
 
しかし、一地域の経済発展に影響を与える要素は様々であり、発展は簡単に成し遂げられるものでもない。いかに地域差を調整し、基礎教育の均等発展を行っていくかが、今後より重要な問題となるだろう。

 
2019/12/6
 
青塔: 清北硕博生争当中学老师:是人尽其才,还是人才浪费?

地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 政府レベルでの取組
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