【ニュース・イギリス】英国のEU離脱によりオックスブリッジへの欧州研究資金が崩壊

 
2023年2月4日、Guardian紙はUniversity of OxfordやUniversity of Cambridge はかつて、欧州研究プログラムから年間1億3,000万ポンドを受けていたが、現在は、両大学間で年間100万ポンドとなってしまったことを伝えた。英国で最も名声のある両大学は、EU離脱以降、大規模な欧州研究プログラムからの資金提供が年間6,200万ポンドからゼロになってしまったことが、明らかになった。欧州委員会からの最新統計によると、前回の欧州研究資金プログラムである「ホライズン2020」の7年間で4億8,300万ユーロを獲得しているが、新しい「ホライズン・ヨーロッパ」の最初の2年間は何も受け取っていないことが分かった。

 
一方、University of Oxfordは前回のプログラムで5億2,300万ユーロ受け取っているが、「ホライズン・ヨーロッパ」においては200万ユーロしか受け取っていない。955億ユーロのホライズン・ヨーロッパへの英国の参加は、2020年のEU離脱貿易協定交渉の一環として原則的には合意された。しかし、英国は北アイルランドの議定書の実施を行わなかったため、参加が頓挫してしまった。

 
このような資金は、ヨーロッパ全体の機関との共同研究や国際的で偉大な名声を保つためにも、英国の大学にとって重要である。「高等教育や研究にとって、EU離脱によって新しい機会を失うなど、良くなることがひとつもない。」とUniversity of Oxfordの高等教育学のSimon Marginson教授が述べた。Marginson教授は、EU離脱とは「比類なき規模の歴史的な誤り」であるとし、通常はヨーロッパの中でもトップの成績を収めるOxford やCambridge に関する新しいデータは「大変心配」であると述べた。また、財政的な損失だけでなく、質の高いヨーロッパの研究者や学生にとって、その魅力が薄れていることを付け加えた。

 
政府は、3月末までに申請し、ホライズン・ヨーロッパの助成金の受け取りを授与されたすべてのものに対して、その金額を保証しているが、2年以上続いている政治闘争を傍観していると、重要なヨーロッパの研究パートナーシップが保護されることはないと思い、多くの研究者は英国を去ろうとしている。中東を専門とする考古学者であるAugusta McMahon教授が、昨年8月に26年間務めたUniversity of Cambridgeを去って、Chicago University に戻った。彼女は「私の分野では最高の業績がある」といわれて、米国から強い要請があったが、米国行きを決断した大きな要因はEU離脱の不確実性だったという。「政府がホライズン・ヨーロッパへ参加することや、助成金の穴埋めもないだろうと思った。」と語った。EU離脱以来、英国の大学に入学してくるEU圏の学生数は半分以上となり、McMahon教授はそれらの学生数の減少がキャンパスでも目についてきたという。

 
一方、ヨーロッパからの講師が英国の大学へ仕事を求めて来る数も減っているという。卵巣がんや乳がんの遺伝子疫学の研究者であるPaul Pharoah 教授は、昨年末に26年勤めたUniversity of Cambridge を去り、ロサンゼルスのCedars Sinai hospital で現在勤務している。
Pharoah教授は過去15年間の間にEUの助成金による2つの大規模なプロジェクトに携わっており、英国で自身の分野の助成金獲得が難しくなってきていることを述べた。また、「EU助成金に申請する機会がなくなってきており、今後の見通しの希望をなくした。」と語った。

 
University of Exeterを拠点としていたドイツ人の神経学を専門とするGáspár Jékely教授は、先週からHeidelberg Universityでの勤務を開始した。彼は高い名声のある欧州研究会議(European Research Council: ERC)の高度な助成金も一緒に持って行った。「ヨーロッパとの共同研究や助成金に対する不安が、移動を決めた理由の一つであった。ヨーロッパから研究者やポスドク研究者を誘致することがどんどん難しくなってきている。University of Exeterでの同僚の一人が、名誉のあるERCの助成金を獲得したばかりであるが、その助成金がどうなるかわからない、誰も300万ユーロを失いたくない。」と語った。

 
昨年4月、ERCは英国の150人の助成金獲得者に対して、助成金とともにヨーロッパの研究機関に移動するか、助成金を失うか、2か月以内に決断することを迫った。最終的には英国政府の研究資金調達機関であるUKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)は英国に残ったものに対して同等の資金提供を行ったが、8人に1人は英国を去った。

 
大学におけるEU離脱の影響を研究したCardiff University の研究専門家であるVassiliki Papatsiba氏は、英国は今後も優秀な研究者を失い続ける可能性を示唆した。「英国を拠点としているERCの資金獲得者の50%近くが他国の国籍を持っているので、このことが外に流失する要因を招く可能性がある。」と述べた。

 


Guardian紙:Brexit causes collapse in European research funding for Oxbridge


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