【ニュース・イギリス】英国政府は内閣改造で新たに科学を専門とする省を設立

 
2023年2月7日、Research Professional Newsは、英国の首相であるRishi Sunak氏がビジネス省を分割し、Michelle Donelan氏を新省庁の科学大臣として任命したことを伝えた。内閣改造の一環として、英国首相は新しく科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)を設立した。文化大臣であったMichelle Donelan氏が新しい省の大臣として任命された。「科学技術・イノベーションについて、我々が直面している課題を実用的に、応用可能な解決に導くことに焦点を当てる単独の部門を設立することで、世界で最も革新的な経済国になることに役立つであろう。」と政府は発表した。

 
この内閣改造により、内閣の閣議に参加する機会を持つことで、科学、イノベーション、テクノロジーが、政府内の重要な立場にあることが分かる。Donelan氏は、Boris Johnson氏の政権下では大学大臣であり、Johnson政権の終盤での危機の際に2日だけ教育大臣に昇格した。科学担当大臣であるGeorge Freeman氏の内閣入りは見送られ、Nus Ghani産業科学担当大臣との兼ね合いなど今後の役職に関してはまだ明らかではない。今回の内閣改造で、研究開発政策を担当していたビジネス、エネルギー、産業戦略省(Department for Business, Energy, and Industrial Strategy: BEIS)は3つの新しい省庁に分割された。

 

  • 科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)
  • エネルギー・安全保障・ゼロネット省(Department for Energy , Security and Net Zero: DESNZ) 
  • ビジネス・貿易省(Department for Business and Trade)は国際貿易省(Department for International Trade: DIT)と合併となった。

 
前ビジネス大臣であったGrant Schapps氏はエネルギー大臣となり、Kemi Badenoch氏がビジネス大臣に任命された。

 
関係記事①
2023年2月7日、WonkHE Bye Bye BEIS(さようならビジネス省)

 
Rishi Sunak氏が英国首相に就任して100日以上がたち、政府組織の改革の時期と決断した。新しく科学、イノベーション、テクノロジー省が誕生し、教育界ではなじみのある、元大学大臣であるMichelle Donelan氏がその大臣となった。(Michael Gove氏がこの任命を断ったとみられる)その他になじみある前科学担当大臣であるGeorge Freeman氏も新しい省で科学担当大臣に任命され、英国の科学にとって重要な日であると歓迎した。

 
総再編

 
ビジネス・エネルギー・戦略省(BEIS)は解体され、科学、イノベーション、テクノロジー省とビジネス・貿易省が新しく成立した。シンクタンクの英国政府研究所(Institute for Government : IfG)は、ビジネス・貿易省は国際貿易省(DIT)の機能を吸収し、現在国際貿易大臣で、大学の言論の自由の懐疑論者で知られるKemi Badenoch氏がこの省を導くことになったことを発表している。

 
政府の省庁でこのように担当部署が大幅に変更することは初めてではない。IfGのブログにはBEISとDITの歴史を語る素晴らしい解説画像がある。BEISの初期の体制は1861年の貿易委員会から始まっており、1970年代に貿易・産業省(Department for Trade and Industry)に代わり、その後2009年にビジネス・イノベーション・技能省(Department for Business, Innovation and Skills)(大学機関の責任も含まれた)となった。BEISは2016年に教育省の機能を吸収および分割する様々なことを経て成立した。

 
大きな利益のための大きな変化?

 
BEISの分割を支持する議論として、科学とエネルギー問題に焦点をあて、大学と研究を分割したときにも同じ議論があった。
このような微調整を支持する者は、科学とは広いビジネス政策の中で簡単に見失われるため、英国の経済の重要性からすると、特に科学に特化して、省庁の全機構の後ろに配置することに価値があると述べている。また、この独立で政策立案においてもっと刺激的となる機会も訪れる。政府ははっきりと企業寄り、科学寄りの問題を追及しており、ビジネスの利益、特に短期的に科学の利益と反する時がある。例えば、最近の研究開発税制の改革で大企業に圧倒的に莫大な利益をもたらし、小規模であるが機敏な革新的な企業を犠牲にした。省庁が分割することでより深く、恐らくもっと独立した政策を出すために距離を置くことで、より挑戦的な提案が出てくる可能性がある。

 
このような動きは見た目も重要である。科学に独立した省庁部門を持つことで、政府の優先順位を示すことになり、そのために適切な閣僚チーム、献身的な公務員、他の省庁と同等の権限が必要である。これは表面的ではあるが重要である。国として、研究が経済成長の基礎であり、政府はそのために調整することが重要である。もし、新しい省の後ろに資金、人材、注目があるのであれば、政府の中でも最も重要な省庁となる可能性がある。少し重要なこととして、英国にはもはや産業戦略はないため、BEISは政府の省庁の名前としては伴っているとはいえない。

 
解決しない問題

 
英国は科学に大変強い国であるということに疑いの余地はないが、その先天的な強みを使って経済や社会など全般的な問題を解決することは得意ではない。それは、科学超大国としての英国なのか、優秀なものの集まりなのか、壮大な計画なのか、科学にとってどう名前が付いたとしても、国として我々の可能性を活かせないことは、科学の位置づけのせいではない。研究が力不足である理由は、十分な資金を出していないからである。それはもっと複雑なことが絡んでいるが、実は、いわれるほど複雑ではない。政府は科学の公共投資を膨大に増加し、時間の経過とともにその影響は出てくるであろうが、支えとなる研究のインフラには、政府が思っているほどの経済成長をするための十分な吸収力がない。

 
国内では圧倒的な研究スペース不足が慢性化している。需要はゴールデントライアングルだけでなく、全国的に高い。研究するような場所がないため資金、イノベーション、研究どれも置き去りにされている状態である。例えば、Covid-19の流行で学んだことすべてにもかかわらず、最も危険な病原菌を扱うカテゴリー4の研究施設がロンドン北部にはない。これは大学と企業間の交通インフラ不備により莫大な生産性の損失を考慮する以前の問題である。

 
新しい省庁は、民間企業のイノベーションの解決にもならない。政府の言う科学課題という表向きの対応は飛躍的、大規模、興味のある科学にだけ向けられている。それらももちろん重要なことではある。しかし、NESTAの研究が示すように、基礎的な経済における研究の投資は確かに価値があるものである。過酷で退屈な作業が、イノベーション活動のためのビジネス能力への投資が、ビジネス経済全体を成長させる唯一な方法である。小規模企業の研究開発の税制優遇を撤回する政策は政府がやるべきことの正反対である。

 
新しい省庁、新しい機会

 
この議論の中心は、新しい科学省庁が、以前の省庁で行えなかったことを行うことである。大まかなその目的は、経済成長のための、科学とイノベーション活動の優先である。さらに、政府は省庁の新しい独立によって可能となる社会的な目標を考慮するべきである。もし、科学省が長期的な計画を立てるのであれば、持続可能、健康格差とそれらがもたらす社会的、経済的な苦境、子供の権利と健康に取り組むことで、長期的な経済利益として実現する社会的な目標となる。短期的に企業にとってコストが掛かる可能性があるが、社会の長期的な利益のためとなる。

 
ホライズン・ヨーロッパの行き詰まりを解決することが最も大きな課題だろう。Michelle Donelan氏、また、Kemi Badennoch氏はホライズン・ヨーロッパ参加に達することはないであろうが、両氏は最近日本と結んだような2か国間研究協定の策定に多くの時間を費やすことになるであろう。

 
科学省が効果的なものになるためには、その分断がもたらす焦点および、科学とイノベーションの使命を達成するカギとなる幅広い政府の各省庁への影響力、その両方を慎重にまたぐ必要がある。この観点から、科学省は科学インフラの慢性的な不足に取り組むための幅広い計画や、改革をするための十分な影響力と権限も必要となる。
絶えず変化のある科学界で一貫していることは、科学界はこれまで一度も科学を真剣に扱ってくれなかったと感じていることである。今まさに、科学の課題を形成する機会がある。またDSITが政府の中で最も強力な省庁の一つとなる可能性があると考えることは、不可能ではない。

 
関連記事②
2023年2月10日科学、イノベーション、テクノロジー省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)「DSIT」 内閣での重要な省庁

 
新しいDSITの大臣として任命されたMichelle Donelan氏は内閣の重要なポストに就任した。

 

  • 新しく設置されたDSITはより強力な成長、より良い雇用、大胆な新しい発見を促進すると、新大臣は述べた。
  • 明日を担う5つの技術(量子、AI、工学生物学、半導体、未来通信)に関わるものを一つのところに結集させた。
  • 技術大臣はその最初の訪問先として、Rosalind Franklin Instituteを訪れ、 4,000万ポンドの資金提供を発表した。これは世界のトップであるイノベーターに対して投資をする年間200億ポンドの一環である。

 
同日に新しくDSITの大臣として任命を受けたMichelle Donelan氏は、イノベーションは政府の課題の中心であり、内閣内で重要な省庁の一つとなったことを述べた。オックスフォードのハーウエルにある重要な医学研究センターを訪問した大臣は、現在および未来の課題に取り組むため、強靭な成長、より良い雇用、大胆な発見を目標とする計画を発表した。

 
技術、科学界から長きにわたり省庁の設立を求められてきたが、DSITは英国を世界で最も革新的な経済国であり、科学技術超大国にするという明確な使命を果たすために首相によって設置された。この省庁の再編成により、量子、AI、工学生物学、半導体、未来通信という5つの明日を担うテクノロジーを生命科学、環境保全技術(green technology)とともに初めて一つの省庁に集結させた。このRosalind Franklin Instituteの訪問において、技術大臣は新しい省庁はいかに科学技術の革新力を利用し、急速な経済成長、高スキル職の創出または公共機関や英国に住む人々の生活の改善をするかについての計画を語った。

 
DISTの大臣であるMichelle Donelan氏のコメント:

 
「科学と技術は我々の認識を超えて世界を変革し、我々の生活を改善する可能性を秘めている。科学、イノベーション、テクノロジー省という新しく、専門的な省は、生産性を高め、高収入、健康、教育、交通機関の改善をする政府の政策である経済成長にとって重要な省である。この新しい省は、科学界、技術界、産業界からの温かい歓迎を受けており、AI、生命科学、量子、フィンテック、環境保全技術などの分野において、我々が世界を率いる強みを構築し、英国全体に具体的で前向きな変化をもたらすことが私の仕事である。」

 
Rosalind Franklin Instituteは、大きな健康研究の課題に取り組む新しい技術開発を行うための最前線にいる。2018年に政府から1億300万ポンド投資を受けて2021年9月に設立された。今回の訪問の一環として、UKリサーチ・イノベーション(UK Research and Innovation: UKRI)の工学・物理研究会議(Engineering and Physical Sciences Research Council: EPSRC)を通じて同研究所に対して4,000万ポンドの追加投資を発表した。Rosalind Franklin Instituteで開発中の技術は、アルツハイマー病などの変性疾患の初期症状の発見など健康における課題に取り組んでいく。

 
研究者たちは、Covid-19の治療に使用可能とされるラマからの抗体特定など、すでにこの分野において大きな進展を果たしている。
将来的には、実際の患者からの組織試料を利用し、疾患のダイナミックス、薬物効果、原理レべルの診断を行うことが可能となる。

 


Research Professional News:UK government creates dedicated science department in reshuffle
WonkHE:Bye Bye BEIS
GOV.UK:Science, innovation and technology takes top seat at Cabinet table


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