【ニュース・イギリス】 外務省の審査がトップ研究者を英国から妨げている‐英国王立学会の警告

 
2022年11月7日、Guardianは外務・英連邦・開発省(Foreign, Commonwealth and Development Office: FCDO)の審査が世界のトップクラスの研究者の英国入国の妨げになっているという警告が英国王立学会(Royal Society:RS)から出ていることを伝えた。

 
政府のアカデミック・テクノロジー承認制度(Academic Technology Approval Scheme: Atas)は、軍事用途の可能性のある技術の輸出防止を目的として設定され、国家安全保障の取り締まりの中、昨年は大幅に拡大された。しかし長期の遅延で、名誉あるポストに最高7か月間も就くことができないケースもあり、このような問題が海外での英国の名声に傷つけるとして不満が高まってきている。

 
「制度により人材獲得が妨げられている」RSの外務書記官および外務省の元科学主任顧問であったRobin Grimes教授は述べた。「優秀な人材はじっと待っているものではない。米国、カナダ、フランス、ドイツ、これらの国は我々と同様に優秀な人材を集めている。これは大きな国家的危機である。」

 
この制度は、軍事的使用の可能性があると判断される「慎重な扱いが必要な分野」の研究をしている一部の地域を除く(EUと米国の研究者は免除)全ての研究者が対象となっている。特に工学、コンピュータ学、材料科学、物理学、生物科学の研究が特にその対象となる。

 
以前は大学院生のみが対象とされたが、昨年より、既に英国滞在の研究者も含めて熟練労働ビザ保持の研究者まで対象が広がった。

 
大学の情報公開請求によると、昨年、少なくとも60人の研究者(半数が中国から)がAtasの審査によって安全保障の懸念があることが分かり英国から退去していることが分かった。

 
FCDOは同紙に対して、申請書の多くは30日以内で処理されていることは語ったが、平均的な処理時間もしくは未処理数に関しての詳細は控えた。

 
大学のトップは受け入れがたい遅延に直面しているケースもあると述べている。「大学側は遅れている研究者のために柔軟な対応を行うようにしている。しかし一部の場合承認までの期間が非常に長く、何か月も不安定な状態でいる。」と英国大学協会(Universities UK: UUK)の最高責任者であるVivienne Stern氏が語った。

 
またこの審査過程が極めて厳格で不透明という点についても懸念がある。内務省のビザ申請とは違い、却下の理由の提示はなく、不服の申し立て手続きもできない。

 
University of Edinburghで風力発電の研究をするAlasdair McDonald教授は、最近大学院生を採用したが許可が出るまで5か月かかった。「まるでAtasを担当する機械学習技術があり、すべてのやり取りを無視し、4か月から7か月待たせ、何も明確な理由がないのに、ある程度の率で申請者を拒否するアルゴリズムがあるようである。」と語った。

 
「決定過程の仕組みについては調べようがないようである。非公開裁判を受けているようだ。資金不足なのか人材不足なのか疑問である。もしくは一定の人数の研究者をあきらめさせているのか。」

 
同紙は、この過程に対して不満を抱いている研究者から話を聞いた。匿名を希望するとあるインド人の物理学者は、Atasからの許可に7か月待たされた。その間に200人からなる研究者申請者リストを作成し、その中でも同じように遅延に直面している者もいた。「多くの若手で意欲的な研究者と連絡を取り合ってきた。彼らはこれほど待たされているので怒りを感じていた。」

 
他のインド人科学者は、フランスの名門大学で博士号を取得し、名誉ある国際的な賞を受賞し、チューリッヒからのポジションを断りUniversity of Cambridge の職を得て8月当初から申請をしているが、いまだに待っている状態である。

 
その他ではエジプト人の技師で過去5年間University of Birmingham を拠点に活動しているが、Atasの許可が出るまでの4か月の間にビザが切れたので出国できないでいる。

 
Grimes教授は「大学院生の取り締まりを含む移民法に関する最近の内務大臣の発言やG7諸国の中でも最も高額な英国のビザなどは国際的な科学者を歓迎していないという印象がある。英国で研究を希望している候補者に、そうではなく、我々は心底から皆さんに来てほしいと思っているといいたい。政府が移民数の減少を希望していることと、英国に来る科学者とは全く関係ないことを明確にしてもらうと助かるのだが。」と述べている。

 
政府の広報担当者は「我々は申請者の研究の遅延を最小限にするための努力をしており、ほとんどのAtasの申請者は30営業日内で処理を行っている。しかし、繁忙期においては通常より長くなる可能性もあり早めに申請することを奨励する。」と述べた。


Guardian:Foreign Office vetting deterring top scientists from UK, Royal Society warns


地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
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