【ニュース・イギリス】欧州の研究プログラムを超えた英国の研究開発と共同研究の支援

 
2022年7月20日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS) は、もし、ホライズン・ヨーロッパや地球観測プログラムのコペルニクス、欧州原子力共同体ユーラトムへの参加ができない場合、英国はどのように新しい研究開発のプログラムに移行するかを発表した。

 
政策文書である「Supporting UK R&D and collaborative research beyond European programmes」は、現在開発中である英国の長期的なホライズン・ヨーロッパの代替の概略が述べられている。人材、研究、イノベーション、研究開発のインフラ、国際提携に投資することにより英国の強さを構築するというものである。

 
英国の研究者や企業に資金の安定と持続性を提供するために提案された移行措置の詳細は下記とおりである。

  • ホライズン・ヨーロッパ保証
  • 成功を収めた進行中の申請に対する資金提供
  • 現存の人材開発プログラムの向上
  • イノベーション支援の向上
  • ホライズン・ヨーロッパの人材育成資金の損失によって最も影響のあった研究機関への資金提供
  • ホライズン・ヨーロッパにおいて第三国としての参加の継続

 
コペルニクスとユートラムプログラムのための英国の長期的な代替案の見通しも概要に含まれている。

 

ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)Supporting UK R&D and collaborative research beyond European programmes
 
GOV.UK: Supporting UK R&D and collaborative research beyond European programmes

 
関連記事: 2022年7月20日、University Business: Government confirms Horizon Europe contingencies
 
研究界は、政府の移行措置の具体的な内容を受け入れているが、長期的な計画はどれだけ包括的かつ、詳細まで決められているか疑問視されている。
 
英国政府は、ホライズン・ヨーロッパへの参加に関するEUの研究開発計画が終了した場合の長期的な代替案、いわゆるプラン B を発表した。
 
欧州の955億ユーロの研究プログラムの継続的な参加は、英国とEUの間で北アイルランド議定書をめぐり同意がないため、今年はますます不透明になってきている。

 
プランB は、政府、特に新しい国家科学技術会議によって制定された、研究開発を優先する長期計画と、英国の研究開発のための「安定、継続した資金を提供する一連の一時的な移行措置」という短期的なもので成り立っている。

 
短期的計画

 
移行措置には、ホライズン・ヨーロッパ保証、2022年末までに英国から申請し資金を勝ち得たものへの代替資金を約束、EU が評価を行わなくなった場合、優れたものが確実に資金提供されるように、わずかに評価に届かなかった現在進行中の申請に対して資金提供をすることが含まれている。

 
その他の移行措置として、中小企業(SMEs) に目標を絞ったInnovate UKのスキームへの資金提供の強化、海外からの研究者の誘致と維持のための大胆で新しい、英国研究奨励制度、表彰制度なども含まれている。政府は、2025年初頭までに外国、俗にいう第三国の機関としてホライズン・ヨーロッパに申請する英国全組織に対する資金を提供する予定である。

 
長期的計画

 
政府によって発表された長期的な見通しでは、「価値が高く、長期的な研究奨励制度、優れた国際的な流動性を有する、主要となる人材誘致がある。」世界的な提携に関しても資金があり、世界中の提携国の研究者と、ボトムアップの共同研究、多国間、また二国間の提携、ホライズン・ヨーロッパへの第三国としての参加のための資金も用意される。

 
徹底したイノベーション、特に「イノベーションの商業化と取組の加速」のための新たな焦点と資金提供が行われる。大学は、英国の新しい方法に対応するための「追加資金」と「世界レベルのインフラおよびデジタル研究能力」を構築するための支援が期待される。

 
特に、政府は、代替案は先駆者であるヨーロッパの「優秀な部分を含めるべき」であるが、英国の優先順位や、イングランド南東部を除く地区に対する研究開発の基準を高める必要があるとしている。新しい計画の特徴は、官僚主義的な方法をなくし、柔軟性のあるものであると政府は付け加えている。

 
University Business: Government confirms horizon europe contingencies

 
2022年7月21日、Science Business: UK publishes details of 「Plan B」 alternative to Horizon Europe

 
英国政府はホライズン・ヨーロッパの参加をまだ希望しているが、欧州委員会は北アイルランドの議定書の摩擦が解決するまで、参加を拒否しているため、英国は我慢の限界を超え、参加を取りやめた場合どのようにするか対応を発表した。

 
University of Strathclyde の戦略研究・イノベーション開発部の部長であり、英国のこれまで複数の科学大臣の前顧問である Ben Johnson 氏は「現在の状況はホライズン・ヨーロッパへ参加しておらず、その影響を感じている。この政策文書は、今後数年間のシステムの保護と安定を取るためのはっきりとした計画が出されている。」と述べた。

 
その計画は2つに分かれている、最初は「移行措置」で英国がもし参加を待つことをあきらめた場合、本格的な代替案を実施する前に土台を固めるように計画されている。

 
最も重要な内容は、2025年3月31日までに助成金契約が締結されたホライズン・ヨーロッパのコンソーシアムの英国参加者全員に対して資金を保証したことである。

 
たとえ英国がホライズン・ヨーロッパに参加しなくても、英国の研究者は自分で資金を持っているならば、調整はできないが、これらのコンソーシアムに参加できる。つまり、調整できなくても、英国の研究者は3分の2の応募ができるようになる。

 
全てのコンソーシアムに資金を提供するというこの約束は、資金提供を特定の分野に制限したり、資金を得るための余計な審査をするかもしれないと心配だった大学にとっては朗報である。

 
Wellcome Trust の政策・擁護部門担当である Catherine Guinard 氏は「多岐にわたり、また、2025年までというところが重要だと思う。もし分野に制限があるのであれば、英国と EU にとって本当に心配なことである。」と語った。

 
土台を固める

 
さらに、英国はホライズン・ヨーロッパに参加しないという打撃の緩和として、その他の既存の制度にも資金投入する。

 
国内の学会やその他資金提供機関によって運営される様々な奨学金制度へ追加資金提供がされる。

 
英国の企業がヨーロッパのパートナーとの関係を維持し、韓国、カナダ、シンガポールなど、より遠くの国とより強いパートナーシップを構築するため、世界的な Eureka network も含む様々なイノベーションプログラムに追加資金が出資される予定である。

 
ホライズン・ヨーロッパからの資金を失くす事で、特に打撃を被る大学収入を助けるため、「人材と研究安定基金」が設立される。

 
英国は、ホライズン・ヨーロッパの資金獲得の資格がありながら、参加が認められなかったため、資金調達ができなかった研究者に対して資金を引き続き保証する。

 
研究集約系大学のラッセルグループの政策担当者である Jo Burton 氏は「我々が本当に望んでいることは、研究者がホライズン・ヨーロッパのプログラムに参加を続け、どうにかして資金提供を受けるという保証を与えることである。」と語った

 
その他に英国政府は、ホライズン・ヨーロッパへの進行中の申請に関しても検討を約束した。これは 欧州研究会議(ERC)欧州イノベーション会議(EIC) のように単一の受益者制度への申請で、英国は参加を辞めたため評価される対象ではなくなった。

 
その代わり、UK リサーチ・イノベーション(UKRI) に再提出し評価が行われ、その内容が十分なものであれば資金提供の対象となるが、その評価に関しては詳細がまだわかっていない。「良いものになっているが、ERC の助成金とは比較にならない。」と Guinard 氏は語った。

 
長期的な代替案

 
移行措置は、ホライズン・ヨーロッパに代わる完全な英国版への橋渡しとして計画されている。しかし、それがどのぐらい時間が必要かは不明である。

 
予想通りに、英国版の ERC となるものが含まれることになるであろう。「我々の大胆な英国の奨学金制度や表彰制度プログラムは、ERC や MSCA の成功から採用し、同じキャリアの特典や名声を提供し、資金と柔軟性を強化し、英国の最高な人材を誘致、維持する。」と計画には書かれている。

 
さらに、英国の研究者が第三国として参加する、ホライズン・ヨーロッパのコンソーシアムに参加するための資金提供の継続など、研究者同士の国際的な提携も支援する。

 
移行措置下で、全てのコンソーシアムは2025年まで支援を受けることになるが、その保証は限定的、もしくは英国でその後特別のテストが実施される可能性がある。英国大学協会国際部の部長である Vivian Stern 氏は「長期的なことについて疑問が残るが、価値があることを証明しなくてはいけない。」と語った。
 

英国の長期計画では、産業研究やイノベーションにより多くの資金の投入を行い、その上新しい研究インフラとデジタル研究能力への資金提供も考えている。この計画は Oxford 、Cambridge、そして、ロンドンの大学のいわゆる、「ゴールデントライアングル」への圧倒的な資金提供を切り離し、国全体でよりバランスの取れた研究開発の活動を達成するためのかじ取りとしている。
長期計画の詳細に関しては、この秋に発表予定である。

 
保証ゼロ
 
しかし、最新の計画にもかかわらず、英国の首相の交代は全てを疑わしい方向にもって行く可能性がある。
 
昨年、複数年の歳出見直しで、2025年までホライズンの参加もしくはその代替に対して69億ポンドを確保し、ともかく助成金を受け取ることになる大学を安心させた。

 
しかし、Boris Johnson 首相の失脚により、英国の研究者は Johnson 首相の後任者はこの資金を別の優先事項のため使用するのではないかと懸念している。

 
Burton 氏は「心配ではある、財政的なプレッシャーはたくさんある。」と述べている。

 
Stern 氏は「なにも保証されていない。そのうちわかることである。」と語った

 
英国大学協会(UUK) は、最終首相候補である、外務大臣の Liz Truss 氏と、前財務大臣の Rishi Sunak 氏に研究とイノベーションを優先させることを求めた書簡を送付した。候補者二人とも、ホライズン・ヨーロッパ参加の資金に関して同意した Boris Johnson 首相の内閣にいたので、一つの希望となっていることを指摘している。

 
しかしながら、科学と研究は首相争いの中で話題となっておらず、減税など他の話題によって取り上げられていない。

 
有力候補の Truss 氏は、減税のための緊急予算を公約としており、ブリュッセルへの不信感を深めている北アイルランドの議定書を無効とする法案を支持している。

 
保守党党員は、Truss 氏か Sunak 氏か次期首相を決める投票を9月までに行う。

 
最後のあがき

 
ホライズン・ヨーロッパへの参加が風前の灯火であるとはいえ、英国政府や研究機関のトップは、欧州委員会が英国の提携の拒否を取り下げれば、広域的な政治争いは横において、一気に問題を解決することができると指摘している。

 
Russell Group の最高責任者である Tim Bradshaw 氏は、EU 連合の Ursula von der leven 委員長宛ての書簡において、「英国の参加を認めないことは誤りである。」と述べている。

 
「英国の完全な参加がなければ、プログラムは競争力をなくし、EU 助成金の卓越や名声に対して連鎖的に影響が来る。従って、参加を交渉の一部とすることはあまりにも重要で、現在の行き詰まりは、北アイルランドの議定書に関して何も利益がないことを示している」と書いている。

 
「ドアが閉ざされようとしている。いつまでも中途半端な状態ではいられない。しかし、EU 連合にとって最後のあがきのチャンスがある。」と Stern 氏は述べた。


Science Business: UK publishes details of ‘Plan B’ alternative to Horizon Europe


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