【ニュース・フランス】処分を受けるスター研究者(ストラスブール大学のフランス国立科学研究センター(CNRS)研究者の論文不正への対応)

処分が決定された。2010年以降、フランス国立科学研究センター(CNRS)からスイス・チューリッヒ連邦工科大学に出向している植物生物学の花形研究者、オリヴィエ・ヴォワネは科学論文発表に際して重大な誤りがあったとして、これら2つの機関から処分を受けた。2015年7月10日、パリとスイスに設けられた2つの委員会が出した結論が明らかにされた。CNRSのアラン・フックス会長はオリヴィエ・ヴォワネをチューリッヒ連邦工科大学への出向終了後、2年間は停職処分とすることを発表した。一方、連邦工科大学側は彼の古巣であるストラスブールの研究室との活動を制限するよう、戒告を出した。オリヴィエ・ヴォワネには今後、仕事面での行動改善に必要な措置をとれるよう、外部の専門家が同行するようになる。
監視人をつけるという決定は、植物科学、とりわけRNA干渉、専門家たちから待ち望まれていたことである。RNA干渉とは遺伝子発現抑制のメカニズムであり、これに関する研究でオリヴィエ・ヴォワネは世界的な専門家のひとりとして、若干43歳でフランス科学アカデミー会員に選ばれ、一部ではノーベル賞候補と目されていた。
この数ヶ月間、「ヴォワネ事件」で、彼が1998年からつい数ヶ月前までの約40編の研究論文で行ったと指摘されている実験データの改ざんがどのような種類のものであったか、研究室では議論が続けられてきた。

-十分注意を払うということを無視した
この重大な疑念はまず、2014年9月に科学研究における告発サイトPubPeerに匿名でもたらされた。ついで、2015年初頭、CNRSと連邦工科大学首脳にあてられた不正を指摘する匿名の複数のメールに続いて、新たな一連の記事が発表された。これらの指摘には十分な信憑性があったため、関係2機関のみならずオリヴィエ・ヴォワネが学位を準備した英国の研究所も調査委員会を発足させた。並行して、科学論文誌数誌が問題の論文の修正、取り下げのため協議をした。
CNRSでは彼が関係した13編の論文でデータ整理・表現で適切なやり方に欠けていたとした。連邦工科大学では、彼は公表した図表の内容に十分な注意を払うという義務も、また、研究グループの長としての監督義務も怠っていたとした。
これら2つの機関の処分では、連邦工科大学はこのフランスの研究者を信頼して、 30人の研究チームを構成し、多くの投資をしてきたためか、その処分はCNRSよりも緩やかに見える。しかし、連邦工科大学は詳細で、日々の研究にかなり影響を与える報告をしている。4人のエキスパート(うち、2人は連邦工科大学所属)が22ページにわたり、批判を展開しており、ねつ造(実験結果に正確には対応しないもの)、画像の一部の複製、画像背景の修正、同じ画像を複数の論文で再利用する、但し書きなしの画像の切り抜きが指摘されている。エキスパートたちは1998年以降の彼が関係した32編の論文中、20編になんらかの問題があるとしている。これは彼の実験に関する論文数のほぼ半分に相当する。このうち5編の論文は著者の意図的な操作があったとして、取り下げを勧告している。エキスパートたちは、この問題の重大さを4段階のうち、もっとも重大なものから2つ目に位置づけている。もっとも重大なものは、結果の完全なでっち上げであり、オリヴィエ・ヴォワネの場合はシロである。彼の場合、その論文のいくつかがこの2番目のカテゴリーに入る。つまり、結果をよりよく見せたり、きれいに見せたりする場合である。

-論文作成のショートカット
事実の解明にあたった者は、なぜ、いつもこのような事態が発生するのか理解に苦しむ。しかし、実際には、ありのままのデータが使われず、「操作を加えられた」画像で置き換えられる。その理由として、「プレッシャー」が作用していると考えられる。早く論文を公表したいという思いで、論文作成過程で近道をしてしまおうという誘惑に乗ってしまう。
7月9日のCNRSアラン・フックス会長とのインタビューでは、CNRSは誠実さをもって対処し、妥協することはないと述べている。
研究論文においてさまざまな「科学的不品行」があることについては、現在の科学がグローバル化していることから来る、ひとつの結果ではないか。次第に激化する競争において、それぞれの研究グループは未公開でかつ、よくまとまった結果という原則にしたがって、結果を公表する最初のチームでありたいと思う。実際にはたとえ、結果が反論に耐えるだけ十分に検討されていなくても、先に発表する方がいいと考えるようになる。
現実には、このような誘惑に打ち勝つのは非常にむずかしい。なぜならば、研究者は誰しも同じ思いをするものであるから。

アラン・フックスは科学研究に関するわれわれのモデルが限界の形式に達しようとしていないのであれば、科学論文発表がさらに進化するために、世界レベルで措置を講じる必要があると述べている。

オリヴィエ・ヴォワネは彼が糾弾されている欠落のいくつかに対して、別の説明を与えている。問題のいくつかは自分が責任者である研究室での仕事のやり方に起因しているかも知れない。研究室では毎週セミナーを催しており、各研究者は自分の番になると研究の進捗を報告しなければならない。それは平均で6ヶ月に一度である。研究が進んでいることを示すには理想的な図表を示したいと思うだろう。そうやって、近道を通ろうとするのではないか。そして、これらの図表が発表されてしまった。

-被害は明白である
行きすぎた画像の複製や転写がそんなに長期間にわたって発覚しないでいられるか?ピアレビューシステムでは、匿名の研究者たちは、示される結果に一貫性を保証していると見なされる。
この件に関して問題に気付いた有力な論文誌はまだ、対応を明らかにしていない。この点で、連邦工科大学に提出された報告書では、しばしば匿名性のため、科学界からは疎まれるPubPeerであるが、そのポジティブな面を強調している。調査の最終結果を待たずとも、研究者たちはヴォワネのことを非難している。「彼のグループはしばしば近道をして論文発表レースで有利に動いてきた」、「生物学、とりえわけ植物生物学にとって、これは恐ろしいことである。大衆の信頼を失い、社会におけるわれわれのイメージを台無しにしてしまった。その影響は計り知れない」、「被害は明白であり、われわれのグループ、そして自分も、彼の同僚や共同研究者たちを大変残念に思う。信頼を回復しなければならない。

・Le Monde, Edition Sciences & Medecine, page 3“Un churcheur vedette sanctione”(2015年7月15日)

地域 西欧
フランス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組