【海外センターレポート・ブラジル】法案第529号について

 
 サンパウロ州のジョアン・ドリア州知事は2020年8月13日、州財政の均衡を図るための財政再建措置を定めた法案第529号を州議会に提出し、
種々のセクター、特に学術界に大きな動揺をもたらしました。ドリア知事は、「パンデミックの影響でサンパウロ州政府は大幅な税収減に
見舞われ、数ヶ月間で100億レアルの赤字を記録した。財政健全化は必至」と説明しました。(※1)

 
 この法案は、簡潔に言えば独立行政機関の廃止、州内9ヵ所の公立公園の民営化、USP(サンパウロ大学)、UNESP(ジュリオ・デ・メスキータ・
フィーリョ州立大学)、UNICAMP(カンピーナス大学)の3大学の収入への州政府の介入を定めています。具体的には、3大学とFAPESP
(サンパウロ州学術研究支援財団)の年間収入の余剰分(2020年度は総額約10億レアル)の州政府への返還を求めるというものです。

 
 サンパウロ州立大学総長審議会(CRUESP)は、この法案を批判する複数の声明を発表しており、「(当該法案は)大学の独立した運営と
事業計画立案の体制を脅かすもの」との見解を示しています。(※2)

 
 サンパウロ州ではここ数年、州税の商品流通・サービス税(ICMS)の大学への配分が減少しており、サンパウロの州立大学は経済危機
と収入減に見舞われています。これまでは、積立金があったことで学術活動の継続は実現可能なものとされていましたが、サンパウロ州政府は
その積立金の返還を求めています。

 
 パンデミックによる危機的状況の改善のための政策に大学も協力すべきというのが州政府の主張ですが、大学関係者はその主張に反論し、
知識生産の拠点としての大学の役割と、新型コロナウイルス拡大防止への支援の実績を強調しています。コロナ検査の実施、国内の技術を利用
した低コストの医療機器の開発、ウイルスのDNAシークエンス、優れた医療サービスの提供がその主な例です。

 
 この法案は、州議会において特例扱いで審議されていますが、9月末に、定足数に満たないことで票決が2回延期されました。3大学の総長
の見解のとおり、大学の自治はネガティブなものではなく、危機的状況の改善に寄与するポジティブなものです。州政府と州議会において、
長期的視点をもって、知識生産の継続と技術発展における大学の独立運営の重要性が認識されることが期待されます。
 


(※1) Brasil de Fato: PL de Doria que extingue 10 empresas públicas de São Paulo tem votação adiada
(※2) Jornal da USP: Cruesp divulga novo comunicado sobre o Projeto de Lei nº 529/20

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政