【海外センターレポート・ブラジル】小規模企業における画期的な研究プログラム(PIPE)について

 
今回は、20年にわたってブラジルで実施されているPIPE(小規模企業における画期的な研究プログラム)について報告します。これは、サンパウロ州内の、大学や研究機関ではなく小規模企業に所属する研究者への研究助成金を提供するプログラムで、競争力強化に向けた企業内における科学技術の研究・開発活動の支援を目的としています。プログラムは、その設立以降、サンパウロの小規模企業の約2,000件に及ぶ科学技術研究事業を助成してきました。
 
プログラムはFAPESP(サンパウロ州学術研究支援財団)により1997年に開始され、公募により助成申請のあった事業のうち、選ばれた30件の事業に助成金が提供され、その実施は大成功を収めました。このプログラムはそれまで国内で行われていなかった種類のもので、1982年に米国で発足した「中小企業技術革新研究プログラム(Small Business Innovation Research:SBIR)」の雛形にもなりました。SBIRはその名のとおり、米国の中小企業で行われる研究開発事業におけるイノベーションを支援するものです。
 
PIPEの助成対象となる事業は、サンパウロ州内の企業の研究者により展開されるものとし、その種類はウシ胚、医療機器、生物学的制御、バーチャル・リアリティ、人工知能、精密農業、レーダー、衛星の推進等、非常に多岐にわたります。このプログラムの助成を受ける、スタートアップを含む技術開発を行う中小企業は、雇用を創出し、付加価値や富を生み出し続けています。
 
◇プログラムの実施段階
PIPEは、3段階で行われます。
第一フェーズ(最長9ヶ月)は、助成許可を受けた企業が、プロジェクトの初期段階として、問題の解決策として生まれたイノベーションの技術的、商業的な実行可能性を証明するための研究を実施する期間です。
 
第二フェーズは最長2年で、研究そのものを実施する期間です。研究内容によっては、プロトタイプの建設等にまで達することもあります。
 
最終の第三フェーズは、イノベーションの最終段階で、開発対象の商品やサービスの市場への参入までを含みます。PIPEを実施するFAPESPの定款上、PIPEが助成するのは研究のみで、商業目的の製品の販売展開は助成の対象とはなりません。従って、このフェーズは、PAPPE(企業における研究支援プログラム)の運営母体であるFINESP(研究・事業助成公社)との共同で行われます。FINESPとFAPESPとの協定は2004年に締結されました。
 
◇プログラムの成果
PIPEの成果は、サンパウロ州の科学、技術、経済、社会的開発において非常に重要なものとなっています。州立カンピーナス大学科学技術政策部門の研究者により2009年に行われた評価・調査の結果、PIPEの成果として以下の結論が発表されました。

  • 雇用件数(従業員)の数が29%増えた。
  • 大卒の従業員の数が60%増えた。
  • 博士号を持つ従業員の数が91%増えた。
  • FAPESPの助成金の1レアルにつき、企業は(資本金、売上金、またはその他の収入源として)10.50レアルを調達できた。

 
このプログラムへの関心、人気は高く、2017年には、1月から11月までに約900件もの応募があり、その中で300件が承認されました。
 
◇今後の計画
このプログラムは過去20年にわたって成果を生んできましたが、まだ複数の課題があります。FAPESPのブリット・クルス理事は、「助成を受けた企業が世界に影響力を及ぼすような研究成果を出し、サンパウロ州に、国外の投資家の関心を呼ぶ企業が多数生まれることを期待している。次の10年間の主な目標は、そのために、世界に通じる商品の開発を促進すること」とコメントしています。
 
国内でイノベーションが積極的に進められているとは言えない状況の中、FAPESPはこの目的の達成のため、破壊的技術の開発支援を目的とした、小規模企業向けイノベーションプログラムの創設を検討しています。また、助成を受けた企業が、インキュベーション段階を経て他国で事業所を開設することができるような、PIPEの国外への展開も検討されています。さらに、PIPEの助成を受けた企業が、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家(起業家のスタートアップを助ける個人投資家)の投資を受けやすくするような試みも計画されています。
 
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

地域 中南米
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