【ニュース・中国】滑り出し好調!『ネイチャー』誌 復旦大学馬余剛院士、クォーク物質の全体分極研究で重要な新成果

 
先日、復旦大学の馬余剛院士をはじめとする研究者のチームは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の国際共同RHIC-STAR実験(高エネルギー重イオン衝突実験)において、最終反応状態の粒子の全体スピン配列(global spin alignment)現象を観測した。この結果はクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)における強い相互作用の研究に新たな可能性を示すものである。関連成果は1月18日に『ネイチャー』誌に発表された。

 
この実験結果は、BNLの重イオン衝突型加速器RHIC上に設置されたスパイラル軌道実験装置STARで観測されたもので、ほぼ光速度にまで近づいた金原子核同士の衝突実験で生成されたクォーク物質中に生じたΦ中間子が起こす「全体分極」という新現象である。非中心相対論的重イオン衝突では、反応面の法線に沿って巨大な軌道角運動量が生じる。理論研究では、この角運動量が流体の渦の形でQGP中に伝わり、QGP中の粒子がスピン軌道の相互作用によりスピン分極を生じさせることが指摘されている。このような事象反応面でのスピン分極効果は「全体分極」効果と呼ばれている。ただ、興味深いことに、重イオン衝突で生じる強磁場や物質の渦場などの従来のメカニズムでは、STAR実験から得られた新たな観測結果は説明がつかない。

 
『ネイチャー』に発表した論文で、馬余剛院士のチームと共同研究者らは、STAR実験装置でΦおよびK*0中間子の全体スピン配列を測定した。研究チームは馬院士のチームが2005年に確立したデータ分析法(DOI: 10.1103/PhysRevC77.061902)を採用し、粒子崩壊により生じた生成物による反応面の法線方向の角分布を追跡して、この角度分布測定値を母粒子が3種のスピン状態にある確率に変換することで、母粒子のスピン配列の密度行列を測定した。スピンとは素粒子に固有の角運動量で、その本質は相対論で言う量子効果であることが分かっている。スピン状態にある粒子を回転するコマに例えれば、コマの回転軸同様、粒子のスピンにも向きが存在する。今回『ネイチャー』論文で述べられた「全体分極」は、新しく発見された現象である。全体的なスピン配列のシグナルがない状況では、ΦおよびK*0中間子のスピンが3種類のどれかの状態にある確率はいずれも3分の1で、K*0中間子の場合、実際の測定結果でもこのことが示された。だが、Φ中間子の場合、実験データからある1種類の状態が他の2種類の状態を上回るという強いシグナルが読み取れた。

 
しかしながら、従来の理論では、QGP中のラムダ・ハイペロンの全体分極は説明できても、今回新たに観測されたベクトル中間子の全体スピン配列という結果は説明がつかなかった。従来のメカニズムでは、クォークレベルのスピン分極を中間子の全体スピン配列に変換して得られる効果は、今回『ネイチャー』の論文で発表された新たな測定結果よりはるかに小さい。最近、中国の理論核物理学の研究チームは、QGP内に生じる強い相互作用の局所的ゆらぎがΦ中間子の全体スピン配列を誘導している可能性があるという新たな観点を提唱した。この新しいメカニズムは、ΦとK*0中間子のクォーク組成の相違も考慮に入れており、なおかつ、実験で観測された両者の差も説明することができる。もちろん、この理論を検証するにはさらに多くの実験結果が必要となる。

 
相対論的重イオン衝突におけるクォーク物質の全体分極は自然界にも類似の現象が見られる。例えば地球が太陽の周りを公転するとともに自転もしているのと同様、相対論的重イオン衝突で生成されるクォーク物質も、1秒間に10の21乗回の速度で回転すると同時に、一定の方向性を示している。この方向は、地球が太陽の周りを公転する際に示す傾斜角に類似している。

 
新たな実験研究は引き続き進行中で、馬余剛院士のチームと共同研究者らは現在、クォーク-反クォークの対で形成された粒子のスピン全体配列であるJ/Ψ粒子の全体分極の実験に取り組んでいる。J/Ψ粒子のスピン全体配列を発見することができれば、「強い相互作用の局所的ゆらぎ理論」のさらなる根拠となり、さらにこれらの粒子の全体分極を用いて、強い相互作用の局所的ゆらぎの強度を数値化し、QGPにおける強い相互作用メカニズムの研究に新たな方向性を示すことができる。

 
STAR大型国際共同実験の規約に基づき、論文執筆者の名前はアルファベット順に並んでいるが、実際の主力メンバーは、復旦大学チームの馬余剛院士、陳金輝研究員、周晨昇ポスドク研究員の他、BNLの唐愛洪研究員、イリノイ大学シカゴ校の孫旭ポスドク研究員(現在は中国科学院近代物理研究所に勤務)、ケント州立大学のDeclan Keane教授、中国科学院近代物理所のSubhash Singha研究員の7名である。

 
この研究プロジェクトは、国家自然科学基金委員会重要プロジェクト、国家自然科学基金委員会傑出青年科学基金、および国家自然科学基金委員会理論物理特別予算による上海核物理理論研究センターの支援を受けている。

 
2023/1/19


复旦大学: 开门红!刚刚,Nature发表复旦大学马余刚院士团队在夸克物质整体极化研究中的重要突破!

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