【ニュース・ドイツ】「科学外交」の活発な再構築

 

DAAD はドイツの対外科学政策の更なる発展に関する声明書を発表した。DAAD 会長のジョイブラート・ムカジー博士はその背景と2020年代に新たな対外科学政策が満たすべき要件の概要について説明する。

 
ムカジー博士、現時点でドイツの新たな対外科学政策について考えるきっかけは何だったのでしょうか。

 
ロシアによるウクライナ侵略戦争が、オラフ・ショルツ首相がヨーロッパの「ターニングポイント」と分類するように、ヨーロッパ史における中断の前触れとなりました。ドイツの学術界はこれに対してあらゆる決意をもって即座に反応し、ただし戦争がつかの間のエピソードになることも、国際的な学術関係に対する影響が短期的に終わることもありません。このようにして、責任ある世界的な共同体として行動する必要性が生じています。現在の政治的亀裂や世界的な課題に直面し、国境を越えた国際的な学術交流と科学協力がこれまで以上に必要となっています。同時に、交流や協力はより複雑かつ危険になったものの、将来のためにはなくてはならないものです。そのため我々は現実の政治に根差した「科学外交」を必要としています。世界的な危機、混乱、システム間の対立や変化する世界からの要求に意識的に向き合わなければなりません。

 
国際社会においてドイツ連邦の対外科学政策を構築するためのアプローチとして「科学外交」は以前から存在していました。現在はどのような点が新しいでしょうか。

 
価値に基づく協力にプラスの効果があるという仮定は、あまりにも楽観的過ぎると証明されました。学生、科学者、学者、そして大学と研究機関との間の国際的なコンタクトは、寛大さや相互理解、全参加者にとっての付加価値、自由で民主的な価値の促進に自動的につながるわけではありません。細やかな交渉プロセスやリスク計測は、国際的な交流が国際問題の解決に貢献し、価値観についてのコミュニケーションや自由な場を形成するために必要です。将来的に、我々は「科学外交」を以前より慎重かつ積極的に形成しなければなりません。

 
2020年代の対外科学政策はどのような要件を満たす必要があるでしょうか。

 
新たな対外科学政策は学術的、科学的、政治的立場や目標について、パートナーあるいは場合によっては競合相手との間で、対等に具体的な国際的な交渉が可能な場が開かれるべきです。しかし権力的・政治的干渉を一方的に志向してはならず、一定の原則に従わなければなりません。これは、価値を意識し、責任に基づき、利益を追求し、地域的に区別され、リスクを反映するように設定される必要があります。

 
これら5つの原則の背景には何があるのでしょうか。

 
学問の自由や学問の誠実さという価値観は、学術的交流において自動的に伝達されないということが過去に明らかになっています。そのため、ドイツの科学システムの関係者、科学者、学生は個人的なコンタクトあるいは公共の場において、民主的な価値観や信念を表明することが要求されます。ドイツの市民社会の一員として、海外での「科学外交官」として活動することもまた要求されます。しかしこのことは世界の全ての地域で同様に機能するわけではないが、地域ごとに具体化される必要があります。更に、大学とその構成員は自分たちが責任ある世界規模の共同体の一員であることを認識するべきです。新たな対外科学政策は、気候変動、生物多様性の減退、パンデミックのリスクのような世界の重大な課題に対処し、ここで実質的に貢献しなければなりません。

 
そのためには、対外科学政策の戦略全般の再考が必要ではないでしょうか。

 
はい、対外科学政策を権力政治や地政学のために利用する国と関わるうえで、ドイツ側で学術的、科学的あるいは科学政策の利益が明確に定義されなければなりません。対外科学政策は利益政策でもあります。ただし、価値、責任、利益の志向はお互い排他的なものではなく、同じ方向を目指しています。つまり、国際的な学術交流が引き起こす効果、機会、リスクを地域的に考察することを目指しています。

 
DAAD はこの新たな対外科学政策を自らの任務においてどのように実施していくのでしょうか。

 
DAAD は世界中にフィールドオフィスや情報センターといった優れたネットワークを有しています。これは非常に重要な基盤です。なぜなら信頼が作り出され、専門知識が集められ、学術的なものだけではなく市民社会的な対話もそこでは行われます。このような現地での存在は競争関係になりがちな国々との架け橋になっています。最近では、DAAD は現在の危機に非常に迅速に対応し、世界規模での大変動から特に影響を受けた学生、博士号候補者、研究者のためのプログラムを立ち上げました。

 
これらのプログラムには例えば「ウクライナのための国際学術コンタクトポイント 」や母国での脅威や迫害のために勉強や研究を継続できない学生や博士号候補者を支援するヒルデ・ドミーンプログラムなどが含まれます。DAAD は、例えば気候変動や健康研究のための国際センターを発表したり、あるいはシリアやアフリカのリーダー育成プログラムを開始したりと、現在と将来の課題に対応するためのプログラムの青写真もまた継続的に適応させています。そのため DAAD は既に現代の差し迫った問題に対して立ち向かっており、プログラムの地域およびテーマに関係する設計において、前述の原則を一貫して適用しています。

 
これらのプログラムは技術的に求められるところが多く、専門的なサポートを必要としているものの、同時に信頼に基づく長期的な協力関係のための基盤を築きます。しかし、十分かつ確実な資金提供が将来的に確保されて初めて、実施され得るものです。ここで、我々は信頼できるパートナーとして行動しなければならず、連携協定において対外科学政策に向けた DAAD の働きが非常に重要であることを昨今確認した、連邦政府の金銭的支援に依存しています。

 
2022年7月11日


DAAD: „Science Diplomacy“ aktiv neu gestalten


地域 中東欧・ロシア
ドイツ
取組レベル 政府レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究
国際交流 国際化
社会との交流、産学官連携 社会貢献