【ニュース・タイ・フランス】タイとフランスの研究チームがサラセミアの新治療法を発表

タイとフランスの臨床研究チームが世界初となるサラセミア(遺伝性血液疾患)の遺伝子治療による治療法を発表した。
著名な遺伝子治療の専門家であるDr.Philippe Leboulch(パリ大学及びハーバード大学医学大学院)がリーダーを務めるこの研究チームによると、この新たな技術はフランスで来年までに一般向けの治療として導入されるということだ。タイではまだ臨床実験中であるため、もう少し時間を要す見込みである。

 

この研究チームが12名のサラセミア患者に施した臨床実験の結果は、2018年4月19日付けのThe New England Journal of Medicineに掲載された。
β[ベータ]サラセミア患者はタイをはじめとする東南アジア諸国で特に多く、タイでは毎月輸血を必要とする深刻なβ[ベータ]サラセミア患者が年間約3,000人生まれている状況である。この輸血による治療を行ってもなお、患者の平均余命は健常者と比べ短い傾向がある。β[ベータ]サラセミア患者を抱える国は、その治療により大きな財政的負担を強いられている。

 

Dr.Leboulchは以前、β[ベータ]サラセミアと鎌状赤血球症への有効性を示した論文を著した後、マヒドン大学(Mahidol University)のDr.Suradej HongengとDr.Suthat Fucharoenと協力し、LentiGlobinと呼ばれるこの遺伝子治療によるアプローチの臨床実験を多くの患者を抱えるタイで行った。Dr.Leboulchは「治療用ベクターを用いてβ[ベータ]グロビン細胞を患者の血液幹細胞(異常細胞除去後)に半永久的に埋め込むのだが、臨床実験を行った12名はタイで最も多いβ[ベータ]+-やβ[ベータ]E/β[ベータ]Oサラセミア患者で、有効な細胞の注射後、今では輸血がいらない状態となっている。」と述べた。
対象となった12名全員が治療に成功しているため、この結果は非常に前向きに捉えられるものである。彼らの症状が再発することなく、治療の効果が継続することが期待されている。

 

Dr.Leboulch曰く、LentiGlobinの安全性は抗がん剤ブスルファンのそれと同等レベルだということである。

 

Dr.Leboulchは「フランスで来年までにこの新しいサラセミア治療が行われることになり、ヨーロッパ諸国から徐々に広がっていくだろう。」と述べ、この新しい治療法に掛かる費用はまだ確定されていないが、政府の補助により患者の負担額は常識的な範囲に抑えられるべきだと主張している。

 

Dr.Suradejは「患者が元気になり、子どもの頃から続けている毎月の輸血からも開放されることを嬉しく思う。彼らは学校や会社に行き、スポーツを楽しみ、普通の生活を送っている。」と述べた。
彼は、既存のサラセミア治療法は価格が高い上に副作用も多く、社会保障制度の大変な重荷となっていることについても指摘した。
1人の患者に毎月の輸血を30年間行うコストは、1,000万バーツに達する。そしてタイ赤十字社の血液ストックの40%をサラセミア患者が使用している計算になるのである。

 

現在、唯一効果的と言われている治療法は血液幹細胞を適合ドナーから移植することであるが、サラセミア患者のうち25%しか適合ドナーを見つけることができていないのが現状である。

 

2018年5月3日

 

The Nation:Thai, French scientists manage breakthrough in curing thalassemia

地域 西欧、アジア・オセアニア
フランス、タイ
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究