【ニュース・イギリス】2022年は、英国の医学部入学が「思い出せる限り」困難な年

 
2022年6月22日、Guardian 紙は医学部関係者によると、今年は A レベルの学生にとって「思い出せる限り」最も困難な年で、何千人もの成績優秀者の大学進学希望者が行き場を失っている。政府が医師養成のコースの定員数を増やさない限り、10年後の NHS が「惨事」に見舞われるであろうと述べていることを伝えた。

 
医学部はこれまでも A レベルの学生にとって最も難しい学部の一つであった。しかし、昨年の Covid-19 の混乱で金銭の受取や、勧めによって入学を延期した学生のためすでに受け入れる数が減っている状態であり、また、18歳の人口増加もあり、競争が激しくなっている。

 
大学入試機関(UCAS) によると、今年は医学部、歯学部の志願者でオファーをもらったのは16%未満に過ぎず、2021年の20.4%から減少している。

 
大学入学関係のコンサルタント会社である Data HE の共同設立者で、英国王立内科医協会(RCP) の会長でもあり、UCAS の元関係者であった Andrew Hargreaves 氏は、同紙に対して「まだ大学の行き先が分かっていない志願者が最も多いのは医学部への志願者である。聞くところによると、何千人もの医学部希望者が第一希望大学としてどこにも申請できていない。」と述べた。

 
医学部は、Covid-19 の流行前の定員を超えた場合、研究所が臨床訓練参加の学生一人当たり年間3万ポンド以上を支払わなければならないという文書を、政府がクリスマス前に送っていることから、今年の募集に関してオファーを出すことに慎重になっている。

 
消化器内科コンサルタントで王立医師会(RCP) の学長であるアンドリュー・ゴダード卿は、「私にとっては明らかに、非常に恐ろしいことです。今、より多くの医師の訓練に投資しなければ、10年後には NHS は災難に直面するでしょう。」と述べた。

 
RCP は、英国で毎年7,500以上の医学部の学校に年間18億5,000万ポンドの資金を提供するよう求めているが、ゴダード卿は財務省が拡大を妨げていると述べている。医学部評議会はこれらの要求に同調しているが、海外の医師とのギャップを埋め続ければ、年間5,000人の学生と13の新しい医学部で管理できると述べている。

 
RCP とそのスコットランドにおける同等な団体による昨年の調査によると、英国ではコンサルタント医師の職の半分弱が未だに成り手がないままであり、この10年間でも最も高い数字となった。

 
この秋に新設する University of Chester の教頭となる John Alcolado 教授は「多くの大学が学生の入学延期を行ったため、今年は知っている限り医学部に入る最も厳しい年となるであろう。」と語った。

 
University of Chester では、政府が医学部生の定員の上限を定めているので、留学生を受け入れている。Alcolado 教授は、特に恵まれない背景をもつ人々を募集し、大学を卒業したのちに、地元で開業するような医師として訓練したい、しかしそれは現在不可能であると述べた。

 
「英国の学生を訓練する資金はないといわれているが、学費同様に臨床訓練の費用も負担できる海外の学生を受け入れることはできる。」と述べた。

 
「NHS は、財政的に問題がある時、海外から訓練を受けた人々を医師として受け入れる傾向がある。これは将来の需要に対して持続可能ではないし、まるで寄生虫である。」

 
ウェールズの NHS コンサルタントで娘さんが医学部を希望している Kat Ferguson さん(匿名)は「娘の友達で GCSE がとても良い結果で、A レベルで最も優秀な成績を予想されたが、医学部のどこからもオファーがもらえなかった。」

 
その娘さんは1つの大学からオファーをもらい「幸運であった」としているが、Covid-19 の流行のため GCSE の試験は受けられず、初めて受ける重要な試験で全て A の評価を取れなかった場合、何が起こるかを心配している。

 
「このような学生は、その学年でも優秀な学生の一人であり、ほかの学部から多くのオファーをもらっている友人を見ていることはつらいと思う。」

 
「NHS で働く母として、このシステムにはまさに現実に即していない部分があるように感じる。大学は優秀な学生を退けなければならないのに、医師のポジションに空きがたくさんあることを我々はわかっている。」Ferguson さんは述べた。

 
University of Exeter の医学部教育部長である、Ian Fussell 教授は「今年は競争が激しくなることはわかっていたし、そうなっている。」という。入学を2022年まで延期した場合、医学部生に対して10,000ポンドと1年間大学寮を無料で提供したため、昨年医学部を第一希望とし、その資格を持つものが20%から60%に急増し、University of Exeter の定員はすでに埋まっている。

 
学長は今夏、2021年と2020年に起きたように、予想以上の学生が入学条件を満たした場合、政府が土壇場な状態で方針転換する可能性がないとは考えていない。しかし、単に数百人程度の追加が全国で行われる程度で、何千人ということではないと予想している。

 
Fussell 教授は、オファーをもらっていない学生に対して「前向きでいよう」と呼びかけている。誰かの成績がよくなければ、誰かが幸運になるかもしれない。「ほとんどの医師は当時を振り返り、「慌てるな」というであろう。そうであれば1年休もう。人生経験を積み、将来のことを考える良い機会となる、あなたの決意が伝わり、それが自身の物語となる。」と語った。

 
教育省の広報担当者は「我々は毎年、NHS のサービスを守り、イングランドが労働力として必要とする数を用意するため、医学部や歯学部など重要な学部で定員を確保することで大学と協力している。」と述べた。

 
医学部では「学生が高水準の教育を受けられるよう」に地方を研修地とする十分な定員確保のために定員に上限を定めている、と付け加えた。


Guardian紙: 2022 hardest year ‘in living memory’ to enter UK medical school


地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
人材育成 入試・学生募集