【ニュース・イギリス】欧州研究会議 英国を拠点とする助成金を保有する150人の研究者にEUへの移住を求める最終勧告

 
2022年4月13日、Science Business は 欧州研究会議(ERC)が英国の研究者に対して2か月の間に EU 内の対象機関に移るか、助成金をあきらめるか決断に迫られていることを伝えた。

 
EU-UK 間の科学関係は、英国は EU の955億ユーロの研究プログラムであるホライズン・ヨーロッパの外に置かれたため、いよいよ未知の領域に入ってきた。英国の EU 離脱による貿易協定に対する意見の相違を正すための外交交渉も進まないため、英国のホライズン・ヨーロッパへの参加が保留されている。

 
ERC は EU の基礎研究のための主な資金提供機関であり、その予算はホライズン・ヨーロッパの一部となっている。4月8日に ERC は2021年の研究プログラム下にある Starting、Consolidator、Advanced などの助成金受給対象者である英国を拠点としている150人に書簡を送付し、2か月以内に EU に移るか、EU からの資金をあきらめるかを決めなくてならないことを告げた。

 
これはそのような激変に対処するには短い期間である。ERC の広報担当は、「例外として、正当な理由がある場合には2か月の期間を延長することができる」と述べた。英国を拠点としているERCの助成金受給対象者は、EUの助成金が撤回された場合に、英国政府が設定した金融保証スキームに申請する可能性が高くなる。

 
英国政府から11月に発表されたこの計画は、年内に最終的な契約が成立する予定の助成金にも適用するよう最近拡大された。英国に拠点を置く ERC の助成金受給対象者 UK リサーチ・イノベーション(UKRI) から資金を得ることになる。

 
ERC は、助成金契約成立の期限が迫ってきており、締め切りをわずかに逃した研究者に助成金を振り込まなければいけない立場なので、最終勧告を送付したと述べている。2021年のホライズン・ヨーロッパに関係するER Cの助成金はすべて12月までに署名する必要があり、ERC は「2022年の年末までに助成金の準備と署名するための十分な時間が必要。」と広報担当者は答えた。

 
ERC は、EU やホライズン関連の参加国に居住しないと決めた英国拠点の研究者の代わりを探すつもりであるが、候補者リストに関して「慎重に事を進める」必要がある。「欠員が出たからといって、劣っている研究内容には資金は出さない。」と ERC の広報担当者は述べた。

ERCは、助成金契約成立の期限が迫ってきており、惜しくも受給対象基準に満たない研究者に助成金を振り込まなければいけない立場なので、最終勧告を送付したと述べている。2021年のホライズン・ヨーロッパに関係するERCの助成金はすべて12月までに署名する必要があり、ERCは「2022年の年末までに助成金の準備と署名するための十分な時間が必要。」と広報担当者は答えた。

 
研究関係者は、政治的な障害があれば、このようなことがいずれは起こることはわかっていた。つまり ERC の決定は特に予想外ではない。しかし、多くの人々は EU と英国の関係が親密になり今頃は契約成立に近づいていたであろうと期待していた。「こんなところまで来たことは驚きだ。」と ヨーロッパ大学協会(EUA) の Thomas Jørgensen 氏が語った。

 
EU の Mariya Gabriel 委員は、昨年の Science Business のインタビューで北アイルランドの議定書の闘争が解決するまで英国は研究プログラムに参加は許されないことを述べた。その問題はまだ解決には至っていないようである。英国首相の Boris Johnson 氏は最近、北アイルランド議定書第16条を発動し、英国とEU間のEU離脱後の貿易協定の一部を一時的に停止することを否定した。

 
しかし、英国に拠点を置く ERC 助成金獲得者の問題は、欧州委員会と英国との交渉に関する大きな問題の1つに過ぎない。欧州委員会はより透明性を高め、英国の参加決定がなぜ遅れているのか明確に説明するべきであると、Jørgensen 氏は語った。「ホライズン・ヨーロッパに関する英国と EU の関係は凍結されている。一方でその理由に関してはコミュニケーションも取っていない。」

 
スイスはすでに政治的な理由からホライズン・ヨーロッパから省かれている。スイスは EU と広範な政治的合意から離脱した後、欧州委員会は昨年、参加に関する協議を終了した。スイスを拠点とする研究者は2021年の Starting 、Consolidator の助成金に応募は可能であったが、条件として、対象国に移住する必要があった。スイスを拠点とする研究者は ERC のすべての公募に応募ができなくなった。

 
今年2月にはヨーロッパの大規模な研究機関と大学が提携し、EU と英国政府およびスイス政府に対して、科学と政治を切り離して、両国がホライズン・ヨーロッパの参加国になるように取り組むことを呼びかけた。

 
先週、ヨーロッパの6大研究機関で構成される G6 ネットワークは、英国とスイスがホライズン・ヨーロッパに参加することを望む関係者の声に加わった。「スイスと英国の参加がないことは科学界とヨーロッパのリーダーシップに悪影響を招き、ヨーロッパの科学界を分裂させ、ヨーロッパの競争力を弱め、欧州研究地域の再構築の勢いを失速させると確信している。」と同ネットワークは声明で述べた。

 
参加に対する決定の更なる遅延は、EU の研究者がスイスと英国との将来の提携に関して直面している不確実性を助長させることになる。「我々は引き続き圧力をかけ続ける必要がある。」と Jørgensen 氏が語った。

 


Science Business: ERC issues ultimatum telling 150 UK-based grant holders to move to the EU

参考記事 (RPN):  UK winners of EU grants given two-month ultimatum


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