【海外センターレポート・ブラジル】連邦大学における通信教育の拡大

 
 前回の報告書では、新型コロナウイルス感染症の影響で対面講義の実施が困難となったことで、オンライン講義への移行が進んでいること、
それに伴う課題について触れました。教育省高等教育局(SESu/MEC)は2020年10月22日、省令第433号を制定し、連邦大学における通信手段
の教育の拡大と促進に取り組むための「戦略的指導委員会」の発足を決定しました。 *(1)

 
 委員会は、SESu/MEC関係者6名、全国連邦高等教育機関指導者協会(ANDIFES)関係者2名、戦略的研究管理センター(CGEE)関係者2名から
構成されます。通信手段による高等教育の拡充計画実施の取り組みを支援し、通信教育の体制整備に向けたアクション、調査・研究、戦略の実行
を指導し、モニタリングします。

 
 続いて、SESu/MECは当該省令に従い、より特定的な権限を有する作業部会を設置しました。  この作業部会は、高等教育機関との対話を
進めながら、通信課程の拡充計画とその実行の支援、それによる高等教育の普及と機会均等、通信課程の評価とモニタリングのための方法論の確立、
通信教育実施のためのテクノロジーに関する調査・研究の奨励、通信教育提供のための技術的評価・書面の準備を進めることをその目的とします。

 
 SESu/MECは、この作業部会のメンバーを政府関係者に限定することなく、SESu/MEC関係者2名のほかAssociação Universidade em Rede
(通信課程を実施する公立大学の団体)、全国ブラジル通信教育協会、全国教育・研究ネットワーク、国内の全地域の連邦大学の代表者をメンバー
として招聘しました。

 
 教育省の意図は、通信教育を提供する私立大学の増加を受け、連邦の高等教育機関における通信教育への投資を支援することであったものの 、 *(2)
この方策は反響を生み、賛否両論の声が上がりました。全国大学院・教育研究協会(ANPEd)は、戦略的指導委員会の代表性の無さ、(通信課程
の拡大の推進により)学生の教育、学術研究、公開講座も含めた高等教育機関の質の低下に関する社会との対話の欠如を指摘しました。

 
 また、インターネットアクセスの地域的、社会的格差(ブラジルの全家庭の少なくとも30%でインターネットアクセスが無い)により
通信教育の機会において不平等が生じる点が考慮されておらず、通信教育の一般化により社会経済的に恵まれない層の若者に教育機会が保障され
なくなるとの声もありました。 *(3)

 
 さらに、全国高等教育機関教員組合のアントニオ・ゴンサルヴェス理事長は、教育省による連邦大学・教育機関の運営予算削減を指摘した上で、
この教育省の省令を「深刻化している公教育の商品化と劣化に拍車をかけ、連邦の教育機関の通信課程の実施を推し進めるもの」と批判しています。 *(4)

 
 この作業部会の調査は11月初めに開始され、180日以内に結果報告が行われる見込みとなっています。
 


参照リンク:
 (1)  gov.br:Imprensa Nacional
 (2)  Ensino superior: noticiasconcursos:Governo federal planeja aumentar oferta de cursos públicos EAD
 (3)  anped:Manifesto sobre portaria acerca de Expansão da Educação Superior por meio digital em Universidades Federais
 (4)  anped:Manifesto sobre portaria acerca de Expansão da Educação Superior por meio digital em Universidades Federais

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育、質の保証