【海外センターレポート・ブラジル】大学の独立運営開始から30年が経過

 
1989年にブラジルでは民政移管が行われ、新憲法が公布されました。これに伴い、命令第29.588号により、サンパウロの各州立大学(USP、UNESP、UNICAMP)に対して財政上の自律性が認められ、前例のない三大学の発展の可能性が開かれました。これ以降、3大学は、予算や運営面での事務的な問題に関する事前の交渉を行う必要なく、その活動を独立して所管し、教育、調査、運営など大学の活動の全ての側面に関する決定権を持つことになりました。(※1
 
各州政府が徴収する商品流通サービス税(ICMS)の一部が大学の運営費に充てられることで、その金額には多少の幅がありながらも、大学の財政が安定した、予測可能なものとなりました。したがって、教員・学生の能力向上や、長期的な学術研究計画への投資が可能となったのです。
 
この変化が学術研究活動にもたらした影響は、FAPESP(サンパウロ州学術研究支援財団)が公表した比較データ上で確認することができます。このデータは、三大学の過去30年間(1989年から2017年)の変遷を様々な側面から示しており、例えば、発表された論文の数は1064本から17,175本と1,700%増加し、1989年には、3大学がWeb of Scienceに記載される学術誌に発表した年間の論文数が1,200本に達しました。また、USP(サンパウロ大学)のSIBi(図書館統合システム)のデータによれば、2018年には22,000本以上の論文が発表されました。(※2
 
さらに、学士課程の定員数は12,584人から22,169人、学士課程の学生数は57,055人から118,920人とそれぞれ約2倍に、大学院課程の学生数は23,270人から69,533人と約3倍に増加しました。また、修士号取得者数は1,571人から6,311人と約4倍、博士号取得者数は767人から5,302人と約7倍に増加しました。一方、教員数は11,065人から10,914人と1.4%減少し、職員数は35,167人から27,593人と22%減少しました。(※3
 
一方で、三大学に交付された運営資金は、過去30年間でわずか50%増加するにとどまりました。FAPESPの学術部長でUNICAMP(州立カンピーナス大学)元総長のカルロス・エンリケ・デ・ブリット・クルス氏は、「実績の伸びは、コストの増加を上回っており、この実績は効率性を証明するもの」とコメントしています。
 
独立運営開始から30年を記念するイベントで、三大学の総長や元総長らは、民政移管に伴って大学に与えられた自治権の重要性を強調し、UNICAMPのテレーザ・アタヴァレス副総長は「教育活動の自由、思想の多元性、学問の多様性を維持するため、大学の自治権は不可欠なもの」と位置付けました。(※4) 大学の独立運営の重要性に関して異議を唱える人はいないものの、財政難により学術活動や投資に悪影響が及び、大学の構造的な問題、運営面の問題が浮き彫りとなり、大学の自治への批判が増大し、効率的な運営が不可能であることが明白になりました。
 
一方、USPのヴァン・アゴピアン総長は、「大学が自治権を有していることで、外部の干渉を受けずに、独自に問題を分析して解決することが可能」としています。また、UNICAMPのマルセーロ・クノベル総長は、教員の賃金の上限の問題で教員の採用が積極的に行われていないこと、今後、税制改革や資本再分配政策が行われることで大学の財政システムが不安定なものとなる可能性を指摘しました。しかし同時に、大学が国の社会、経済的発展に果たす役割を強調し、「大学は公共の財産であり、次世代のためにもその優良性は維持される必要がある」との見方を示しました。(※5
 
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人
 
<参考リンク>
※1、※2、※3 JORNAL DA USP:Autonomia coloca USP, Unicamp e Unesp entre as melhores da América Latina

※4、※5 JORNAL DA USP:Universidades estaduais paulistas celebram os 30 anos de sua autonomia

 

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育
統計、データ 統計・データ
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