【海外センターレポート・ブラジル】全国学生能力試験(Enade)

ブラジルでは、公共教育政策の策定のための情報を作成する、教育省傘下の研究機関INEP(アニジオ・テイシェイラ教育研究調査院)が、Sinaesと呼ばれる全国高等教育評価システムにより、全国の大学の定期的な評価を行っています。

 

Sinaesは、大学の教育機関としての評価、学士課程のコース別評価、全国学生能力試験(Enade)という3つの評価軸で構成されます。今回は、このEnadeをテーマに報告します。

 

Enadeは、各学部・学科の学士課程の指導要領に従って、コースの最終年に属す学生の能力を評価するものです。特定分野の職業人として働くために必要とされる知識と、国内外の時事に関する知識・フォローのレベルが評価されます。試験は40の設問から成り、そのうち10が一般的な素養、30が特定分野の知識を問うものです。評価は、毎年全学部・学科で行われるのではなく、評価システム対象の学部・学科で最低3年に一度の頻度で行われます。

 

Enadeの実施を制定した2004年の法律によれば、Enadeが行われる年に学士課程を修了する全ての学生は、その学部がEnadeに参加している限り、Enadeの受験が義務付けられています。受験しない学生の成績証明書は不備のあるものとなり、学位は授与されません。(*1)

 

しかし、全国の全ての学部・学科がEnadeへの参加を決定したわけではありません。参加しなかった大学の中にはサンパウロ大学(USP)と州立カンピーナス大学(Unicamp)も含まれます。Unicampは2010年に全ての学部がEnadeに参加しましたが、Enade開始当初から参加しなかった理由として、「Enadeは開始当初、まだ確立したものではなく、回を追う毎に改善すると考えられたため」と説明しています。(*2)

 

USPに関しては、Enadeが、試験という形で評価するという性質上、その評価結果は信頼に値するものではなく、大学が獲得する“得点”のようなものである「Enade構想」は教育の質における重要な観点を考慮していないとして、参加を拒否し続けています。USPの学部評議会は、Enadeがまだ試験段階にあったと理解していたようです。(*3)

 

2013年、USPは3年間限定で、試験的に(学生の受験は任意として)参加することでINEPと合意しました。「2015年USP年度計画」によれば、この期間後は、州教育審議会が行う州立大学間の評価の実施を見送り、Enade等の外部の評価システムへの参加を図るとしています。

 

外部評価システムへの参加は、国内の大学評価全体にとって有益となるとして、多くの人が好意的に見ています。というのは、USPのデータは、ブラジルの高等教育の特性の概観を示すために極めて重要なものであるからです。

 

それだけでなく、Enadeは学部修了を控える学生の良い自己評価のツールでもあり、高得点を取れれば就職においても有利となります。ただ一方で、Enadeはまだ開始して間もないだけでなく、卒業に当たり習得しておくべき最低限の内容を問うもので、その最低限の内容以上のものを提供する質の高い学部・学科を選り分けるものではないため、依然として良い評価メソッドとは言えないとする教育関係者は少なくありません。また、大学の良し悪しの評価は政府が行うものではなく、まして各地域の実情を考慮せず、全ての大学に画一的な教育計画を実施させようとするのは適切ではないという意見もあります。今年、USPのEnadeへの試験的参加の最終年ですが、今後の参加について学長は、「2015年USP年度計画の目標達成は遅れており、その適正化については今後議論を行う」と述べるにとどめています。(*4)

 

以上のような然るべき批判はあるにしても、Enadeは、国内の高等教育機関に関する概観を提供するための、国内全域の学部生を統一的に評価する方法の一案ではあります。実際、Enadeはブラジルの大学の特性を考慮するというよりは、学生の一般的な状況や基本的知識を評価するものですが、Enadeが今後より確立したものになっていくにつれ、大学間で見られる顕著な違いも分析に含めた、ブラジルの高等教育の状況に関する信頼に値する展望を提供するものとなることが望まれます。

 

サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

 

*1: INEP. 全国学生能力試験(ENADE) Exame Nacional de Desempenho dos Estudantes – ENADE
*2: ニュースサイトG1. 2010年7月15日付配信記事「Unicamp、Enadeへの参加を正式発表
*3: Jornal do Campus(USPジャーナリズム科学生が発行する新聞)2012年6月13日付記事「なぜUSPはEnadeに参加しないのか」(VILAVERDE, C)
*4: Jornal do Campus 2015年11月7日付記事「Enadeに参加するUSPの学部生はごくわずか」(FERNANDES, G.)
地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 教育、質の保証
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