【海外センターレポート・ブラジル】マチルダ効果について

 
3月は国際女性デーがある月で、近年はジェンダーの問題をめぐる議論が展開されていることから、今月のレポートでは、学術研究に携わる女性について報告します。
 
ユネスコの2018年の報告書によれば、世界の研究者の28.8%が女性です。*1 イベロアメリカ州立組織(OIS)によれば、ブラジルにおいては2014年から2017年までに発表された学術論文の72%で、執筆者名に女性の研究者の名前が入っていました。*2 しかし、大半の論文に女性研究者の名前が入っているにもかかわらず、2014年から2017年までの期間に論文を発表した研究者の数のうち、女性が占めている割合は49%です。*3
 
サンパウロ大学(USP)では、学部生の数では男性が上回っており(女性2万6,975人、男性3万1,848人)、教員数でも男性が上回っています(女性2,210人、男性3,634人)。しかし、大学院の学生の数において女性が男性を上回っており(女性1万9,014人、男性1万8,527人)、ポスドクの数も女性が上回っています(女性1,955人、男性1,729人)。*4 さらに、USPの15の学部長は現在女性が務めており、特に工学部においては、学部設置から125人の歴史において初めての女性学部長が就任しました。
 
女性は、学術研究の道を進むにあたり出産から偏見まで様々な困難に直面します。USPの薬学部食品・実験栄養学部門のベルナルデッテ・ゴンボッシ・フランコ正教授は、「女性の業績に価値を認めないのは現代においても珍しくない。これはマチルダ効果と呼ばれるもので、女性の参政権論者で奴隷廃止論者マチルダ・ゲージがこの問題について最初に言及したとして、マーガレット・ロシターが命名した」と説明しています。*5
 
出産してから数年は発表する論文数が減ってしまうため、女性研究者にとって妊娠・出産は活動に支障をもたらすものとなっています。そこで、妊娠・出産、または養子縁組による育児で離職する女性に奨学金を与えることを定める法律が2017年に成立しました。これにより、女性研究者は出産・育児のため研究活動を一時中断し、その間奨学金を受け取ることができます。
 
それでも、工学、数学など従来から男性中心とされる分野では、少数派である女性研究者はさらに大きな困難を強いられていることが考えられます。国際数学連合では、女性数学者からなる「国際女性数学者連合」が創設され、所属する女性数学者のなかには、女性研究者一般をめぐる現況について認識を新たにし、他の女性研究者らが直面している、似たような問題に共感を覚える人々もいます。この連合はシモンズ財団と提携し、Journeys of Women in Mathematicsと呼ばれる、女性数学者の証言を集めたドキュメンタリービデオを制作しました。このビデオは、新世代の女性数学者を鼓舞し、その活動に社会の注目を集めることを目的に制作され、リオ・デ・ジャネイロ純粋数学・応用数学研究所の現在唯一の女性数学者であるブラジル人のカロリーナ・アラウージョ氏の証言も収められています。*6
 
2019年3月28日
 
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人
 
*1 参照リンク:Women in Science

*2 参照リンク:Mulheres assinam 72% dos artigos cientificos publicados pelo Brasil

*3 Idem, ibidem.

*4 参照リンク:Mulheres fazem ciencia,mas ainda estao longe do topo

*5 参照リンク:The Matthew Matilda Effect in Science

*6 参照リンク:CWM Initiatives Journeys of Women in Mathematics

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 国際機関レベルの取組
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