【海外センターレポート・ブラジル】特別枠で入学した学生の学業成果について

 

2017年2月の報告書(第22号)では、教育機会均等を図るため社会の一定の層に対し大学入学の特別枠を設けることを定めた2012年法律第12.711号(公立学校出身者に少なくとも定員の50%を、黒人・褐色・インディオ・障害者に、それら層が州人口に占める割合に応じた一定の定員枠を割り当てることを定めたもの)をめぐる種々の議論について報告しました。★1 本報告書では、社会の一定の層を特別扱いすることに対する疑問の声や、基礎教育における不平等が高等教育の質や学生の学びに及ぼし得る影響まで、本法律が定める特別枠をめぐる批判や論争について報告します。

 
パンデミックの影響で、通常は年末または年始に行われる大学の卒業式は数ヵ月延期され、このほどサンパウロ大学(USP)に特別枠で入学した一期生の卒業式が行われました。サンパウロ州学術研究支援財団(FAPESP)関連機関の USP 哲学・文学・人文科学部(FFLCH)都市研究センター、ブラジル分析・企画センター(CEBRAP)がこれら学生の成績について調査を行ったところ、学生間の成績の差は徐々に縮小していることが明らかになりました。

 
特別枠制度の開始以降、約11000人の学生の成績が分析された結果、公立学校出身学生と私立学校出身学生の成績の差が最も大きかったのは2018年前期で、成績(最低が0点、最高が10点)の中央値 ★2 において、その差は1.2ポイントでした。2019年後期にはこの差が0.9ポイントまで、オンライン講義開始から2年後の2021年末には0.7ポイントまで下がりました。

 
調査を担った FFLCH のマルタ・アレチェ教授は、USP の教育の質は社会的包摂政策に影響を受けることはないと結論付け、USP はこれ以外にも奨学金制度、(企業や私人による)一時的学費支援制度、数学・読解・作文等の補充授業による学習支援など様々なサポートをしていることを強調しました。USPへの入学試験は高倍率であることから、公立学校出身、私立学校出身を問わず元来優秀な学生が入学しており、種々の支援や社会的包摂政策も手伝って、公立学校出身者と私立学校出身者の間の成績の差は小さくなっているといえます。

 
USP のカルロス・ジルベルト・カルロッティ・ジュニオル新総長は、「学生のポテンシャルを信じることによって特別枠制度は功を奏す。基礎教育を受けた環境に差はあっても、公立学校出身者は学業に勤しみ、私立学校出身者と同じように立派に卒業する」と述べています。アレチェ教授、ジュニオル総長ともに、「USPの講義や試験で求められるレベルは特別枠採用前と変わっておらず、この政策によって学生の多様性や、研究や教育の質を高める新たな要素が加わる」という前向きな見方を示しています。


★1:2022年5月16日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙記事「特別枠で入学した学生とそれ以外の学生の成績の差が縮小(Diferença entre nota de
   cotistas e demais estudantes na USP cai ao longo do curso)」より

★2:各グループ(公立学校出身者グループ、私立学校出身者グループ)の学生の50% が中央値を上回る点数を、残りの50%が中央値を下回る点数
   を獲得したと仮定。


 

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
人材育成 学生の多様性
レポート 海外センター