大学が学術研究活動の機関であることは言うまでもありませんが、特に社会の発展に寄与するこの活動の重要性については、大衆の間ではあまり認識されていないのが実情です。サンパウロ大学(Universidade de São Paulo:USP)イノベーションセンター(AUSPIN)コーディネーターのアントニオ・カルロス・マルケス氏は、「研究の応用とその産物の生産状況は分野によって様々だが、大学は、人材、学術研究、イノベーション、技術・サービスなど様々な形でその活動の産物を社会に送り出す機関であり、“知識の生産拠点”ととらえることが必要」との考えを示しています。 *1
2014年から2018年までの4年間に発表された学術論文の本数を大学別に集計したランキング *2(下記の表)によると、その数の22%がUSPから発表されたものでした。また、国内の学術研究活動の主な担い手は公立大学であり、公立大学が国の技術発展において重要な役割を果たしていることが見て取れます。
このランキングには、36の連邦大学、7の州立大学、1の私立大学、1の連邦機関、5の調査研究機関が入りました(表中、連邦大学は青、州立大学はオレンジ、調査研究機関はピンク色で示しています)。
大学名 | 本数 | 全体に占める割合(%) |
ブラジル全体 | 214,096 | 100 |
サンパウロ大学(USP) | 47,346 | 22.11 |
サンパウロ州立大学(Unesp) | 18,523 | 8.65 |
カンピーナス州立大学(Unicamp) | 15,539 | 7.25 |
リオ・デ・ジャネイロ連邦大学(UFRJ) | 14,056 | 6.56 |
リオ・グランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS) | 13,002 | 6.07 |
ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG) | 12,032 | 5.61 |
サンパウロ連邦大学(UNIFESP) | 8,937 | 4.17 |
パラナ連邦大学(UFPR) | 8,156 | 3.8 |
ブラジル農業牧畜研究公社(Embrapa) | 7,712 | 3.6 |
サンタ・カタリーナ連邦大学(UFSC) | 7,467 | 3.48 |
オズワルド・クルス財団(Fiocruz) | 7,464 | 3.48 |
ブラジリア大学(UnB) | 5,723 | 2.67 |
ペルナンブコ連邦大学(UFPE) | 5,712 | 2.66 |
リオ・デ・ジャネイロ州立大学(UERJ) | 5,656 | 2.64 |
ヴィソウザ連邦大学(UFV) | 5,543 | 2.58 |
サンカルロス連邦大学(UFSCar) | 5,408 | 2.52 |
サンタマリア連邦大学(UFSM) | 5,371 | 2.5 |
セアラ連邦大学(UFCE) | 5,102 | 2.38 |
フルミネンセ連邦大学(UFF) | 4,832 | 2.25 |
ゴイアス連邦大学(UFG) | 4,192 | 1.95 |
リオ・グランデ・ド・ノルテ連邦大学(UFRN) | 4,131 | 1.92 |
バイーア連邦大学(UFBA) | 3,981 | 1.85 |
ペロタス連邦大学(UFPEL) | 3,943 | 1.84 |
マット・グロッソ・ド・スル連邦大学(UFMS) | 3,901 | 1.82 |
マリンガー州立大学(UEM) | 3,656 | 1.7 |
パライーバ連邦大学(UFPB) | 3,483 | 1.62 |
ラヴラス連邦大学(UFLA) | 3,401 | 1.58 |
ウベルランジア連邦大学(UFU) | 3,345 | 1.56 |
ロンドリーナ州立大学(UEL) | 3,168 | 1.47 |
当然ながら、学術研究への投資には、インフラやラボラトリーの保全・維持費、資材購入費等の多額の費用を要します。ブラジルでは、連邦・州立大学の学生一人にかかるコストが、初等・中等教育の生徒一人にかかるコストに比べ著しく高いとの批判があり、世界銀行は、ブラジルの公立大学が無償である現状の見直しと、初等・中等教育への投資と高等教育への投資の格差の縮小を提言しています(2017年12月レポート「高等教育と初等教育への予算額の差について」に詳細)。
しかし、この点を考えるときは、ブラジルにおける学術研究活動が高等教育機関、特に連邦・州立大学に集中しているという事実を考慮する必要があります。全国高等教育・科学技術研究機関支援財団審議会(Confies)のフェルナンド・ペレグリーノ理事長の意見は、「公立大学の学術研究の成果が国にもたらしたすべての社会・経済的恩恵を列挙し、その金額の規模に目を向ける必要がある」というもので、同氏は深海油田の開発、セラードにおける大豆栽培、熱帯病のワクチン開発をその例に挙げています。 *3
学術研究の重要性が認識されにくい理由の一つは、研究として完成するまで、さらにはそれが応用されるに至るまでに長い時間を要することです。しかし、教育と学術研究の両方への投資は、人材開発や科学・技術の発展には不可欠です。
例えば、1960年代に、サンパウロ大学リベイロン・プレット医学部の研究者が、ブラジルに生息する毒蛇ハララカ(Bothrops Jararaca)の毒液から、後にブラジキニン増強因子(BPF)と呼ばれるペプチドを発見しました。このBPFの分子構造解析から降圧薬カプトプリルが開発され、この薬は現在も広く使用されています。
*1 サンパウロ大学新聞の記事より
*2 クラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics)社のプラットフォーム「Web of Science」のデータベースより(上記リンクの記事内で引用)
*3 サンパウロ大学新聞の記事より
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人