【海外センターレポート・ブラジル】「国家専門教育・雇用実施プログラム」について

2016年3月の報告書では、連邦政府による「国家専門教育・雇用実施プログラム」(通称「Pronatec」)(*1)を取り上げます。高等教育機関には分類されないものの、ブラジルにおいて職業・専門教育機関は非常に重要と考えられています。Pronatecは、2011年の創設以降、2015年までに900万人以上が履修し、低収入家庭出身者を主な対象に専門教育を受ける機会を拡大するため、教育省が発案し、連邦政府により策定された政策です。公立学校で、あるいは全額奨学金を受けて私立学校で中等教育を履修中か、修了した人、ボルサ・ファミリア(*2)(貧困世帯への公的扶助金制度)等の所得分配プログラムの受給者で、働いている人等が優先的に対象となります。

 

現在、Pronatecを提供する教育機関は、「連邦職業科学技術教育ネットワーク」(連邦政府管轄で全国に所在する専門教育機関)を構成する連邦教育科学技術機関(IFs)、連邦技術教育センター(CEFET)、連邦大学付属専門学校です。このネットワークは、教育省による多額の投資で、2002年時点では140機関だったのが、2014年には562まで拡大しました(*3)。

 

これ以外にも、Pronatecのコースは、専門教育に重点を置く市・郡、州の公立学校、「国家修業サービス」(商業分野-SENAC、工業分野-SENAI、農業分野-SENAR、交通・運輸分野-SENAT)、公立(州・連邦区・市郡)・私立の高等教育機関の一部でも行われています。Pronatecのコースは、長期専門教育コース(1年から2年)、短期の専門資格コース(2ヶ月から6ヶ月)の2種類です。

 

今年度のPronatecの受講生は現在募集されており、経済危機の最中ですが、定員数が昨年よりも増える見込みです。今月9日の発表によれば、2016年は200万人の受講生の枠が設けられ、2015年の130万人から70万人の増員となります(*4)。また、プログラムはいくつか修正が施され、そのうちの一つは、Pronatecと、教育省の発案で創設された「青少年教育(EJA、初等・中等教育を修了していない18歳以上の成人向け教育プログラム)」との連携です。これは、学業と仕事の両立が困難でEJAのコースを途中でドロップアウトするケースが多いことから、初等・中等教育の修了と職業教育を結びつけるという意図によるものです。Pronatecの37万2千人の枠を、EJAの履修生のみに充てることが計画されています。

 

今年、教育省はPronatec受講生の定員を200万人とし、2018年末までには1200万人まで増やすことを目標としています。しかし、昨今の経済危機を受け、2018年時点の国内の経済情勢は予測不可能なため、本当に実現可能かどうかの確証がない、と教育大臣が発言しており、現実的には500万人となるのではと見られています(*5)。

 

サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

 

*1:教育省サイト内「Pronatec」2016年3月21日アクセス
*2:「ボルサ・ファミリア」は、ブラジルの主要な公的扶助プログラムの一つ。国内全域の貧困家庭を対象に補助金を支給し、対象家庭に食事摂取、保健、教育を保証することが目的。2015年時点で、平均の補助金額はR$167,56(日本円で約5千円、1ブラジルレアル=30円の計算)
*3:教育省サイト内「Expansão da Rede Federal(連邦職業科学技術教育ネットワークの拡大)」2016年3月21日アクセス
*4:大統領府ブログ2016年3月9日付記事「大統領、今年のPronatec受講生の定員を200万人と発表。講座はテレビでも公開」2016年3月21日アクセス
*5:フォーリャ・デ・サンパウロ紙 「教育相、Pronatecの目標達成の見込み立たずと発言」2016年3月21日アクセス

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