【海外センターレポート・ブラジル】「サンパウロの州立大学のストライキ」について

経済危機が教育分野に及ぼす影響に起因する、ブラジルの大学におけるストライキについては、既に以前の報告書でご紹介しました。2015年は、約60の連邦大学で、職員によるストが相次ぎました。

 

今年に入って発生しているストは、昨年のそれとは様相が異なります。それは、スト入りしているのがサンパウロ州に所在する2つの州立大学、すなわち、サンパウロ大学(USP)とカンピーナス州立大学(UNICAMP)であるためです。この2大学はブラジル国内で一、二を争う優良大学であり(*1) 、Times Higher Educationのラテンアメリカ優良大学ランキングでそれぞれ1位、3位に入っています(*2)。 従って、ブラジルの学術研究の中心的存在である2大学が影響を受けているという状況であり、ブラジルの教育全体が直面している困難が表面化したものといえます。

 

カンピーナス大学のストは、職員、学生、教員のそれぞれ一部によるもので、各々の要求の内容はいくつかの点で異なります。カンピーナス大学職員組合(STU)は、サンパウロ州立大学総長評議会(Cruesp)が提案した、大学職員の給与3%上げに対して抗議しており、職員側は12.3%上げを主張しました(*3)。同じく、カンピーナス大学教員協会(ADUnicamp)はCruespによる給与調整の案に関する交渉を求め、職員が主張する12.3%の賃上げを訴えました(*4)。1ヶ月続いた一部の教員によるストは、6月30日に一時停止が総会で決定されましたが(*5)、Cruesp側が提案した上げ幅に変化はありませんでした。Cruespの会長を務めるジョゼ・タデウ・ジョルジ・カンピーナス大学総長は、「現在の州立大学の予算では3%以上の賃上げは不可能だが、(サンパウロ州の州立大学の財源である)サンパウロ州商品流通サービス税(ICMS)の税収が回復すれば、再交渉の可能性はある」と説明しました(*6)。

 

学生によるストは、全体として、4000万レアル以上に及ぶ予算カット、教員・職員の「過度な高給」(一部の教職員に対し、憲法が定める上限を超える給与が支払われており、大学の年間予算のうち3000万レアル以上を占める。この額の給与が支払われている教職員のうちの半数が既に退職)(*7)への反発によるもので、民族・人種による定員割当プログラムを支持しています。多くの学部と、総長室を占拠した学生運動の最も過激な一派が、ミシェル・テメル暫定大統領に反対の立場をとっています。

 

サンパウロ大学のストは、5 月半ばに始まりました。主な反発の対象は、大学の体制・構造に影響を与える一連の政策(スト決行者らは、これらの政策を「解体」と呼称)です。具体的には、職員の解雇、教員の専業制(教員を大学での仕事のみに従事させる制度)の緩和、奨学金カット等、USP以外の多くの公立大学で近年採用されている様々な措置が、大学の体制を改悪するものであると訴え、インフレに相応する賃上げも求めています(*8)。各学部での総会開催に伴い、学生がストに参加し始め、いくつかの学部の教室は学生に占拠されるに至りました。ストを決行する学生運動の一派は、大学の「解体」に反対し、民族・人種による定員割当プログラムや、奨学金・寮・学内保育所等の学生支援プログラムを支持する立場をとっています。Aduspも、「解体」に反発してスト入りを決め、特に「教員の就業制度」の変更に反対しています(*9)。しかし、Aduspの決定をよそに、実際にスト入りした教員はごくわずかでした。

 

この一連のストは、学生が総長室の建物に侵入を試み、軍警がそれに介入する事態に発展しました。軍警がUSPの学生寮に侵入し、建物を占拠しようとした学生を催涙ガス、非殺傷性ゴム弾で攻撃し、学生寮に住む、建物占拠行為とは無関係の学生も被害を受けました(*10)。大学本部はスト、建物占拠には反対で、「解体」を助長するものと指摘された措置については実際に起きていることではないと説明しました(*11)。また、3%以上の賃上げが不可能であるというCruespの立場を維持しています(*12)。

 

上記に述べた通り、ブラジルの教育は極めて不利な状況に置かれ、深刻な経済危機が、国内の最優良大学を含むブラジルの高等教育にもたらす悪影響は明らかです。州立大学で起きているストに関しては、経済危機が直接的にもたらす悪影響への速やかな解決策がないうちは、教育及び学術研究への損害を最小限にとどめ、困難を乗り越えることができるよう、各大学の総長、教員、学生、及び職員がより踏み込んだ現実的な対話を行い、コミットメントを掲げ、相互に譲歩を図ることが必要です。

 

サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

 

*1:TIMES HIGER EDUCATION. World University Rankings 2015-2016: Brazil
*2:TIMES HIGHER EDUCATION. 2016年5月26日付記事「Most prestigious universities in Latin America Revealed
*3:2016年5月19日付STU会報「総会が23日からのスト決行を決議
*4:ADUNICAMPの公式ウェブサイト 2016年6月2日付記事「総会がスト決行を決議
*5:ADUNICAMPの公式ウェブサイト 2016年7月1日付記事「総会が“活動委員会”の提案を受理、スト停止を決定
*6:ニュースサイト「G1」 2016年5月31日付記事 「サンパウロで開かれた総長・組合間の会合は合意に至らず
*7:フォーリャ・デ・サンパウロ紙 2015年7月10日付記事「カンピーナス大学、従業員一千人に対し上限を超える賃金支払う
*8:Jornal do Campus (USP ジャーナリズム学科の学生が発行する学内新聞) 2016年5月13日付記事「USP の職員が不定期のスト決行。なぜか」(MAGALHAES, L.)
*9:Jornal do Campus 2016年6月9日付記事「Adusp、大学本部が提示する制度変更案に反対
*10:Jornal do Campus 2016年6月23日付記事「CRUSP、目を覚ませ!機動隊がいるぞ!」(FERRARI, N.)
*11:USP広報室 2016年6月1日付記事「労働者のスト権利の責任ある行使について」(USP本部)
*12:USP広報室 2016年5月30日付記事「Cruesp、給与調整率3%案を維持」(USP本部)

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