【海外センターレポート・エジプト】シリア人学生と高等教育をめぐる動き

2011年から続くシリア紛争により,多くのシリア人が国外に脱出している.その中には初・中等教育,高等教育を本来受けることの可能な年齢層の若者も多く,彼らが教育機会を奪われた「失われた世代」となることが危惧されている.
エジプトやヨルダン,レバノン,トルコなどの周辺国においてのシリア人学生の大学進学にあたっての問題点については,以下の点が挙げられる;
1.授業料ほか資金面の問題
2.身分証明・中等教育修了証明などの不備のための大学への登録困難
3. 中等教育を修了する前にシリアを出た学生,あるいは修了証明を持たない学生に対しては,居住国での中等教育修了とその証明の必要性
4.言語の壁(トルコなど,アラビア語以外を主言語としている国の場合.ただし,初・中等教育に関しては,アラブ諸国の中でも国ごとの口語の違いが,障壁となり得る.)

エジプトにおいては,国立大学の授業料に関しては,現在特例としてエジプト人と同様の扱いを受けているため,ほぼ無料となっている.(この措置は公立の初・中等教育でも同様.通常,外国人学生は授業料として年間数千ドルの支払いが必要となる.)そのため,他の周辺諸国に比べて,1の資金面で,エジプトはシリア人にとって大学へのアクセスがしやすい国の一つともいえる.しかしながら,修士・博士課程への登録料などについての特例措置が当初認められていたのが現在では認めなくなるなど,シリア人学生をめぐる対応は政治情勢などの変化を受けやすく,また大学に行けなかった年数分の罰金のようなものが課されると言ったような状況もあり,シリア人学生は大学での学業の継続に関して不安定な立場に置かれている(URL1).

一方で,最近では在エジプトシリア人の中から,エジプトでのシリア人学生の教育機会取得を推進していくための動きも立ち上がってきている.その中でも,シリア人学生がエジプトの大学などで学ぶ機会を得ることを支援する目的で活動を始めた”Khatwa – gathering of Syrian students in Egypt(※)”(ハトワ-在エジプトシリア人学生の集まり)(URL2)は,現在ではシリア人のみならず他国の学生に対しても大学への登録手続きを請け負ったり,大学登録に関してなどの無料相談などを実施している(URL3).

※Khatwa – gathering of Syrian students in Egypt
2013年にSami Al Ahmadにより設立され,シリア人学生に対してエジプトの大学の登録過程をアドヴァイスするといった活動を開始,2014年に在外シリア人NGO”Jusoor”の起業コンテストで賞金を獲得.今年に入ってからは支援した外国人学生が学業を全うできるような環境づくりを支援するための活動など,さらに活動分野を広げている.

(カイロ研究連絡センター)

URL1: http://www.al-fanarmedia.org/2015/04/even-in-egypt-syrian-refugees-struggle-to-access-higher-education/
URL2: http://khatwa-sy.com
URL3: http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-34472018

地域 中東・アフリカ
エジプト、その他の国・地域
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育
人材育成 学生の多様性
レポート 海外センター