【国際協力員レポート・イギリス】英国大学における外部資金に係る支援体制

2004年4月の国立大学法人化以降、日本の国立大学法人に拠点を持つ研究者にとって、外部資金獲得の重要性は年を追うごとに増している。各国立大学における大学運営資金は法人化以降、毎年約1パーセント前後削減 され、研究者、特に自然科学系の研究者にとって、国の競争的研究資金等の外部資金を獲得しなければ自身の研究を進める事は困難な現状となっている。しかし一方で、研究費獲得にあたっては公募情報の収集、研究計画、予算積算等申請手続、採択後の予算管理、非常勤職員等の雇用手続、勤怠管理、実験器具、大型設備等の購入、年度ごとの額の確定検査対応、研究期間終了後の実績報告書、成果報告書の作成、さらには委託元からの研究期間終了後のフォローアップ関係対応等、大学運営資金のそれに比し、かなりの時間を研究費獲得、管理に割かねばならず、特に近年トレンドとなりつつある複数大学、企業、地方自治体等がコンソーシアムを組むいわゆる拠点型の外部資金獲得、管理にあたっては申請機関間における予算、人材等に係る調整も必要となりこれが研究者の研究活動に対して少なからず妨げとなっている事も事実としてある。
こういった現状を打開すべく、日本の多くの国立大学法人は部局横断型等、各種プログラムに対応するための特別支援室の設置や、各部局間、機関同士の連絡調整等を行うコーディネーターの配置、弁理士等専門家の雇用、国の先導の元URA(University Research Administrator)制度を導入、また本部事務機構における研究協力支援体制を強化する等、様々な試みがなされているところではあるが、本分野においては大学において前例のない事が多発するということもあり、特に大学事務機構においては変化に対応しきれず、多くの大学においては未だ暗中模索といっても過言ではない現状にある。
この一つの要因としては日本の国立大学法人が研究資金獲得に関して欧米に比べて歴史が浅い、ということが挙げられよう。一方で、ここ英国大学における外部資金獲得の歴史をたどってみると、日本に比べ相当以前より外部資金獲得を念頭においた経営がなされていることに気づかされる。例えば1985 年、大学学長委員会(Committee of Vice-Chancellors and Principals:CVCP)による『大学の効率性の研究のための運営委員会報告書』公刊、また、1992年の継続・高等教育法(1992Further and Higher Education Act)制定に伴う英国高等教育一元化による大学数、学生数の急増以降、国から外部資金獲得を念頭に置いた効率的な大学経営が求められており、特に、産学連携の側面で言えば、大学経営に対しビジネス面の強化を促した2003年『ビジネスと大学との協働のためのレビュー(通称『ランバート報告書』)』公刊以降、企業との共同研究促進がより押し進められているところである。
また、英国大学は2014~2015年実績で見ると全体収入の約20%(政府関係外部資金11%、民間等外部資金8%、寄付金1%)を外部資金 より賄っており、さらに研究資金収入のうちの海外からの外部資金収が16%(EU経由11%EU圏外経由5%)と、国外における外部資金を積極的に獲得しようとしている姿勢が窺える。これは、EUの「Horizon2020」 による各種プロジェクトを、他のEU諸国に比し1,400件以上と最も多くコーディネートしており、また、2014年~2015年における海外からの研究収入実績が12.3億ポンドと相当額に達することからも見て取れる。同時に英国はEUに限らず米国、カナダ、オーストラリアと、世界各国様々な地域より外部資金を獲得しており、これらのことから英国の大学においては、国内外問わず、多様なタイプの外部資金獲得、管理に関するノウハウが豊富にあることが推測される。
一方で日本の国立大学法人においては全体の約15%が外部資金収入であり(競争的資金12%、寄付金収入2.3%)、さらに海外からの外部資金収入については、日本と諸外国との税法等の法慣習の違いもあり、筆者の知る限りかなり限られた額にとどまり、英国と比較した際、相当に見劣りするものがある。
よって、本稿においては外部資金に関し日本に比べ長い歴史並びに豊富な経験を持つ英国の大学において、各々の大学がどういった体制で研究資金を外部から獲得、マネジメントし、特に事務職員が具体的にどのような形で研究者に対して支援を行っているのかに着目し、今後の日本の大学における研究協力支援体制強化に資することを目標としたい。

なお、報告書全文はこちらから閲覧可能。

【氏名】 三田 太郎
【所属】 東北大学
【派遣年度】 2016年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン研究連絡センター

地域 西欧、EU
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
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人材育成 教員の養成・確保
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