【国際協力員レポート・イギリス】英国における高等教育の質保証への取り組み ―学生の声を拾い上げる体制に着目して―

 
近年の英国の高等教育政策は、「学生中心」がキーワードとなっている。その大きなきっかけとなったのは、サッチャー政権(1979-1990年)時代に、教育が英国の国民の福祉と国際競争力の向上に資することを目的として、教育に市場主義を導入したことが挙げられる(1988年「教育改革法」。★1
その後、ブレア政権(1997-2007年)時代の1998年より、財政難や受益者負担原則の導入を理由として上限額£1000/年の大学の授業料の徴収が始まり、2006年には£3000/年、さらに2012年には£9000/年★2 と、かなりの上昇率を辿ってきた。その結果、授業料の高騰に伴い、受益者の学生目線で、受ける教育にどれだけの価値があるのかが重要視されるようになり、大学から学生への情報提供が求められるようになる。

 
そして、 2011 年 6 月にビジネス・イノベーション・技能省 (BIS)が発表した「学生中心の高等教育システムを目指して」 ★3 では、その名のとおり、高等教育の中心にいるのは学生であることが強調され、2017 年の高等教育研究法により、更にその方向性が強化されることとなった。高等教育研究法では、学生による高等教育への投資に対して、「資金に見合う価値」を提供することが重要であるとし、大学は、学生の入学の公平性に関する情報や留学生にとって有益と思われる情報を公表することが義務付けられた。★4 また、この法案により、大学の業務監査及びファンディングの機能を持つ学生局(OfS)が設置され、高等教育機関の質評価を図る評価制度を学生局が担当することとなった。 

 
筆者は、高等教育の質評価のひとつである、学生に自身の大学を評価させる「National Student Survey:NSS」(全国満足度調査)に興味を抱き、また、同時に英国内での学生の大学に対する影響力を探ってみたいと考えるようになった。そこで本稿では、OfS と大学内にある学生による学生のための組織「Students’ Union」、英国内の Students’ Union を束ねる「National Union of Students」に所属する関係者への聞き取りを行うことで、英国内の「学生中心」の高等教育制度の実態を明らかにすることを目指す。
 

なお、報告書全文は こちら から閲覧可能(PDFファイル:約 1MB)


★1 劉 文君「第 1 章 イギリスにおける高等教育改革の動向」 (2022年2月7日アクセス)

★2 文部科学省「英国「学習社会における高等教育の将来(通称「デアリング報告」)」の概要」 (2022年2月7日アクセス)

★3 BIS (2022年2月7日アクセス)

★4 日本学術振興会【ニュース・イギリス】高等教育研究法 (2017)制定 (2022年2月7日アクセス)


【氏  名】  三好 倫加
【所  属】  広島大学
【派遣年度】  R2
【国内研修所属課・室】 人物交流課
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン


地域 西欧
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
国際交流 国際化
レポート 国際協力員