【国際協力員レポート・イギリス】英国における留学生のメンタルヘルス -大学の支援体制に着目して-

 
本稿は、英国 ★1 大学に在籍する外国人留学生(以下「留学生」)を対象としたメンタルヘルス支援体制に関する調査報告である。

 
世界保健機関によると、メンタルヘルスとは、自分自身の精神状態を把握して日常のストレスに対処でき、社会に何らかの貢献ができるような良い状態を指し、メンタルヘルスが損なわれた状態は健康であるとは言えない。個人のメンタルヘルスは社会的、心理的、生物学的な諸要因の影響を常時受ける ★2 ことから、メンタルヘルスを維持・向上させるための行動や環境作りが欠かせない。

 
ところが、新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)の感染拡大は社会のあり方を一変させ、現在に至るまで私たちのメンタルヘルスに著しい影響を及ぼし続けている。日本全国の大学の8割が「学生のメンタルケア」を、6割が「学生の孤立化」を課題と考えているという朝日新聞と河合塾の共同調査の結果 ★3 や、COVID-19 のパンデミックの中で世界各地の若者の5人に1人が抑うつや無気力の状態にあるとの国際連合児童基金(ユニセフ)の調査結果 ★4 が報告されており、日本のみならず世界全体で若者のメンタルヘルスを取り巻く環境はかつてない程に厳しい。

 
英国も例外でなく、学生のメンタルヘルスは危機的状況にある。イングランドの大学を対象に調査した Hubble & Bolton (2020) によると、メンタルヘルスの悪化を申告する学生の数はパンデミック以前から増加傾向にあり、2018/19年には82,000人の学生(全学生の4.3%)がメンタルヘルスの問題を申告しているが、これは2014/15年の申告数の2.5倍にあたる。メンタルヘルス悪化の要因として、学業のプレッシャーや親元を離れること、経済的不安などがあることが挙げられる。2020年初頭に COVID-19 の感染が急拡大したことにより友人や家族との交流が制限され、学生は孤立感にさいなまれるようになった。精神的不調により、成績低下、将来に対する悲観、中途退学、最悪の場合自殺に至るケースがある。

 
続く第2章で英国における学生のメンタルヘルス支援の動向と留学生のメンタルヘルスを取り巻く状況を概観する。第3章では英国大学関係者を対象に実施したインタビューを通して、各大学の支援体制を報告し、第4章でインタビュー調査により得られた情報を基に考察を試みる。
 

なお、報告書全文は こちら から閲覧可能(PDFファイル:約 1MB)


★1 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4国から構成される
   連合国である。本稿において、4国のうち特定の国を指す場合は「イングランド」などと国名を本文または脚注に明記する。

★2 WHO (2022年1月3日アクセス)

★3 大学の8割「学生のメンタルケアが課題」 とくに心配なのは2年生.朝日新聞.2021年9月19日 (2021年12月5日アクセス)

★4 本調査は21国において15歳から24歳の若者を対象にユニセフが実施した調査である。 (2022年1月20日アクセス)

 


【氏  名】  迎町 彩織
【所  属】  東京大学
【派遣年度】  R2
【国内研修所属課・室】 研究協力第一課
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン


地域 西欧
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
国際交流 国際化
レポート 国際協力員