【国際協力員レポート・アメリカ】米国にはびこる教育格差の現状と是正への取組

 
教育格差は「持続可能な開発目標(SDGs)」の17ある目標のうちの一つ、「質の高い教育をみんなに」の中でも改善すべき重要課題として定められ★1 、各国で取り組まれている。まず教育格差とは、子供本人に変更できない初期条件である「生まれ」によって、学力や最終学歴等の教育成果に違いが現れることである★2 親の学歴、世帯収入、職業などの社会的、経済的、文化的な要素を統合した「社会経済的地位(SES)」や出身地域は主要な初期条件である。

 
教育格差が広がることにより、長期的に経済格差が発生し、それがまた新たな教育格差を生み出すため、負のスパイラルに陥ることになる。教育格差は、開発途上国だけではなく日本国内においても戦後から長期に渡り存在し、幼児教育段階から早くも現れる問題である。しかしながら、日本国内においては建設的な議論をする上で、分析可能なデータが少ない点が課題であると考えられている。★3

 
米国の国内総生産(GDP)は世界第一位で、World University Rankings 2022(The Times Higher Education)においては、★4 トップ10にハーバード大学やスタンフォード大学等を始めとする米国の大学が8つランクインする。一見すると経済も教育レベルも非常に豊かだと思われるが、これらのデータには現れない深刻な格差が存在する。García and Weiss(2017)によると、★5 1979年時点で、所得水準の下位90%にあたるアメリカ人は市場全体の所得のうち67%を得ていたが、2015年時点ではその割合が52%まで減少した。その間、所得水準の上位1%にあたるアメリカ人が、大きくその割合を増やした。この所得格差は社会経済的地位に大きな影響を与え、1960年代以降、生徒の社会階級毎の学習到達度の差は大幅に広がっている。

 
本稿では、上述のような米国における深刻な教育格差の現状と対策を解明する。日米間の経済規模や教育システム等、異なる点は多いものの、本稿での調査が僅かでも日本国内における教育格差の議論の材料として寄与することを目的とする。

 
まず「1.はじめに」では、日米における教育格差の問題提起をした。以降の「2.米国における教育格差の現状分析」では、米国の所得格差や生徒の学習到達度を各種データに基づいて比較し、教育格差の現状及び問題点を簡単に分析する。「3.アメリカ合衆国連邦政府による格差是正政策」では、連邦政府が行う高等教育に関連する代表的な格差是正政策をまとめる。「4.各大学での事例(インタビュー)」では、公立・私立、大学規模等の異なる米国4大学における、教育格差の現状、是正への取り組みやその効果等をインタビュー形式でまとめる。最後に「5.考察」では、本稿における調査全体を通して明らかになったことを筆者の考察も含めて論じる。

 
なお、報告書全文は こちら から閲覧可能(PDFファイル:約1MB)


★1 https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/4-education/(2022年2月6日参照)

★2 これを本稿における教育格差の定義とする。

★3 https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2020/1029_08.html(2022年2月6日参照)

★4 World University Rankings 2022(2022年2月1日参照)

★5 Emma García and Elaine Weiss, “Education inequalities at the school starting gate Gaps, trends, and strategies to address them”,
   in Economic Policy Institute, 2017, pp.6-7.


【氏  名】  岡田 透
【所  属】  東北大学
【派遣年度】  R2
【国内研修所属課・室】 研究協力第一課
【派遣先海外研究連絡センター】 サンフランシスコ


地域 北米
アメリカ
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
国際交流 国際化
レポート 国際協力員