【国際協力員レポート・アメリカ】米国における返済不要な奨学金制度 -日本との比較から-

 

 文部科学省が平成30年12月28日に公表した「高等教育の無償化の制度の具体化に向けた方針の概要」*1) には、「低所得者世帯の者であっても、社会で自立し、活躍することができる人材を育成する大学等に修学することができるよう、その経済的負担を軽減することにより、我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与するため、真に支援が必要な低所得者の者に対して、①授業料及び入学金の減免と②給付型奨学金の支給に合わせて措置する。」と表記されている。日本学生支援機構が平成30年3月に公表した「平成28年度学生生活調査」*2) では大学生の約50%が奨学金を借りており、平成24年に文部科学省から発表された「(独)日本学生支援機構奨学金貸与事業の概要」*3) によると、無利子奨学金貸与人員の割合は約29%(無利子奨学金貸与人員38万3千人/ 総貸与人員133万9千人)であったが、平成31年度には、約42%(無利子奨学金貸与人員56万4千人/ 総貸与人員132万9千人)*4) と、ここ10年近くで約10%程度無利子奨学金貸与人員が拡大したことが分かる。しかし、米国の大学生の大半が何かしらの無償奨学金を受けていることに比べ、日本では、まだ58%の学生が利子付きの奨学金を借りていることが分かる。日本の奨学金は、奨学金と謳いながらも未だローンの意味合いが強いことが分かる。
 

 一方、高等教育政策研究所(Institute for Higher Education Policy :IHEP)が発表した”Limited Means, Limited Options: College Remains Unaffordable for Many Americans” *5) によると、米国の学生が週10時間労働し、家族が所得の10%を10年間貯金した場合でも、学生がローンを利用しない場合、大半の大学は入学が難しいとのことである。また連邦学資ローンを最大限に利用した場合であっても、少なくとも全体の70%の大学は、中流階級の学生にとっては、入学が厳しいものであると報告している。2020年の大統領選に出馬予定のサンダース上院議員は、「約4.5千万人分の計1.6兆円以上に及ぶローン型奨学金を無償にするとういう内容の法案」*6) を議会に提出する予定である。米国でも高額な授業料負担の対策は、国民の関心が非常に高いことが分かる。
 

 本報告書では、米国における返済不要な奨学金制度の事例を紹介し、日本に比べ学費が高いとされる授業料の負担をどのように軽減させているのかを紹介する。また、企業などからの寄付金なども紹介し、今後日本の奨学金制度は、低所得家庭のみならず、優秀な人をどのように支援するべきなのかについてまとめた。
 


*1) 高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針の概要(2020年2月18日にアクセス)

*2) 平成28年度学生生活調査結果(2020年1月31日にアクセス)

*3) (独)日本学生支援機構(JASSO)奨学金貸与事業の概要 (2020年2月18日にアクセス)

*4) 2019年度文部科学関係予算(案)のポイント (2020年2月18日にアクセス)

*5) Institute for Higher Education Policy (2019年8月3日にアクセス)

*6) forbes:Bernie Sanders: I Will Cancel All $1.6 Trillion Of Your Student Loan Debt(2019年8月4日にアクセス)
 
報告書全文はこちらから閲覧可能(PDFファイル:約1MB)
 

【氏  名】  國井 秀樹(くにい ひでき)
【所  属】  東海大学
【派遣年度】  2019年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ワシントン研究連絡センター

地域 北米
アメリカ
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
学生の経済的支援 学費、学生向け奨学金
レポート 国際協力員