【国際協力員レポート・アメリカ】ボルチモア市学区からみる米国のSTEM教育政策 - ジョンズ・ホプキンス大学SABESプロジェクト -

 
AIの発達により便利さが増すことは当然のことであるが、同時に人の仕事が奪われるのではないか、とのトピックをメディアでよく耳にすることがある。実際、野村総合研究所の調査研究によると、10から20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業について、人工知能やロボット等に代替することが可能との推計結果が発表されている。これに関しては、私自身、子を持つ親として子供の将来が心配になり、AIを使う側の人間になるにはどのような教育をするべきか、よく考える必要があると感じている。また、大学職員として、将来活躍できる人材を社会に送り出すことはいつの時代も変わらない使命であるが、これからはAI時代に活躍できるような人材育成を行わなければならない。
 
AI時代に活躍するためには、人間が持っている能力を発揮することであり、その能力は、人間の五感に創造力を加えたものだと考えている。既存の事柄をルールに従って行うような定型的な作業はAIに代替されると考えると、五感+創造力を活用して、新しいモノを創ったり、問題を解決できたりする人材がこれからの時代に求められる。その能力を鍛える教育として、『STEM』というワードを日本でもよく耳にするようになった。
 
『STEM』とは「Science, Technology, Engineering, and Mathematics」の頭文字をとって作られた言葉で、科学・技術・工学・数学といったいわゆる「理工系」を意味する。この言葉は、1998年から2004年にわたって米国国立科学財団(National Science Foundation:NSF)長官を務めたリタ・コルウェル博士が最初に使用したとされ、その後、教育政策や教育プログラムを言及する時に幅広く使われるようになった。米国では、経済的競争力の発展は有能な科学技術労働力の存在にあると考えられている。特に、1957年のスプートニク・ショック以降、国の科学技術人材の育成が顕著となり、その中で『STEM』という言葉も生まれ、今日まで様々な政策がとられている。
 
米国でのSTEM政策は理数系教育からマイノリティの活用まで多岐にわたっているが、その背景にあるのは、科学技術の発展による国家競争力の維持で、その科学技術の発展を支える有能な科学技術労働力の育成・確保を達成することである。そこで、本調査では、米国のSTEM政策のその一つの側面である理数系教育への取り組みとして、メリーランド州ボルチモア市に焦点をあてる。まず、同市の学力における現状について触れ、その後、ジョンズ・ホプキンス大学が実施する、K-12(Kindergartenから第12学年)のSTEM分野における教育の改善を目的としたアウトリーチ活動である「SABES」というプロジェクトに着目する。
 
報告書全文はこちらから閲覧可能(PDFファイル:2MB)
 
【氏名】 上田 眞広
【所属】 山口大学
【派遣年度】 2018年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ワシントン研究連絡センター

地域 北米
アメリカ
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育
社会との交流、産学官連携 地域連携
レポート 国際協力員