【ニュース・イギリス】18歳以降の教育見直し報告書発表

 
2019年5月30日のガーディアン紙によると、メイ首相の指示により政府委 託として提出された報告書において、英国の経済的に恵まれない学生は、高校を卒業してから学校卒業後も教育継続のため1年当たり3,000ポンド相当の支援を受けることが発表された。
 
18歳以降の教育と資金についての報告書は、次期政府に受け入れられるのであれば、資金に関して大学から職業教育や職業訓練に移行するとしている。卒業生は退職間際まで多額の学生ローンの返済に追われる一方で、大学は“低価値な”課程からの収入を失うだろう。
 
この報告書が発表されるや、メイ首相は「私の見解は明らかで、もっとも金銭的に恵まれない学生に対する支援を廃止することは上手く機能しなかったので、私は今こそその資金を戻す時だと信じている。」と述べた。
 
メイ首相の意見は、当時の財務大臣George Osborne氏が貧しい出身の学生に対する支援を“余裕がない”と発言したことにより、当時の首相David Cameron氏が2015年に下した学生生活維持資金の廃止という決定が誤りであることを明らかにするものである。
 
Philip Augar氏が責任者である報告書は、メイ首相が2017年の保守党大会で明らかにした公約に基づいて、学生が負う高額な負債や学費を調査するよう委任されたものだった。しかし、レポートの公開はBrexit交渉や関係機関や制度など複雑な問題があり、何度も延期された。
 
報告書の要点は以下のとおり。

  • 学部生の学費を7,500ポンドまで引き下げる
  • 学生ローンの返済期間を現行の30年から40年まで延長する
  • 全成人対象の、単一の生涯学習ローン手当設立
  • サブ学位を取得する学生のための生活費ローン
  • “学費拠出”としての学生ローンのブランド変更
  • 成人向けの継続教育カレッジと職業訓練への資金投入

 
労働党の影の内閣教育担当大臣Angela Rayner氏は、「この報告書は我が国の教育システムが直面する不公正には何一つ言及していない。公式な政府回答も無く、特別な資金も、メイ首相の後継者によって勧告がなされる保証もないまま、この報告書は典型的なメイ首相と、このめちゃくちゃな保守党政権の遺産となるだろう。口先だけで、何も約束は無く行動はない。」と発言した。
 
英国学生連合(National Union of Students:NUS)Shakira Martin会長

「この発表はあまりにも遅すぎる。メイ首相が高等教育に貢献したことといえば、我々の留学生仲間をこの国から追放したことだけだ。報告書における、大学の授業料を9,250ポンドから7,500ポンドに削減するという提案は、人文科学及び社会科学分野の収入減を意味する一方で、大学による資金提供や授業の種類に対する政府の介入拡大を要求するだろう。」

 
Augar Reviewの委員会は、「一部の学生は学位に対して学費を過剰に支払わされており、納税者からの多大な貢献は、資金が必要な学部に充てた方が、学生や納税者に対して価値がある」と発表した。
 
報告書はまた、学生数の定着率と卒業生の就業記録が乏しい学位課程について、政府が最低入学基準と学生数の管理を義務付けるよう勧告した。
 
しかし、学費額の変更はスコットランドやウェールズの大学にも影響が出るとの懸念から、大学の指導者たちはすぐにこの提案に反対した。

「一見したところ、学費に関する勧告は学生にとっては良いものに思えるが、政府が代わりの資金について確定的な保証をもたらさない限り、この勧告は偽善であることを証明してしまうだろう。」と英国大学協会(UUK)の会長Alistair Jarvisチーフエグゼクティブは述べた。
 
「代わりの資金なしに学費を下げることは、学生に害をもたらし、機会を制限し、大学に損害をもたらし、ビジネス界が必要とする高い教育を受けた働き手を減少させ、現代の英国が最も必要とする時点での英国の国際的競争力を低下させる政治的選択だ」
 
「学生は、これまでよりは少ない負債を抱えて大学を卒業するだろうが、この提案は、学生ローンの返済期間が30年から40年に延長され、返済開始を迎える時点での年収が低くなることに伴い、卒業生が現在の仕組みよりも長期間多額の返済に追われるだろうと述べている。」

 
延長された返済期間は、今のように50代初めに学生ローンの残額を一掃するのではなく、多くの学生が60代になるまで学生ローンを返済することになるだろう。
 
この委員会が、学生ローンに課されている高金利に関する変更について少しの勧告ももたらさなかったのは驚きだった。
 
学生財政システムの専門家Andrew McGettigan氏は以下のように述べている。

「政府はこれをまったく無視するか、インフレでの低金利である時しか機能せず、それこそが、学生ローンシステムについての誤解の主な原因である。」 

 
しかし、この報告書の元で最も成功を収めることになるのは、成人向けの継続教育カレッジや職業訓練部門だろう。これらの部門は1年で約3億ポンドの追加融資と、成人向けの継続教育カレッジの国家的ネットワークに対する1億ポンドの国家からの追加融資が見込まれる。
 
Damian Hinds教育大臣は、以下のように述べている。

「この報告書は職業教育学校が重要な役割を担っていることについて、十分な真実を認めている。」
 
「余りにも頻繁に、我々は高等教育に偏見を持ってきた。しかし、我々は高等教育、継続教育・技術教育の両者に等しく機会を認める必要がある。」

 
‘シンデレラ機関’と言われている成人向けの継続教育カレッジであるが、Augar氏は「我々の働きは、イングランドでの18歳以降の教育は、学生が高等教育を受けている方の50%の中にいるか残りにいるか次第で、手厚い支援か完全無視どちらかになりうることを明らかにした」
 
「委員会は、この格差が対処されなければならないと考えている。そうすることは、公正性と平等性の事柄であり、個人、雇用主、そして国全体に相当の社会的・経済的利益をもたらす可能性がある。」
 
シェフィールドハラム大学Chris Husbands学長はパートタイムで柔軟な学習の奨励を歓迎するが、その多くが現在の政治的不安定を乗り越えることが出来ないだろうと述べた。
 
「私の最も大きな不安は、この報告書が政治家によって良いとこどりされ、上手くいかずに終わるだろうことである」とChris Husbands学長は述べた。
 
The Guardian:Give worse-off students £3,000 to stay in education, says report
 
報告書[PDF:5.2MB]:Review of Post-18 Education and Funding
 

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