【ニュース・中国】農業関連大学50校余りで合意 新たな農業学科設置の「設計図」ができる

 
知乎(中国のQ&Aサイト)で「農学」を検索すると、数々の悲惨な状況を目にすることができる。農学の専攻は中国でどのような未来があるのか。農学の専攻はなぜ人気がないのか。農学の専攻で苦境に陥った人は一体どれほどいるのか。さらに多種多様な「退学の勧め」や「苦難からの脱却」に関する書き込みがあるが、そこには経験者の「血と涙の歴史」が詰まっている。
 
しかしこの局面に間もなく変化が訪れるだろう。
 
2019年6月28日、浙江省安吉県余村で教育部高等教育司が指導し、教育部新農業学科設置業務グループが主催する新農業学科設置安吉シンポジウムが開催され、全国50校以上の農業関連大学から140名余りの党委員会書記や学長、著名な専門家が参加した。
 
会議では「安吉合意」が公表されたが、その一字一句に、中国の大地に根差した高等農林教育の質的革命を起こし、世界の高等農林教育の発展に貢献する「中国方案(中国独自のプラン)」を提供しなければならないという力強い気迫がみなぎっている。
 
教育部高等教育司の呉岩司長は宣言した。「今日は中国の高等農林教育の再出発の日だ」
 
農林教育は主体的に変化を認識し、変化に適応し、変化を求めなければならない
 
呉司長は単刀直入に、いくつかの差し迫った問題について説き明した。
 
農業の全面的な高度化・農村の全面的な進歩・農民の全面的な発展の新たな要求と科学技術産業革命が急速に進む世界の新たな時代の波に直面して、高等農林教育もイノベーションによる発展の必要に迫られている。しかし中国の高等農林教育は「大規模ではあるが質が伴っておらず」、農林の専攻は魅力に乏しく、農林教育そのものの発展に関する根本的な問題と厳しい課題に直面しており、イノベーションによる発展の必要にも迫られている。
 
昨年8月、中央からの文書において高等教育で新たな工業学科、新たな医学科、新たな農業学科、新たな文系学科を発展させるべきだと提起された。中でも、新たな農業学科の設置と発展は、高等農林教育において習近平総書記の「両山」理念(緑の山は金山に匹敵するという理念)を実践し、イノベーションによる発展を推進するための戦略的措置であり、貧困対策・農村の振興・生態文明・美しい中国の建設に高等農林教育が寄与するための戦略的行動である。
 
中国農業大学の王濤副学長によると、2018年4月以来、同大学は農林関連大学を集めて「新たな農業学科」の設置について何度も検討してきた。伝統的な農業学科の専攻課程の構造やカリキュラム体系、人材育成目標がすでに農業と農村の現代化発展に関する要求に適応することができなくなっていることから、「新たな農業学科」の発展は高等農林教育の発展のための内在的な要求であり、農業と農村の現代化発展の需要に適応するための必然的な要求でもあるとの認識に至った。
 
「我々が認めなければならないのは、農林教育には根本的な問題と困難な状況が存在することだ。激しい変化に応じて変わっていかなければ自ら墓穴を掘ることになる」
 
呉司長はこう話したうえで、農林の専攻を人々に知られる学問、人気が高い学問とし、人々が先を争って学ぶようにしなければならないとし、さらに「改革を適切に行えば、ピンチがチャンスに変わる可能性もある」と言う。
 
貧困脱却攻略戦を勝利するうえで、高等農林教育はその責任を逃れることはできない。農村振興戦略の実施において、高等農林教育が担う任務は重い。生態文明構築の推進を高等農林教育は道義的にも拒むことはできない。山河が美しく、市民の幸福感があふれる国造りにおいて、高等農林教育は大きな役割を果たすことができる。呉司長が強調するのは、中国の高等農林教育は差し迫った使命感・緊迫感を持って鋭意改革に取り組み、主体的に変化を認識し、変化に適応し、変化を求め、新たな農業学科の設置を加速しなければならないということだ。
 
農林教育の適切な実施は「天地を揺るがす」ことである
 
「新たな農業学科の『新たな』の意味はイノベーションであり、それは農業学科全体のイノベーションであり、専攻構造の再構築だ」
 
こう話す王副学長によれば、それは新たな需要、新たな発展理論・新たな知識・新たな技術、学科間のクロスオーバー・融合、産業の発展・社会の発展により派生した新型の関係により生み出されたイノベーションである。
 
呉司長によると、新たな農業学科を設置する場合は「4つの方向性」を堅持しなければならない。新たな農業・新たな農村・新たな農民・新たな生態に向かって、中国が農業大国から農業強国へ邁進するよう推し進め、農村が穏やかに暮らし楽しく働ける理想的な生活の場となること、山はさらに緑に、水はさらにきれいに、森はさらに生い茂り、田畑はさらに肥沃に、湖はさらに清らかに、草原はさらに豊かになるよう助力することだ。
 
「農林教育を適切に行うことは、天地を揺るがすことだ」
 
呉司長によれば、農林教育は、山・水・林・草・湖・田・気象などさまざまな要素に関係する。新たな農業学科を設置する場合は、「3本の道」すなわち融合的な発展・多元的な発展・共同の発展という新たな道の実践を積極的に模索し、イノベーション型・複合応用型・実用技能型の農林業に関わる新たな人材の育成を加速し、農林業に関する「一流の専攻」、「ゴールデン・カリキュラム」および「優位性のある拠点」を高いレベルで構築しなければならない。
 
専攻課程は人材育成のための基本単位だ。新たな専攻が必要な場合は、同時に古い専攻を改造しなければならない。呉司長によると、最先端の農林産業の発展と生産・生活・生態に係るさまざまな分野のサービスに、そして新興・クロスオーバー・境界を越えて融合した科学技術の発展に基づき、追加する数を最適化し、現在の数を調整し、新興の農業学科の専攻を主体的に配置し、バイオ技術、情報技術、工学的技術などの現代の科学技術を用いて既存の農業に係る専攻を改造・高度化し複数の農林に関する一流の専攻課程を作り上げなければならない。
 
「一流の専攻」には「ゴールデン・カリキュラム」も不可欠だ。カリキュラムは人材育成の質を向上させるための重要な段階である。呉司長によれば、新たな農業学科の設置は農林業の実際の問題や農林産業の事例、最先端の科学技術に基づくものだ。新時代の農林業に関する優れたカリキュラムを開発し、探究式・討論式など学生の能力開発を中心とする教育指導方法を創出し、農林業に関する教育指導と情報技術の深いレベルの融合を推進すること、そして農林業に関するカリキュラムの高次性・革新性および挑戦度の向上に注力し複数の農林に関する一流のカリキュラムを作り上げることが重要だ。
 
革新的な農林教育は書籍や教室に留まるものではなく、実践教育が人材育成の重要な担い手だ。校内の実践教育拠点と校外の実習拠点が連携する共同の実践教育場の構築を加速し、共に構築し共に享受する地域の農林実践教育拠点を建設するなど複数の農林に関する一級の実践拠点を作り上げなければならない。
 
呉司長は「農林教育が教室から抜け出して自然環境に入り込むことにより、実践の足りない点を補う」と言う。
 
科学技術により未来の農業の発展を支える
 
大学の実践と模索が一貫して行われている。西北農林科技大学は未来農業研究院の設立を計画している。同大学の呉普特学長が科技日報記者に訴えたのは、教育の本質は人の育成であり、これについて農林教育機関は未来の農業に果たしてどのような人物が必要なのかを考える必要があるということだ。
 
「我々は、未来の農業にはいくつかの特徴があると考えている」
 
呉学長は、未来の農業は単なる従来的な第1次産業ではなく、間違いなく第1次・第2次・第3次産業の融合体となると言う。未来の農業の発展理念に重大な変化が生じている。昔は「空腹を満たす」ことを追求し、現在は「美味しく食べる」ことを追求しているが、次に追求するのは「食べて健康になる」ことだ。さらに、未来の農業は間違いなくハイテクが支えるスマート農業であり、もはや人々が伝統的に思い描く「面朝黄土背朝天(辛く苦しい農作業)」ではない。「未来の農業に係る専攻を一体どのように設置すべきか、我々にはまだ分からない。しかしそれは1本の道でなければならず、間違いなく複数の学科間のクロスオーバー・融合によるものだ」
 
そこで西北農林科技大学と西安交通大学、西北工業大学は共同で探求する予定だ。
 
未来の農業には間違いなく科学技術が用いられる。中国農業大学は各学院の専門人材育成計画に対する中間修正の実施を指示し、最新バイオ技術・工学技術・情報技術を用いて既存の農業に係る専攻の改造を図っている。王副学長の説明によると、大学では現在新たな専攻の設置を計画しており、農業用AI設備・バイオマスプロジェクト・自然資源管理・農村計画管理・農村管理など新たに生まれた農業学科の専攻に関する議論を開始しており、複数の「新たな農業学科」の専攻新設の申請を計画している。
 
蘭州大学は現代バイオ技術・情報技術・景観工事技術を用いて専攻の内容を充実させ、「インターネット+現代草業(芝や牧草に関連する産業)」・創意に富む草業・農村観光・草原観光などの新たな産業と新たな業態の振興に寄与することを提唱している。また特色あるカリキュラムの開発をより重視し、情報技術と教育の深いレベルの融合を強化して混合式教育およびオンライン教育を踏み込んで実施しようとしている。
 
浙江農林大学の応義斌学長が希望するのは、新たな農業学科の設置において農林学科の質と名声の飛躍的な向上を実現し、「美しい中国」・「農村の振興」など社会が注目する問題を踏まえて農林学科を広報すること。教育資源支援政策の現状打破を実現し、各級政府が農林関連の専攻への支援を強化するように促すこと。農林を専攻する学生の獲得先の質の向上を実現し、政策支援を強化して優れた学生の志望者を増やすことだ。
 
「安吉合意」の公表は、新たな農業学科の設置のための三部作の「第一部」であり、新たな農業学科の設置のための「設計図」を完成させたものだ。呉司長によれば、「第二部」は国の食用穀物の生産拠点である東北地域において新たな農業学科を設置する「北大倉行動」を開始し、新たな農業学科の設置のための「基礎杭」を打ち込むことだ。「第三部」は北京市に新たな農業学科を設置するための「北京指針」を発表し、新たな農業学科の設置に関する複数の研究・実践プロジェクトを開始して設置のための「着工命令」を発することだ。
 
2019年7月4日
 
中国新闻网:50余所涉农高校达成共识 新农科建设有了“施工图”[来源:科技日报]
 

地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 教育
レポート 海外センター