【ニュース・中国】清華大学、再び『ネイチャー』誌掲載

 
6月21日、丁勝チームの研究成果「低分子化合物カクテルを用いたマウスの全能性幹細胞の誘導」が、世界トップレベルの学術誌『ネイチャー』(Nature)に発表された。

 
哺乳動物であるマウスを主な研究対象としている清華大学薬学院の丁勝氏のチームは、先人の成果を引き継ぎ、再生医療分野において「薬を探し当てる」べく、6年に及ぶ粘り強い研究を続けた結果、全能性幹細胞の体外配向化誘導とその安定的培養を促す「魔法の薬」を初めて発見した。将来的には、孫悟空が毛を吹いて分身の術を使ったように、動物の血液や皮膚など任意の体細胞が、リプログラミングを経て多能性幹細胞に生まれ変わり、「薬」を用いることで、単独で生命体を形成する全能性幹細胞となることができるのだ。

 
丁氏のチームは、研究の重点を、生殖細胞が関与しないこと、多能性幹細胞が単独で生命体を産出できる能力を持った全能性幹細胞に可逆変化する条件を見つけること、可逆変化後の全能性幹細胞が安定的に培養でき、かつ自己複製能を有することの3つに絞った。

 
哺乳動物において、全能性とは、1つあるいは1種類の細胞が胚体内組織および胚体外組織のすべての分化細胞に発育し、その後1つの有機体を形成する能力を有することを指す。マウスの場合は、受精卵と2細胞期胚のみが真の全能性を有している。現在まで、哺乳動物の生命の誕生は生殖細胞のみによって、精子と卵子の結合やクローン技術などを通じて行われてきた。丁氏のチームの研究は、生殖細胞の関与を必要とせず、マウスの任意の体細胞を2細胞期胚と類似の段階に可逆変化させることを可能にするものだ。

 
この可逆変化の過程には、「72変化」する幹細胞の関与が不可欠だ。幹細胞を分化段階および分化能力の高い方から低い方に分けると、全能性幹細胞、多能性幹細胞、単能性幹細胞という順になる。全能性幹細胞は最終的に完全な個体や胚体外組織に分化することができ、受精卵や2細胞期胚が該当する。多能性幹細胞は無限増殖および多方向性分化の潜在能力を有している。胚性幹細胞(ES細胞)がこれに該当する。単能幹細胞は、限られたいくつかの密接な関連性を有する細胞にのみ分化できるタイプで、造血幹細胞などが該当する。

 
体細胞が多能性幹細胞に可逆変化する現象については、既にかなりの研究成果が得られている。たとえば2006年、日本の山中伸弥氏のチームは、表皮細胞に多能性幹細胞の機能を持たせるよう誘導する方法(人工多能性幹細胞=iPS 細胞)を発明し、この研究成果により2012年ノーベル医学・生理学賞を受賞した。しかし、全能性幹細胞以外の幹細胞は単独で生命体を形成できる可能性を持たない。そこで、いかにして多能性幹細胞をさらに進化させるかというのが、生命科学分野の新たな課題となっていた。

 
長い暗闇での模索の末、2020年、丁氏のチームは3種類の低分子化合物の組合せが、マウスの多能性幹細胞の全能特性を有する細胞に誘導することを発見した。3種類の低分子化合物を組み合わせることが、あたかもカクテルの調合のようであることから、この低分子の組合せは「TAW カクテル製剤」と呼ばれた。「TAW の3つのアルファベットは、特定細胞の運命を変える力を持った既知の分子を表しています。しかし、我々が研究を行うまで、これらの分子が共同で全能性幹細胞に誘導する役割を果たすことは発見されていませんでした」と丁氏は言う。

 
大胆に仮説を立て、厳しく慎重に証拠を探していく。「TAW カクテル製剤」を発見後の2021年、丁氏はチームを率いて繰り返し検証実験を行っていた。TAW 細胞が本当に全能性を有しているかを確認するには、全能性幹細胞のうち特異性を有する鍵遺伝子が活性化されるか、多能性幹細胞に関係する遺伝子が休止状態にあるか、エピゲノムなどが体内の全能性幹細胞と著しく類似しているか、胚体内および胚体外の系統に分化できるかといった要素を検証していく。

 
検証の結果、チームは、「魔法の薬」を加えて誘導した細胞では、数百に上る鍵遺伝子がロック解除されていることを発見した。これらの遺伝子は通常、全能性幹細胞の中に見られ、同分野の他の研究者らも全能性確定の基準としているものである。その一方で、多能性幹細胞に関係する遺伝子は休止状態にあった。チームは TAW 誘導した細胞の分化潜在能力を体外でもテストした上、これをマウスの初期胚に注射して、体内における潜在分化能力を観察した。その結果、これらの細胞はシャーレ培養において本物の全能性幹細胞の特徴を表出させただけでなく、体内でも胚体内および胚体外系統に分化し、胎児や卵黄嚢、胎盤に成長する潜在能力を有していることを発見した。

 
このほか、変化しやすい幹細胞であることから、マウスの全能性幹細胞は、自然状態では、遺伝子にプログラムされている方向に瞬時にかつ不可逆的に分裂、分化、成長する。「TAW カクテル製剤」には、全能性幹細胞を「捕獲し」、体外で自己複製させつつ全能性も維持するという重要な機能もある。

 
清华大学 2022/06/22


青塔: 清华大学,再发Nature!


地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究