【ニュース・中国】月の「土産」 南京大学が新発見(1)

 

<<月探査機嫦娥5号が持ち帰った「計り知れない価値の宝」、南京大学に安置された1g の月の土壌から新発見>>

 
 
月の土壌から酸素と燃料を生産することへの期待

 
南京大学の鄒志剛院士・姚穎方教授のチームは、中国空間技術研究院、香港中文大学(深セン)、中国科学技術大学との共同研究で、嫦娥5号が持ち帰った月の土壌サンプルの成分の一部が、太陽光の下で水と二酸化炭素を酸素、水素、メタンおよびメタノールに変換する触媒として利用できることを発見した。チームは嫦娥5号が月から持ち帰った土壌の元素組成と鉱物組成の詳細な分析を行い、太陽光発電を用いた水電解、光触媒、光熱触媒の3項目で月面土壌の人工光合成性能評価を行い、その結果に基づいて、実行可能な月面での人工光合成法を提案した。この研究結果は、月面における生命保障システムを「ゼロ・エネルギー」で実現するための物質的基礎となる。

 
研究者らは今回の発見に基づき、将来的には月の資源を利用して月面基地を建設し、深宇宙探査、研究、旅行を支援することも可能との見方を示した。嫦娥5号が持ち帰った月面土壌は、月表面の非常に年代の新しい玄武岩で、鉄やチタンなど、人工光合成で一般的に使用される触媒成分が豊富に含まれていた。

 
研究チームが機械学習などの研究手法を用いて月面土壌の材料組成を複数回分析した結果、主な結晶体成分が約24種類含まれていることが分かった。このうち人工光合成の優れた触媒として用いることができるのは、イルメナイト、酸化チタン、水酸燐灰石、それに複数の鉄化合物を含む計8種類だった。月面土壌の表面はミクロ孔構造と小胞構造が多数見られ、このミクロ-ナノ構造が月面土壌の触媒性能を高める役割を果たしていた。

 
さらに研究チームは、月面土壌を触媒として、太陽光を用いた水電解、光触媒による水分解、光触媒によるCO2還元、光熱触媒によるCO2の水素化の4項目で人工光合成性能評価を行った。その結果、月面土壌には、太陽光発電を用いた水電解と光熱触媒によるCO2水素化反応において、優れた性能と選択性が見られた。研究チームはこれらの分析を踏まえ、月面環境において月面土壌を利用して人工光合成を行うための実現可能な戦略と作業工程を策定した。

 
具体的には、夜間に月面温度が極めて低温(-173°C)になることを利用して、凝結法を用いてヒトの呼気からCO2を直接分離した後、月面土壌を水分解の電極触媒とCO2水素化の光熱触媒として用いることで、呼気や月表面から採取可能な水資源をO2、H2、CH4、CH3OHに変化させるというものだ。これにより、過酷な月面環境でも適用可能な既存資源を利用したシステムの実用化に近づいた。しかも、必要なものは、月面の太陽光エネルギー、水、月面土壌のみである。このシステムを利用すれば、人類は月面における生命保障システムを「ゼロ・エネルギー」で実現し、月面探査、研究、旅行を支援することも可能になる。

 
同研究の関連成果は、「Extraterrestrial Photosynthesis by Chang’E-5 Lunar Soil」というタイトルで、世界的に権威ある学術誌『Joule』に発表された。
 
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地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究