【ニュース・中国】光明日報:無形文化遺産教育に学部・修士・博士課程が誕生 人材育成は活性化するか?(2)

 
冷遇から学科の人気専攻へ、ブームの渦中にあっても冷静さは必要

 
中国の高等教育機関における無形文化遺産教育は、目下どのように展開されているのだろうか。

北京聯合大学北京学研究所研究員の張勃氏によれば、現在、無形文化遺産保護への高等教育機関の関わりは、多層化、多角化、多ルート化で実施されているという。「例えば2002年には、中央美術学院無形文化遺産研究センター、中山大学中国無形文化遺産研究センターが設立されました。また、無形文化遺産保護を授業で取り上げたり、学術講座を開いたり、無形文化遺産に関する大学院教育を行ったりしている高等教育機関もあり、無形文化遺産保護を広める役割を果たしています。」

 
2021年8月、中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が印刷配布した「無形文化遺産保護のさらなる強化に関する意見」では、「無形文化遺産に関する内容を国民教育の始まりから終わりまで組み入れる」「高等教育機関における無形文化遺産学科および専門コースの設置を強化し、条件の整っている高等教育機関による自主的な修士過程および博士過程開設を支援する」などが明示された。これ以後、高等教育機関では無形文化遺産保護専攻の開設ブームが起こった。

 
だがその過程では、準備が不十分な状態で開設に踏み切ったり、教材・教員の不足などの問題が浮き彫りになったりで、「ブームに乗っかっただけ」と思われる学校も少なくない。「無形文化遺産専攻」の名を掲げながら、実際には戯曲文学や工芸美術等の授業を行い、無形文化遺産保護に関する基本的理論・知識も持たない教員が授業を担当するといった行為は、無形文化遺産保護の責任を担っているとはとても言い難い。

 
以前、こんな報道があった。ある県と某高等教育機関が提携し、少数民族トン族の歌を学ぶ「4年制の学部」が設置されたが、そのやり方は、学校を含む県下の全事業所から1名ずつ学生を派遣させ、1学期にまず国内外の音楽史を10日教え、その後トン族の歌を数曲歌い、残りの時間は自宅で自習というものだった。3年間の課程が「修了」した後は、中国の社会人大学入試(訳注:日本の大検に相当)「国家成人高考」の芸術類の試験(科目は英語、数学、芸術)を受けさせられ、合格すれば学士の学位証書がもらえた。

 
「こんな短い講義と関連性の薄い試験を受けて、無形文化遺産の伝承と保護に何か役に立つんですか」と詰め寄った学生もいた。

 
今回取材を進める過程で、無形文化遺産保護専攻はこれまでの冷遇から学科の人気専攻へ変身し、開設ブームが起こったが、その渦中にあっても、冷静さと慎重さは必要だと訴える専門家は少なくなかった。

 
「学科が設置されたことは大きな進歩ですが、すぐに教員と教材の問題が立ちはだかりました。」中国芸術研究院の研究員・田青氏によれば、ブームにすぐさま反応し、無形文化遺産専門課程を設けた学校もあったが、「門外漢」が授業を担当しているケースがかなり多く、正しい指導をしているとはとても言い難いのが現状だという。

 
教材開発から教員育成まで、無形文化遺産教育は実践重視で

 
高度に専門化された無形文化遺産保護人材を大量育成するために、高等教育機関はどのように力を発揮すべきなのだろうか。

 
馮教授は次の3つのことが極めて重要だと指摘する。1つ目は教材の開発、2つ目は育成目標の確立、3つ目は就職斡旋ルートの確保。

 
「理論や学校教育の下支えがなければ、無形文化遺産保護は盲目的で、非理性的もしくは自覚のないものになってしまいます。無形文化遺産とは何か、無形文化遺産の特徴、歴史、伝承方法、これらの概念をまず明確にしなければなりません。慎重に正しく作られた教材がなければ、体系的な知識は構築できません。」馮教授は今、無形文化遺産保護人材育成のための教材執筆に多くの精力を注いでいるという。馮教授が教鞭をとる中国初の無形文化遺産学学際学科修士課程では、9月に入学してくる新入生の時間割に、「習近平の語る文化遺産」など一連の目玉科目が並ぶ。

 
一方、育成目標の確立について、馮教授は、段階に応じて徐々に進めていくべきだと考える。「例えば、職業教育なら知識と技術の習得を重視する、大学の4年制の学部や修士課程なら研究人材と管理人材の育成に力を注ぎ、博士課程ならハイレベルな研究人材を育成するという具合です」

 
「また、就職斡旋ルートを確保し、育成した人材を最も必要とされる職場に確実に送り込むことが重要です」と馮教授は述べる。

 
蕭放氏は、無形文化遺産学科は科学的、合理的、段階的に構築することが必要で、なかでも教師陣の育成が何より重要だと考えている。「無形文化遺産は、民俗学、社会学、管理学など数多くの学科を包括する非常に学際的な学科です。高等教育機関がグランドデザインと学際的融合に注力することが必要であり、それが無形文化遺産学科の特徴に合致しつつ、現実の需要を満たすことのできる教師陣を育成するカギになるのです」

 
「学科が設置されても、教員がいなければ何の意味もありません。」田青氏も同様の観点を持つ。「専門の若手教員育成カリキュラムを少しでも多く設けることが当面の急務だと言えます」

 
「無形文化遺産保護人材の育成はフィールド重視で行われなければなりません。ちょうど机をフィールドに、大地に、庶民の生活の中に運び出すようにです。」馮教授の構想では、天津大学の無形文化遺産保護大学院では、地方の実践拠点と緊密に連携した育成を行う計画だ。「学生たちはフィールド調査や実践の場での作業に出かけなければなりません。生活を理解するだけでなく、実務もこなせるようになるためです。教育と現実の文化とを密接に結びつけることこそが、無形文化遺産保護学科に活力を与え、現実の需要を満たす道だと考えます。」

 
光明日报 2022/04/26


澎湃新闻: 光明日报:非遗教育有了本硕博,人才培养能否燎原?


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