【ニュース・中国】光明日報:無形文化遺産教育に学部・修士・博士課程が誕生 人材育成は活性化するか?(1)

 
輝かしい文明と「対話」するたび、江蘇省の高校生・楊欣然はその奥深さに何ともいえぬ興奮を覚える。

 
学校の無形文化遺産文化グループのメンバーである楊さんは、他のメンバーらと共に「蘇式船点」という江蘇省の伝統的な点心づくりを学んだり、泥人形制作の体験をしたり、日本ではつづれ織りと呼ばれる「緙絲(こくし)」の技法に触れたりしてきた。15歳の彼女は、脈々と続く中華文明を受け継ぐべく、無形文化遺産保護の専門人材になろうと決めている。

 
だが、何度検索しても、その分野を学べる専門の学校がないことに気付いた。無形文化遺産保護の専門課程を開設している4年制大学はほとんどなく、大学院の修士や博士課程になるとその数はさらに減る。親には「無形文化遺産保護は、趣味としてやるならいいが、仕事としてやるのは無理だ」と忠告されている。

 
「中華の大地には、科学的な技術支援を急ぎ必要としている無形文化遺産が散らばっている一方、関連の技術や知識を学びたくとも学べないでいる若者がいます。対応する学科がない、科目設置が遅れているといった状況により、中国の無形文化遺産保護は苦境に立たされています。」天津大学の馮驥才教授は現状を憂う。だが喜ばしいことに、その苦境は今、徐々に改善されつつある。

 
先日、「蘭州文理学院が4年制の学部に無形文化遺産保護専門課程を設置」というニュースが注目を集めた。記者が調べたところ、教育部は昨年初頭の時点で、無形文化遺産保護を普通高等教育機関の学部専門課程リストに入れていた。無形文化遺産保護と同時にリスト入りしたのは、対照的なことに、「量子情報科学」や「インタラクションデザイン」のような新しい専門分野である。ただ、昨年10月に、中国初の無形文化遺産学学際学科修士課程が天津大学に設置されたことで、「無形文化遺産保護人材の高度専門化育成が加速する」とみられるのも確かだ。

 
緊急保護から科学的保護へ、人材育成こそがカギ

 
無形文化遺産保護は、なぜ一連の新業態と共に学部の専門課程として新設されるに至ったのだろうか。
現在、中国では、国、省、市、県の4レベルで、それぞれ中国の特色ある項目のリストが作成されているが、それによると、代表的無形文化遺産が10万点あまり、代表的国家級無形文化遺産が1,557点、認定済みの伝統村落が6,819あるという。

 
数多くの貴重な無形文化遺産を継承することは喜ばしいことである。だが一方で、懸念すべき数字もある。第12次五か年計画の期間中、文化遺産保護・管理に携わる人材が合計で10万人以上不足していたというのだ。

 
「中国には膨大な量の文化遺産が存在しますが、人材はまったく追いついていません。日本や韓国は世界に先駆けて無形文化遺産保護に乗り出した国で、どの無形文化遺産にもその分野の専門家がついていますが、中国の無形文化遺産の大部分は専門家がついておらず、後継者も育っていません。無形文化遺産の存在を把握したら、次は『緊急保護』から『科学的保護』の段階に移行するべきなのですが、科学的な技術支援と科学的判定が絶対的に不足しているというのが、目下最大の弱点となっています」と馮教授は言う。

 
「忠実な記述者、知識豊かな解読者、活性化を担う推進者。」北京師範大学社会学院人類学民俗学科主任の蕭放氏は、健全な無形文化遺産保護チームはこの3つの役割を果たさなければならないと考えている。

 
しかし実際には、「健全」どころか「安定」すら実現できていない地方が多い。「地方では文化遺産保護に従事する人材が不足し、煩雑で重い保護任務が担えずにいます。人材の学歴構成も理想には及ばず、保護業務の質の保証が課題となっています。特に理論研究に携わる人材が少ないことから、無形文化遺産保護に対する深い研究が欠如しており、保護業務の科学化、適正化が実現できずにいます。」と蕭氏は訴える。

 
ある末端文化部門の責任者の話によれば、無形文化遺産保護の責任は、省、市、県など各レベルの文化センターが指定を受けて担っていることがほとんどだが、スタッフの高齢化、流動性の低さ、専門家の少なさ、学歴・職位の低さ、実際の業務に従事する人に対するOJTや継続教育の不足により、新たな情勢下での無形文化遺産保護業務における膨大な資源の全数調査、フィールド調査、資料整理、プロジェクトの紹介文や映像の制作、保護計画の策定と実施といった技術的、学術的、実践的業務に対応し、担っていくことが困難な状況となっている。

 
専門人材がいなくては、無形文化遺産の科学的保護など望むべくもない。ある研究者は、一定の理論的素地と管理に精通した専門人材が不足していることから、無形文化遺産保護業務には地方によって偏りがあると打ち明ける。例えば、文化生態保護区を観光地、さらには開発区にしてしまったり、無形文化遺産の生産性を保護する取組みをしているのに、利益を追求し始め、伝統手工芸の肝となる技術を捨て去ってしまったりといったことが起こっているが、これらはすべて無形文化遺産保護の原則に背く行為である。

 
「問題の根本は、中国の大学の学科開設にあると思います。文化遺産学、民芸学などはまだ独立した学科として認められていません。中には無形文化遺産保護と研究に関する科目を設置している大学もありますが、学科としての地位が確立されていないため、無理やりそれに近い学科にコースを設置するしかないのが現状です。独立して学生を募集することができず、学科名として掲げることもできないので、卒業評定もコースを設置させてもらっている学科の専門内容を優先にしなければなりません。無形文化遺産の教育・研究はまだまだ超えなければならないハードルが山ほどあるのです。」そこで馮教授は言う。「無形文化遺産に関する専門教育が高等教育の中に組み入れられれば、計画的に絶やすことなく人材を育成することができます。これは無形文化遺産保護事業そのものに必要であるだけでなく、将来、中華文化のすばらしさを伝える中核を担う人材を育てることにもつながります。」

 
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