【ニュース・中国】7年間で3度に分け14省で実現 新「高考」改革で変わった点・変わらなかった点(2)

 
科目選択の誘導メカニズムを段階的に整備

 
第1弾の「高考」改革試行の実施後、科目選択指導がまだ不十分だったことと、一部の生徒や高校が実利重視の姿勢をとったことなどが重なり、
「物理を捨てる」高校が現れた。

 
「物理学の自然科学における基礎的な地位は、他の科目では代替不能です」と国家教育考試指導委員会専門家グループメンバーの陳志文氏は言う。
さらに言えば、物理は科学的思考法を構築するなどの面でも極めて重要な役割を担っており、青少年の時期に基礎学科の訓練を受けておかなければ、
最良の学習機会を逃してしまうことになり、キャリアを長い目で見たとき、大きな欠陥になってしまう可能性がある。

 
「浙江省の高等教育機関で、2017年度、2018年度、2019年度入学の学生に対する追跡調査を実施した際、高校での選択科目が大学の専攻課程の要求
に適合していない場合、入学後に困難を感じる学生がいることが分かりました。」王氏が所属するチームで行った調査結果も、専門家らの懸念
を裏付けている。

 
改革の過程で生じた問題は、改革を通じて解決しなければならない。

 
「『3+1+2』の最重要目的は、受験生および保護者の『高得点化』を狙った功利主義的選択を抑制することでした。」陳氏はそれでも、一概に受験生
と保護者を批判することはできないと述べる。受験生からすれば、より高得点が望める科目を選んで組み合わせることも「理性」的な選択だからだ。

 
「たとえ最初は実利的な理由であったとしても、受験生と保護者には、物理をはじめとする伝統的理系科目を選択するよう伝えたいです。」物理を
代表とする伝統的な理系科目を選択することには3つのメリットがあると陳氏は言う。

  1. 理工系専攻の方が就職しやすいこと。
  2.  

  3. 大学受験がしやすいこと。物理を受験科目に選択すれば、90%以上の専攻を自由に選択できる。さらに、大学の60%を超える専攻は
    理系であるため、より大学に入りやすいと言える。統計によれば、2017年度に浙江省の「高考」で物理を選択した生徒の受験先は、
    本科(4年制大学)の割合が物理以外の科目の組み合わせで受験した生徒より23%も高かった。
  4.  

  5. 子供の将来の進路変更の余地を残しておけること。理系からの文転は比較的容易だが、「文系からの理転は、天才でない限り無理」
    だからだ。

 
このような結果になった理由は、省や学校による差のほか、国と地方の政策誘導とも関連がある。例えば、教育部高等学校教育学習指導委員会は2017年
以降、高等教育機関の92の専攻に対し、受験時の選択科目に対する要求について熱心に指導を行った。その結果、ほとんどの高等教育機関が選択科目
に関する要求を改善した。

 
「改革当初は、多くの高等教育機関で受験時の選択科目に対する理解が浅く、明確な要求を設けていないところが多かった」と教育学習指導委員会の
ある専門家は指摘する。「高等教育機関は、専攻課程における人材育成の実情および高等教育機関のカリキュラム体系を考慮し、受験科目に対する明確
な要求を提示し、高等教育と基礎教育における人材育成の効果的なマッチングを図る必要がある。」

 
目下、高等教育機関が公表している選択科目の要求を見ると、大多数の理工系専攻では「物理」が必須科目になっている。他にも特色ある要求を提示
している専攻も多く、公安系では「政治」、医学系では「化学」「生物」、歴史系では「歴史」「地理」などが必須科目に指定されており、高校に
おける教育・学習を効果的に導いている。

 
「高等教育機関から必須科目が明示されるようになり、受験生も選択がしやすくなっています」。実は、選択肢というものは多ければ多いほどよいわけ
ではなく、だからといって好き勝手に選べばよいというものでもない。やはり将来の進路と密接に関わる科目を選ぶよう生徒を誘導する必要がある。
とある高校の校長はそう吐露する。

 
より深い変化は「まだ道半ば」

 
2014年にスタートした「高考」改革は、「どう試験するか」だけでなく、「どう募集するか」にも関わる、中国の教育体系における系統的な改革である。
しかし、利害関係者が多いこともあり、3度の実践を経てもなお難題が存在していると言わざるを得ない。

 
難題は、それが重要であるが故である。ある専門家はメディアの取材に対し、この改革で最も重要なのは、「2つの根拠と1つの参考」という「高考」
選抜モデルを確立したことに他ならないと指摘している。「2つの根拠」とは国語・数学・外国語の3科目の「高考」の成績と3つの選択科目の成績を、「1つの参考」とは総合資質評価を合格者選抜の参考条件とし、かつそれを活用する裁量権を高等教育機関に委ねたことを指す。「試験の点数だけを判断材料
とせず、総合資質評価を合格者選抜の条件とすることについては、目下のところまだ一気呵成に成し遂げることは不可能です。なぜなら、中国社会
ではまだ完全な信用システムができあがっておらず、現時点では『1つの参考』とするしかないからです」と陳氏は言う。

 
ただ、「高考」改革試行省の一部では、新たな試みも進んでいる。例えば浙江省では、「三位一体」の総合評価で選抜を行っている。

 
浙江大学の公式ホームページには、同校が今年浙江省内で実施した「三位一体」総合評価による募集要項が掲載されている。それによると、募集対象
は2021年浙江省「高考」の出願条件を満たし、各科目で普通高校学業水平考試に合格しており(=不合格の科目がない)、高校在学中の総合資質評価
のうち「品徳」の最終評価等級が「優(A)」または「良(B)」で、突出した得意科目があり、専攻課程に対する明確な志願目的があり、身心ともに健康
で、品行・学業共に優れ、全方位的に成長の見られる優秀な普通高校卒業見込者とされている。願書を提出し、一次審査に合格した者は大学での面接
試験に挑み、最終的には「『高考』の成績」「面接試験の成績」「普通高校学業水平考試の成績」を規定の割合で合算した「総合成績」を基に合否
が判断される。

 
「総合評価により選抜された学生の追跡調査を行ったところ、入学時には必ずしも『高考』の成績上位者ではないのですが、全体的な資質が非常に
高く、言語表現能力、企画管理能力、学習計画能力のいずれも優れ、学業においても高い潜在能力を発揮していることが分かりました」と王氏は言う。

 
教育部の公式統計によると、中国の2020年度における高等教育機関の粗就学率は54.4%であり、「十四五(第14次五か年計画)」では、期間中に
これを60%まで引き上げることが掲げられている。つまり、中国の高等教育はすでに普及段階に入っており、高等教育機関には質が高く個性を重視した
人材育成を行うことが求められる。同様に、「高考」の合格者選抜改革もより質の高いものが求められる
ことは想像に難くない。改革に終わりはない。
「高考」のより踏み込んだ改革はまだ模索中であり、今後も改革案が続々と打ち出されていくことだろう。

 
2021/08/24


澎湃新闻: 国家教材委:扎实推进习近平新时代中国特色社会主义思想进课程教材


地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 政府レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育
人材育成 入試・学生募集、学生の多様性