【ニュース・中国】香港科技大学(広州)開学 学部・学科のない新大学は何が違うのか

 
香港科技大学(以下、「港科大」)のイノベーション精神を象徴する紅鳥の日時計が粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ・グレーターベイエリア)の幾何学的中心に聳え立っている。香港科技大学(広州)は3年の建設期間を経て、9月1日、南沙の地に正式に開校した。同校は第1期生として500名の修士・博士生を迎えた。来年からは学部生の募集も始める。

 
「学院」「学系」(訳注:学部に相当)を設けず、「拠点」「学域」を創り、世界初の学科融合型大学を目指す、この大湾区で最も新しい高等教育機関は、どのように学生を育てていくのだろうか。

 
拠点+学域

 
開校した南沙の港科大は、港科大の単なる分校なのだろうか。決してそうではない。

 
港科大(広州)と港科大は実際のところ、それぞれ独立した大学だが、学校運営に関しては「一体・相互補完」スタイルを採っている。両校は法人格も財務も独立しており、教育、研究、知識移転等の各方面で差異化した発展を目指しているものの、資源を共有し、強みを補完し合い、かつ学術的基準やレベルは一致している、と港科大の史維学長は語る。

 
具体的に言うと、両校の学生はカリキュラムと研究施設を共有しており、選択科目の相互履修、単位の相互認定が可能で、港科大(広州)の卒業生も港科大の学位を取得することができる。港科大(広州)は港科大の単なるコピーではなく、港科大に既にある学科と重複することなく、港科大が確立した学問的基盤を基に、イノベーションならびに新しい学術的枠組と人材育成モデルを探求することに重点を置いている、と港科大(広州)の倪明選学長は語る。

 
倪学長が中国共産党の一般向け雑誌『半月談』の記者に語ったところによれば、現在、人類社会が直面している挑戦は、単一の学問分野のみで解決できるものではなくなっており、学際的協働の重要性が増している。しかしながら、従来型の学部・学科の枠組みは規定や制限があまりに多く、学際的探求の取組みもいつの間にか自然消滅していることが多い。港科大(広州)では、伝統的な「学院」および「学系」に代えて「拠点(ハブ)」と「学域(スラスト)」の2段階の枠組みを取り入れている。これは世界の高等教育界において初の試みである。

 
港科大(広州)の呉景深副学長は、ハブ空港が世界の各航空会社を結ぶように、学術的ハブも人類社会の発展ニーズを見据え、様々な地方出身の学生を集めて、プロジェクト方式で学生自身に専門知識体系を身に付けさせ、メンタリティを鍛え、持続可能な発展を遂げるための能力を養っていくものだと語る。

 
現在、大学では、機能、情報、システム、社会の4つの学術拠点が設置されている。各拠点は特定の総合的・構造的な課題を指向し、その下に複数の学域が集約されて融合する。現在学域は合計15に及ぶ。拠点は相対的に固定化されたものであるが、学域には「賞味期限」がある。国や社会のニーズに大きな変化が生じた場合は、学域の設置に関し再検討が行われると呉副学長は言う。

 
プロジェクトベースの教育

 
9年の海外留学経験を持つ趙子昂さんは、世界の高等教育機関からいくつもの合格通知を受け取ったが、最終的に選んだのは港科大(広州)の修士課程学生となることだった。「学際的学門分野という枠組みに一番引かれました」。学部時代に他学科の学生と共同プロジェクトを立ち上げたことのある趙さんは、学門分野を超えてアイディアがぶつかり合う時に名案が生まれる興奮が強く印象に残っていた。その感覚に導かれ、南沙に来ることを決めた。

 
「本学では、さまざまな分野が融合することで総合的・構造的な問題、すなわち、人類社会の発展が現在または将来に直面する課題を解決することを重視しています。」このため、同校では斬新な人材育成方式を取り入れていると呉副学長は言う。

 
「紅鳥修士クラス」というイノベーションプロジェクトは、学際人材育成の直観的事例となる。伝統的な修士課程の専攻区分モデルを廃し、「未来の医療・健康・ヘルスケア技術、持続可能な生活、スマート工業化」という今後人類が直面する3つの重要課題を中心に「学生中心」で教育活動が進む。

 
紅鳥クラスの学生は、入学して最初の6か月は専攻を分けず、共通の興味関心を持つ学生とチームになり、解決したい構造的な問題を選定する。チームのメンバーはそれぞれが独自の研究課題を設定し、全員で同じテーマに取り組む。この過程で、学術指導教員1名、プロジェクト指導教員1名、企業派遣の指導教員1名が付き、共同して指導にあたる。

 
同校の授業は「モジュール式」カリキュラム市場を全面的に開放し、真に「学生の適性に応じた教育」を実現する。学生は研究課題に応じ、必要なカリキュラム・モジュールを選択し、それぞれのカリキュラムを組み、個々の即時的学習能力を養い、学んだことを応用する。

 
「私たちが最初に教えることは、デザイン思考です。最初の6か月は学生の問題提起能力を鍛えます。残りの18か月は、学生自身が問題解決に取り組みます。この過程で、自分の考えをチームメイトに伝えるコミュニケーション能力を養い、さらにメーカースペースなどに行き、実際に体を動かして行動に移すことで実践力を鍛えていきます」と倪学長は言う。

 
教師の役割も従来とは異なる。若い時は誰もが理想を抱いているため、教師は学生の内に秘められた理想を刺激し、理想を追求する力を持っていることを学生自身に意識させ、その上で理想を実現するための道筋を見付け、理想の実現に必要な基礎を固めるための指導をする。それが教師の役割だと港科大(広州)機能拠点マイクロエレクトロニクス学域主任代行の須江は言う。

 
上記から、試験はもはや答案用紙に書くものではなく、模範解答も存在しない。試験問題は例えば「研究の過程で生じた問題について、5分から15分程度にまとめてチームメイトにプレゼンしなさい」といったような具合だ。「必ずしも何らかの構造的な問題を解決しなければ卒業できないという訳ではありません」と呉副学長は言う。「本学の学びの基準は、学生自身が選んだ研究課題に取り組む過程で十分な深化を遂げ、それを示すことができるかどうかです」

 
産学研を分かたず

 
港科大(広州)では、新学期の始めに全新入生に課題を与える。それは「美しい新キャンパスを経済的かつ効率的に維持するためにはどうしたらよいか」というものだ。これは実は同校のカーボン・ニュートラル計画の一部になっている。

 
港科大(広州)学長特別補佐兼事務所主任の李斌氏曰く、グリーンキャンパスの建設は同校のビジョンであり、なおかつ同校にはカーボン・ニュートラルの面で優れた研究実績を持つ教員が在籍していることから、これを課題に据えることで、学生のトレーニングになるとともに、学内で研究成果を生かす道を模索する意味もあるという。

 
企業・大学・研究機関(産学研)の有機的結合は、港科大の「金看板」だった。2021年の統計によれば、香港で誕生した18社の「ユニコーン企業」のうち7社は港科大から生まれている。港科大(広州)はこの伝統をどう発揚していくのか。

 
倪学長によれば、港科大(広州)の秘策は、大湾区内の成熟した製造業の蓄積を武器に、南沙と香港・マカオの全面協力を契機として、南沙と香港の共同発展を補う完全な科学イノベーションチェーンに着目していくことだ。

 
産業界が課題を出し、学術界が解答を出す。中国の重要業界の一部に過度な海外技術依存が見られる昨今、同校は自らの研究資源を生かし、技術的ブレークスルーのための「必須問題」に答える用意がある、と港科大(広州)機能中枢先端材料学域主任代行の高平氏は言う。

 
「海外に留学していたとき、中国に帰国して起業するのが夢でした。港科大(広州)は粤港澳大湾区という地理的に非常に有利な場所に位置しているので、将来的に大きな事業を起こせる可能性は十分あると思います」。全く新しい大学の第1期生となった趙子昂さんは、学域と拠点に無限の可能性があり、すべての道は大湾区の奇跡のような星空に通じていると信じている。

 
2022/10/9


澎湃新闻: 香港科技大学(广州)已开学:不设院系,这所新大学有何不同


地域 アジア・オセアニア
中国
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行政機関、組織の運営 組織・ガバナンス・人事
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