【ニュース・中国】公布間近の「学位法」、研究不正の抑制なるか?専門家は高等教育機関主体の学位授与推進を提案(2)

 
高等教育機関主体の学位授与を推進すべき

 
事実、論文の盗用・剽窃等の問題について、教育部門はこれまでに幾度も関連規範を打ち出して取締りを行ってきた。例えば、教育部は「本科卒業
論文(設計)抽出検査弁法(試行)」を印刷、配布し、2021年1月1日以降、本科卒業論文(設計)の抽出検査試験業務を始動させ、年に1度、
前年度に学士号を授与した学位論文を対象に、原則として2%を下回らない割合で抽出検査を実施するよう求めている。

 
意見募集稿の関連規定は、研究不正という「難病」を完全に押さえ込むことができるのだろうか。これについて、21世紀教育研究院副院長の熊丙奇氏
は慎重ながらも楽観的な見方をしている。熊氏は、意見募集稿は現行の学位条例と比べて内容が増えてはいるが、高等教育機関主体の学位授与という
肝心な問題が回避されていると指摘した。

 
熊氏は言う。中国の学位管理システムはこれまで一貫して、国、地方、学位授与組織の3段階から成り、国が厳格な計画管理を実行し、学位授与
権限の審査、学科・専攻の設置、学位の評定、証書の発行等をすべて全国統一の行政計画下に置いている。しかし国際的に見ると、多くの国では
高等教育機関が主体的に学位を授与している。

 
このやり方なら、学位取得者が大量生産されることがないばかりか、大学側の管理責任を大幅に拡大することができる。熊氏はまた次のように説明
する。現下の全国統一の学位授与制度では、学位授与権限を取得した高等教育機関は、育成の質を重視することはない。なぜなら、授与する学位は
すべて国の承認を経たものであり、大学側は実際には国の代理で学位を授与しているに過ぎないため、育成の質に対する責任を追う必要はないからだ。

 
これが、中身の伴わない学位が氾濫する根本的原因である。大学の主体的運営、学位の主体的授与を柱とする学位授与制度を実施すれば、大学は
育成の質に責任を持たざるを得なくなり、学生が学校を選ぶ際も、どこの大学を卒業したかという肩書重視から、そこで得られる教育内容を重視する
方向へと変わり、中国の高等教育機関の「金太郎飴」状態を改善する一助となる。

 
儲朝暉氏も同様の意見だ。「意見募集稿では、中国の学位管理体制を国務院学位委員会、国務院教育行政部門、省級学位委員会、高等教育機関学位
評定委員会、および学位評定委員会の下部に設けられた若干の分科会に分けているが、依然として既存の国家学位管理体系が維持されている。」
この体系は現行の行政体系に呼応するものではあるが、行政の権力構造は階級が多く複雑で、学術機関が学位の質を確保するプロセスのそれぞれで
高いハードルが存在し、客観的に見て研究不正が起こりやすいシステムになっている。

 
「すべての学校の学位が学位委員会により授与されている状況においては、実際には上から下まで多数の主体が学位の質の責任を負っていることに
なり、授与資格のある高等教育機関が対外的に一貫した対応を行い、自身が発行した学位の質に最後まで責任を持つという責任意識が希薄になる
ことは避けられない。内部管理においては、学位授与者と教育、育成、評価に関する各プロセスにおいて、責任および権限の境界線が曖昧になり、
互いに牽制し合う状況が発生する」と儲氏は指摘する。

 
儲氏曰く、今回の意見募集稿では、「法により高等教育を実施する高等教育機関および科学研究機関が承認を得て学位授与組織となり、対応する
学科および専攻の学位授与資格を取得して有資格高等教育機関となった場合は、取得した権限に基づき学位を授与することができる」という表現
が用いられているが、学位は国務院学位委員会が授与するのか、それとも有資格高等教育機関が授与するのかという重要問題への対処は明確に
されていない。まさにここが高等教育機関主体の学位授与における要であるにも関わらず、である。

 
高等教育機関主体の学位授与に関しては、これまでにも類似の試みが行われた。2018年4月、国務院学位委員会は「高等教育機関における学位授与
権限の自主審査実施に関する意見」およびリストを印刷、配布し、北京大学、清華大学、中国人民大学等20の高等教育機関が学位授与権限の自主審査
を承認された。

 
しかし、儲氏によると、実際には、高等教育機関には今なお多くの制限が課されているという。いかにしてより積極的に高等教育改革に対する
「放管服[訳注:行政の簡素化、権限の委譲、権限移譲と管理の結合、サービスの最適化]」の要求を貫き、学位授与業務を高度に行政化された
直接管理および厳格な計画管理から解放できるかという問題は、研究不正を根本からなくしていくための鍵となる。

 
同様に、学位授与機関の自主性と裁量権を尊重して、体制および機能の面から学位の質に対する高等教育機関の責任を拡大して、学位の質と学校自身
の信頼性および成長の機会確保とを直接的に結びつけていくことも重要である。これは、改正学位法が模索すべき方向性であるとともに、中国に
おける高等教育改革が避けては通れない問題でもある。
 
2021/3/30


澎湃新闻: 学位法呼之欲出能否遏制学术不端?专家建议推进高校自授学位


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