【ニュース・フランス】科学界において女性はあまりにも頻繁に不可視化されている

 
2020年7月、国立研究機関(ANR)は、2020年から2023年までの男女共同参画とジェンダー主流化のための行動計画を採択した。社会学者で ANR のジェンダーアドバイザーである Laurence Guyard 氏に、主な活動内容、進捗状況、進行中の行動についてインタビューを行った。

 
ANR は、どのような背景から男女共同参画とジェンダー主流化のための行動計画を策定したのか?

 
Laurence Guyard 氏:第9回高等教育・研究における男女共同参画に関する欧州会議(ESR)で当時の Najat Vallaud-Belkacem 大臣が発表したことにより、特に2016年以降、徐々に好ましい文脈が形成されてきたと言える。その際に、高等教育・研究における男女間の不平等を是正するための行動をとることを約束し、2017年の行動計画で正式に決定した。この流れは、2019年の公務員改革に関する法律で強化され、ESR の組織や機関における行動計画の策定が要求されることとなった。

 
そこで、ジェンダー行動計画を策定するにあたり技術的な支援を受けたいと考え、CIRAD(開発のための農学研究国際協力センター)が、主催する European Gender-SMART プロジェクトのパートナーとなった。まず、2019年1月から7月にかけて、Gender-SMART プロジェクトの一環として、組織内の大規模なセルフアセスメントを実施した。この協働的なアプローチにより、ジェンダー行動計画を構成することができた。

 
2020年から2023年にかけて、どのような分野に取り組む予定か?
 
Laurence Guyard 氏:この計画は、実行委員会と緊密に連携して作成したものである。CEO であるThierry Damerval の強い支持は決定的な要因であった。なぜなら、経営陣が信念を持って支持しなければ、計画の実行はより困難になるだろうと考えたからである。私たちの計画には3つの軸がある。一つ目の軸は、組織の文化と構成に関するものである。第二の軸は人材管理で、人事部とともに、社会的バランスシートの指標、採用手続き、報酬に関する政策などを精査した。最後に三つ目の軸は、我々のコアビジネスである研究費助成に関するものである。ANR の Studies, Analyses and Impact ユニットと協力し、包括的プロジェクト公募(AAPG)の下で応募、採択、助成を受けたプロジェクトについて2017年から分析を実施し、研究評価にジェンダーバイアスが存在することを確認した。

 
この初期作業では、プロジェクト評価、内部組織、人事のいずれの面でも、女性と男性の間に大きなギャップは見受けられなかった。これにより、すでに実施されているアクションをよく検討し、今後取るべきアクションを見定めることができた。

 
不平等と戦い、ジェンダーバイアスを減らすための主要な方策は何か?

 
Laurence Guyard 氏:研究プロジェクトの分析は体系的に構築されなければならない。なぜなら、私たちは常に偏見がそのプロセスに入り込まないようにしなければならないからだ。ANR では、評価委員会(科学委員会と同等)において委員の男女割合を規定しているが、これも同様であり、必ずしもここに固定観念がないとは言い切れない。

 
そこで、2020年、2021年の AAPG のデータについて、引き続き分析作業を行った。また、人材管理に関する分析を行うことは、起こりうる格差を特定し、それを是正するために不可欠な手段である。そのため、雇用補償や昇格・賞与の配分を分析し、社内で報告するとともに、社会報告にも掲載している。

 
もう一つの重要な方策は、研究活動にジェンダー/セックスの視点をいかに統合するかについてだが、この問題はまだあまり認知されていない。これは、科学の整合性と社会的責任の一端であり、研究成果の潜在的な帰結を予測する必要がある。生物学の例がわかりやすいだろう。一般向けの製薬の開発に際しては、男性と女性両方を対象に臨床試験を行う必要がある。私は ANR においてジェンダーの専門家であると同時に倫理と科学的整合性の専門家でもあるため、この問題に対してグローバルなアプローチをとることができたのである。AAPG2021 では試験的に、プロジェクト・コーディネーターにジェンダー/セックスの視点をどのように研究プロジェクトに組み込んでいるかの説明を求め、AAPG2022 の第2ステージでは、これを評価基準として含めることに成功した。また、これらの問題を総合的に考えるために、CIRAD と共同で、研究評価や知識の涵養におけるバイアスに焦点を当てた「研究におけるジェンダー」シンポジウムを開催した。500人以上の参加者には、すべての科学委員会委員および法制委員会委員が含まれていた。現在、ANR、CIRAD の共同で、会議の主な成果をまとめたレポートを作成している。

 
また、男女共同参画の概念や課題について、組織内の評価員やスタッフの意識を高め、トレーニングを行うことも重要な手段である。現在、委員長を対象に研修を実施しているが、今後は全委員に拡大したいと考えている。私たちは ANR のスタッフ向けに専用のトレーニングコースを開発し、近日中に提供する予定である。また、ジェンダーの固定観念にとらわれないインクルーシブなコミュニケーションのための非規範的なガイドを作成し、組織内で共有しているが、これは私たち全員がこれらの概念について考え、省みるきっかけとなるはずである。

 
科学界において頻繁に不可視化される女性の地位向上も、ANR のジェンダー行動計画の重要な取り組みとして位置づけられている。2017年に開始したアクションを引継ぎ、「科学における女性」のビデオ集は、新たなインタビューを加えてさらに充実した。実際にANRは、プロジェクトが採択された女性研究者や、委員長として評価プロセスに参加した女性研究者を積極的に登用している。

 
最後に、セクシャルハラスメントや性差別の防止と対策は重要な課題である。そのため、ANR では、通常の内部調査に加えて、事例の報告・対応に関する専用の手続きを設けている。ANR のジェンダー行動計画に含まれるアクションのうち、70%近くが実施され、良好な結果となっている。

 
Gender-SMART プロジェクトは、ANR のジェンダー行動計画にどの程度貢献したのか?

 
この行動計画は、Gender-SMART プロジェクトでのコラボレーションによって培われ、実施されたアクションは、またこのプロジェクトにフィードバックされている。Gender-SMART の枠組みでは、ANR のジェンダー研究担当でプロジェクトマネージャーの Angela Zeller とともに、特にジェンダーバイアスに関するレポートや、機関文書にジェンダーの視点を組み込むための戦略的提言など、いくつかの重要な成果に貢献した。これらのアウトプットは、欧州レベルの研究機関や研究助成機関を対象とし、プロジェクト終了の2022年内に公開される予定だ。この点で、私たちの社会学分野における研究とこの分野の専門性は、非常に複雑なメカニズムと問題の一部であるジェンダー問題に取り組む上でのコンソーシアム内での付加価値となる。

 
現在、取り組んでいる分野は?

 
Laurence Guyard 氏:フランス規格協会(AFNOR)が認定する「平等」ラベルの取得を視野に入れ、申請書を提出した。これにより、ANR の取り組みが目に見える形で認知され、長期的に登録されるようになる。更に、私たちの行動に伴って、「多様性」ラベルが取得できるよう願っている。

 
現在、AAPG2021 に応募されたプロジェクトにおける、ジェンダー/セックスの視点の統合の試験的導入に関する分析を受け、フィードバック文書を執筆している。このフィードバックは、当該アプローチをすべてのプロジェクト公募に適用するための材料となる。

 
また、2019年には、昇格を希望する ANR の女性職員に優先的に提供される組織内メンター制度も実験的に導入した。今後もこの取り組みを継続しつつ、ANR の外部の方とのメンタリングへ拡大し、女性職員がプロフェッショナルなネットワークを広げられるようにしたいと考えている。
 
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地域 欧州
フランス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 質の保証
人材育成 研究人材の多様性