【ニュース・フランス】ブレグジットに対するヨーロッパでの研究

 
 ブレグジットの後には、イギリスと強大な科学協定を締結しているフランスそして国立科学研究センター(Centre national de la recherche scientifique:CNRS)は、ヨーロッパでの研究について基本方針の見直しをしなければならないとしている。2020年1月31日、イギリスはEUから離脱する。ヨーロッパ研究プログラムであるHorizon 2020において、イギリスは現在ドイツに次ぐ2番目に多い助成を受けている。

 
EU離脱の期限までイギリスはプログラムに参加することができるが、2021年にスタートするヨーロッパの研究・イノベーションの枠組みプロジェクトHorizon Europe(2021‐2027)について、現在イギリスには、その参加協定に関する交渉期間が1年しか残されていない。すでにある課題として、まずそのプログラムへ参加する権利と人の移動制限がある。交渉後に、もし合意することが出来なければ、離脱後イギリスは、カナダや日本と同じ第三国としての加入条件を満たす必要がある。

 
 欧州研究評議会(European research council:ERC)プログラム(イギリスから毎年、他の参加国より多くの参加者があり、イギリスはERCの予算の20%を負担している)の例外として、イギリスは費用を負担することによって次のHorizon Europeに参加することが出来る(しかし、幹事国になることはできない)。

 
 Horizon 2020について、ノー・ディール(合意なき離脱)の場合、イギリス政府は、国内でプロジェクトに採択されている科学者に対して、期限まで財政的な補償のための事後交渉をしていくとしている。「しかしその状況では、物事が想定されているよりも複雑になる。財政面について、イギリスが全て保障する必要があり、金銭的保証には確固とした契約が必要である。」と、2014‐2019に欧州研究評議会議長であったJean-Pierre Bourguignon氏は説明する。

 
 合意できた場合、スイスやスウェーデンと同様にイギリスは、「アソシエート(準加盟国)」としてヨーロッパでの研究における立場を維持することが出来る。EUとイギリスの両者がGDPの1.7%を研究開発に割き、Horizon 2020に13億ユーロの貢献をしてきたイギリスが、次のHorizon Europeプログラムに参加することを望んだ場合、協定に関する重要なポイントは議論の余地があるだろう。

 
 「Horizon Europe協約の枠組みにおいて、‘‘賦課方式’’での負担とした場合、プロジェクトの選定作業に関わることができず、イギリスはそれをEUに任せることになる。独立を望む国にとって、これは政治的な問題となるのか?それを我々は交渉の中で模索することになるだろう。」と、Jean-Pierre Bourguignon氏はコメントしている。その他に、この第三弾の新たなHorizon Europeの柱である、イノベーションのためのヨーロッパ議会(Conseil européen pour l’innovation:EIC)は、新技術を支援し、企業の利益獲得につなげる可能性を秘めている。EICついては、資金に関する問題だけでなく、ヨーロッパ以外の国が参入し得る将来のイノベーション市場の財政的な権利についても問題となる可能性がある。」と前ERC議長は強調する。

 
 イギリスは現在、ERCの公募プロジェクトでの成功によって、Horizon 2020プログラムへの参加国の中で唯一プラスの収益を上げる国である。ブレグジットの後は、自国の研究者がプログラムに参加できるように、政策的な縛りに対応しなければならない。

 
 イギリスは、2016年から財政的な負担が低下しているように(2015年の16%から2018年の11%へ)、プロジェクトの調整役としての役割が低下している。また、イギリスの高等教育機関の魅力の低下、イギリスで科学・学術的な職業に就いている人の「ブレグゾダス(イギリス脱出)」のような問題もある。

 
 ヨーロッパ、そしてイギリスと戦略的パートナーであるフランス(3,000人のフランス人研究者がイギリスにいる)の損失は大きく、特に共同著者という点において世界で二番目のパートナーであるということからも、その影響は想像できる。「CNRSとインペリアル・カレッジ・ロンドンが共同で始めた博士奨学金プログラムがあるが、健康、特にゲノムの分野においてフランスとイギリスは重要な協力関係にある。

 
 また航空宇宙分野においても強い協力体制にある。我々はつねにコンタクトをとりながら、協力体制を続けていけるように努めていくが、実際ブレグジット後、イギリスは違う体制に舵を取っていく可能性がある。」と在英フランス大使館科学技術顧問のJean Arlat氏は述べている。

 
 CNRSは、Horizon 2020の枠組みプログラムの中で、ドイツに次ぐ大きなパートナーの離脱に直面する可能性がある。イギリスとは398にのぼる進行中の協力プロジェクトがあり、共同論文の数はアメリカ、ドイツに次いで三番目に多い。

 
 2018年におけるCNRSの国際ミッションのうち、イギリスとのミッションは6%であった。ブレグジットの悪影響を防ぐためCNRSは、共同体制の仕組みを補完する戦略的パートナーを増やしていくとしている。

 
 2018年に設立されたCNRSとインペリアル・カレッジ・ロンドンのアブラームドモアブル数学研究所および2020年に始動する予定であるCNRSとケンブリッジ大学コンプモーフ研究所(生命科学)は国際リサーチ研究所(International research laboratories:IRL)であるが、オックスフォード・フランス校(IRLはオックスフォード大学とパートナー関係にある)に頼りながら、フランス国内の機関はイギリスとの関係を継続することが可能となるだろう。

 
 「ブレグジットによって、オックスフォード・フランス分校にスポットライトが当てられている。1946年にこの分校は設立されたのだが、まるでフランスの機関として存在していたかのように、今まで全く注目されたことが無かった。

 
 そして今日、我々はブレグジットへの準備の中で関係を強めていくための協定に調印した。」とオックスフォード・フランス分校のFrédéric Thibault-Starzyk学長は述べた。更にCNRSは、3つのIRLに加えストラスクライド大学と国際共同リサーチプロジェクト(International research project:IRP)を行う。

 
 また32の国際リサーチネットワーク(International research networks:IRN)、14の国際的な新たな取り組み(International Emerging Actions:IEA)、15の共同研究プロジェクト、フランスを拠点とするIRLとの協力活動(特にオックスフォード大学と一緒に)を行う予定である。
 

1月30日
 


CNRS: L’Europe de la recherche face au Brexit

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