【ニュース・ドイツ】「クリティカルシンキングにおける大学の役割は、これまで以上に重要である 」

 
7月上旬から、過去にDAADに資金提供を受けた多くの同窓生が、#IgotFundedByDAADというハッシュタグを使って、DAADの資金援助が自分にとってどのような意味を持つのかをシェアしている。このハッシュタグは、あるDAADの元奨学生が始めたもので、現在では1,800件を超えるツイートがインターネット上に見られる。さらに、DAADのニュースシリーズでは、数名の元奨学生が、DAADの奨学金が彼らのキャリアや人生にどのような影響を与えたかより詳細に語っている。このシリーズの締めくくりとして、25年以上にわたって世界中の政府、大学、その他の機関に助言してきたグローバルな高等教育の専門家、Jamil Salmi博士の記事を紹介する。彼はDAAD Aktuellに、国際的な学術交流の重要性及び危機的状況下における大学の役割について語っている。

 
私の個人的・職業的な経験では、奨学金を得て海外で勉強することは人生を変える経験です。専門的なトレーニングや知的経験だけでなく、他国で生活し、他の教育研究機関を訪れ、他の人々と出会うという経験もできるからです。また、最近では、外国の大学、たとえばドイツの大学に行くと、ドイツ人の学生だけでなく、世界のさまざまな国や地域から来た学生、ときには外国人の教授に出会うこともあり、そういった経験はあなたをオープンマインドにしてくれます。寛容さを学び、異文化を理解し、さらに自分自身の国の文化についても知ることができ、非常に良い経験になります。

 
しかし、それ以上に重要なのは、自分の国に戻ったときの貢献について考えることです。そして、他の二国間助成機関と比較して、DAADについて非常にポジティブな意味で印象に残っていることが1つあります。何十年もの間、DAADは、自国に戻る学生や専門家が、個人としてだけでなく、自国の教育研究機関に積極的に貢献する機会を持つことができるように、非常に注意を払ってきました。DAADは、このことがもたらしうる組織的な影響に常に敏感です。例えば、新しい知識と経験を持って帰国した研究者は、奨学金以上のものを得て所属機関で働くことができますし、卒業したばかりの者は学んだことを活かすためにDAADからリソースを得ることができます。彼らは孤立することなく、研究に没頭しかつての指導教員と協力し合うこともできます。

 
国内のDAAD同窓生が持つ強力なネットワークは、個人として、あるいは所属機関の中において達成できること以上に、専門的な目標を追求したり、自国でプロジェクトを遂行したりするのに非常に役立つと実感しています。そして、今回のパンデミックを経て、このようなネットワークが、国内だけでなく国際的にもいかに重要であるかを目の当たりにしました。ネットワークは、パンデミック中に経験した多くの困難を克服するのに、個人的にも仕事面でも役立ちました。これらのネットワークは、教育や研究だけでなく、学問以外の専門的な場面で解決策を見出す際にも、彼らを支え続けました。

 
現在の危機を前にすると、責任のなすりつけ合いをしたり、他者を非難したり、孤立状態に陥ったりするのは簡単です。しかし、批判的探求という意味での大学の役割は、このところますます重要になってきています。アメリカでは政治の分極化、イギリスではブレグジットの結果としての孤立主義、そしてパンデミックの際にもそれを目の当たりにしました。科学が否定され、エビデンスが否定され、フェイクニュースや陰謀論と真実の区別がつかなくなってきているのです。 そのため、批判的思考や問題解決、科学的研究に触れることができる大学での経験は、今日、より重要なものとなっています。気候変動がもたらす悲惨な影響は言うに及ばず、私たちの地球は今、第二次世界大戦中に私たちの両親が経験したような、本当にひどい状態になっています。私たちが直面しなければならないことがたくさんあるのです。科学的・専門的な思考や倫理観を身に着けることもまた、留学の経験の一部です。

 
私が多くの国で見てきた課題のひとつは、公共政策に介入しようとする学者に対する敵対的な反応です。しかし、文化や科学の面で存在感を示すという要素は、大学の存在がいかに不可欠であるかを社会に認識させる上で非常に重要です。例えば、ベルリン自由大学(Freie Universität Berlin)は、公開講座や博物館、植物園などの一般公開を通じて、地域社会やベルリン市内で強い存在感を示しています。これは、大学が果たす非常に重要な役割の一例に過ぎません。大学は、「私はこんなに素晴らしいのです」と言うのではなく、「私はこんなふうに社会に貢献できるのです」と言うべきなのです。例えば、カナダのマギル大学(McGill University)では、長年にわたり、一般市民を対象とした「サイエンス・ウィーク」を開催し、楽しい方法で科学のアイデアを広めてきました。これは、大学が担う非常に重要な機能です。既にそういった取り組みを行っている大学はもちろん、他の大学においても、市民との繋がりを持ち、我々自身も文化や科学、知識の進歩を再認識するために、そのような活動に取り組むべきです。

 
私は多くの国で新型コロナウイルスが大学に与える影響を見てきました。大学は、機器や検査の提供、ワクチン研究の支援だけでなく、何が起こっているのかを説明することで社会に貢献したのですから、大いに誇っていいと思います。自分たちが知っていることを正直に話すことは、とても重要です。というのも、世間は「何も知らないのなら信用できない」と言うからです。ですから、覚悟を持って話すと同時に、何がわかっていて何がわかっていないのかを正直に伝え、なぜ不確実性があるのかを説明する必要があります。そして、今日の世界では、より多くの不確実性があり、より複雑であることを受け入れる必要があるのです。今起きていることは、VUCA(脆弱性、不確実性、複雑性、曖昧さ)という概念で非常によく表現されています。これは、冷戦後に政治学のアナリストが使った概念ですが、今日でも非常に有効です。

 
誰もが普通の時代に戻りたいと願っています。しかし、今この時代が我々にとっての普通の時代なのです。より複雑で困難な時代であり、その中で大学は大きな役割を担っています。これは、大学とそこで働く人々との協力だけでなく、大学と地域社会の連携についても言えることです。自治体やNGO、企業との関わりを深めることが、これまで以上に重要になります。

 
2022年12月6日


DAAD:„Die Rolle der Universitäten in Bezug auf kritisches Denken ist wichtiger denn je“


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ドイツ
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